エンジニアリングマネージャーはどう学んでいくのか

発表の目的

認知科学の知見を使って、EMが組織の問題解決のためにどう学べば良いか考える

「成果に責任を持つ」とは

  • 成果が定義されていなければ、定義する

  • 定義した成果が出ていなければ、出るように組織を改善する

定義した成果が出ていないときは

  • 成果の定義に問題がある

  • もしくは、組織に成果を阻害している問題がある

エンジニアリング組織の問題解決はEMの主要な責務

定型問題と非定型問題

ハーバート・サイモンによる分類

定型問題

  • 明確に定義され、解決策がすでに確立している問題

    • 処理系Ver.Upで起きたエラーへの対応など

非定型問題

  • 定義が曖昧で、標準的な解決策がない問題

    • 所属チームにスクラムを導入するなど

定型問題の解決

  • すでに誰かが解決し、手順が公開されている可能性が高い

  • この手の情報を得る手段はたくさんある

    • 書籍を調べる

    • 検索エンジン・百科事典サイトで調べる

    • 生成AIに聞いてみる

非定型問題の解決

  • その人が世界で初めて遭遇する問題

    • 当然、そのまま使える解決策は世の中にない

  • 問題をどう定義するかも自由

  • 解決策は自ら立案し検証するしかない

推論の分類

  • 演繹法推論

    • 規則を適用して行う推論

  • 帰納的推論

    • 特殊事例から一般法則を導く推論

  • アブダクション推論

    • ある事実がなぜ起こったか仮説を立てる推論

    • チャールズ・パースが提唱

解決プロセスとの対応

ここまでのまとめ

  • EMが解決する問題には、非定型問題が多い

  • 非定型問題を解決するには、推論の働きが必要

つまり推論の精度を上げれば、問題解決の精度と速度が上がる

推論の精度上げるヒント

1. 知識が一般性を持つ過程

  • 様々な事例に当たることで、知識の一般性が上がる

  • 一般性が上がれば

    • 知識が文脈情報に引きずられにくくなる

    • 規則と情報の関係が薄そうでも、両者を結び付けられる

2. 思考の多様性とひらめきの相関

  • 様々なパターンで考えられる方が、ひらめきを得やすい

  • ひらめきを得やすければ

    • 仮説をたくさん思いつきやすい

    • 一見、意外に思える仮説にも辿り着きやすい

3. 学習による脳資源の解放

  • 特定の処理が定着すると、同じ処理でも脳の負荷が落ちる

    • すなわち、思考に使われる短期記憶への負荷も落ちる

  • 短期記憶の容量には限りがある

    • 負荷が小さい処理の方が思考に使われやすい

ここまでのヒント

  • 知識の一般性を上げると、演繹的・帰納的推論の幅が広がる

  • 多面的な思考をすると、アブダクション推論の幅が広がる

  • 定着している処理ほど、推論に活用されやすい

学習の四本柱

  • 注意

  • 能動的関与

  • 誤りフィードバック

  • 定着

学ぶ対象が決まっている時、重要なのは

  • 能動的関与

  • 誤りフィードバック

  • 定着

能動的関与

  • 意味的処理が深いほど、良い学習になる

  • 単語処理の深さの実験
    単語リストを提示し、グループごとに別々の課題を出す

    • 1:各単語は大文字か小文字か

    • 2:各単語の韻はchairと同じか

    • 3:各単語は動物を意味するか

  • 記憶をテストすると、グループ3の成績が遥かに良かった

誤りフィードバック

脳の誤差信号が学習の原動力となる
 ニューラルネットワークのモデル

定着

  • 睡眠によって学習したことが定着する

    • 1日以上の間隔を空けて、繰り返し学習するのが有効

  • 眠っている間に知識の定着だけでなく抽象化も進む

ここまでのまとめ

  • 意味的処理を深く行う

  • 自らの誤りにフィードバックを受けられる状態を作る

  • 間隔を空けて、繰り返し学習する

学習法

1. 書籍から学ぶ

点検読書

  • 概要と構造の把握

    • 本のテーマがどう説明されているか

    • 章ごとに導入・まとめがあるか

  • 全体の流し読み

    • 知らないことがどれだけ書いてあるか

本の構造によって精読法を変える

→点検読書と精読法を組み合わせて、読書を2段階でするのが良い

2. メモして振り返る

  • 意味的処理を深く行う

    • 書き起こすことで、もう一度意味的処理を行える

  • 自らの誤りフィードバックを受けられる状態を作る

    • 自分の行動を客観的に見られることで、誤りフィードバックを自ら行える

  • 間隔を空けて、繰り返し学習する

    • 振り返りを行うことで、自ずと繰り返し学ぶことになる

ここまでのまとめ

  • 読書を2段階に分けることで、幅の広さと精読を両立させる

  • メモして振り返ることで、仕事からの学習効果を上げる

とにかく続ける

  • 幅広く学ぶ」には続けることが必要

    • 量をおこなさなければ、知識の幅は増えない

  • 深く定着させる」には続けることが大事

    • 自らに「誤りフィードバック」するには、続けなくてはならない

    • 「間隔の空けた繰り返し」は、続けなければ成し得ない

EMの学びは「継続は力なり」

全体のまとめ

  • EMが取り組む問題は、相対的に非定型問題の割合が多い

  • 非定型問題の解決には、推論が重要な役割を果たす

  • 推論の精度は幅広く学んで深く定着させることで上がる

  • 効率よく学ぶには意味的処理・誤りFB・繰り返しが重要

  • これらを活かした学習法を継続するのがEMの学び

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