普通のふりして生きてきた~ちょっと病気がちな奴が健康なふりをしている回想録⑯~

脳炎だの小児喘息だの腫瘍だの白血病だの色々やった私だが、健康上で一つだけ自慢だった事がある。


それは、二十数年間一度もインフルエンザに罹った事が無い、という事であった。

突如崩れ去った幻想

運よく病気に罹らない多くの人がそうであるように、私もまた「私はウイルスに強い」という意味の分からない幻想を抱いていた。

26歳の時点ですでに脳炎、喘息、腫瘍を経験した私だったが、学生時代から流行病の類には罹った事が無かった。おたふく風邪もやった事が無いのではないか。

そんな私の幻想は、脆くも崩れ去る事となる。

ある日突然、インフルエンザの疑いが浮上したのだ。

ある春の晴れた日の出来事

当時の私は花の20代後半、世は数年後に新型ウイルスが蔓延するなど知る由もなく、「今年もインフルエンザが流行り出したね」と風物詩か何かの様に皆が囁き合っていた。

私はそれまでインフルエンザに罹った事もなく、インフルエンザを完全に舐め切っていた。

その年はA型とB型、どちらも流行っていて、症状がただただ発熱の人もいたし、お腹を下して困ったっていう人もいた。うちの会社は本人がインフルエンザに罹った場合一週間、家族が罹った場合は五日位出勤停止の措置を取っている。

完全に他人事の私は、罹って治った人の話を聞いて「大変ねー」というばかりだったのだが、ある日突然、自分が発熱した。

社畜の私は朦朧とする頭で出社し、熱がある事がバレて帰され、まだ外来時間に間に合う時間帯だったので、朦朧とする頭で自分で車を運転して病院に行った。(良い大人は真似しないでね)

病院に着いた時点の検温で38度をたたき出してたので、「しめしめ、こりゃあインフル陽性が出て一週間自宅療養になるな。大手を振って休めるぜ」と思っていた。

看護師さん「おべん・チャラ―さん、診察室へどうぞ」

へへへ、休み中熱下がったら何しようかな、と内心舌なめずりをして、私はお医者の先生の前に腰を下ろした。

先生「陰性ですね」

I☆N☆SE☆I

えっ、こんなに熱出てるのに嘘だろ。こりゃあ間違いなくインフルエンザだぜ(経験ないけど)

私「えっ、あ、陰性、なんですか? 私これ、なんか絶対症状的にインフルかなーって思ってたんですけどハハハ」

先生「いやー、僕もそう思うんですけどねー。だって熱がこんなに出てるんでしょう? 絶対そうだと思うんですけど、(陽性)出なかったんですよー」

マジかい

私「えっ、あ、でもこのままだと熱下がらなくて苦しいんで、お薬とかもらえたり……」

先生「お薬出すともう『インフルエンザ』っていう診断になっちゃいますけど、いいですか?」

私「はい……あ、それと会社に出す診断書とか貰えたりって」

先生「あ、はい、診断書だけで大丈夫かな? 会社によっては○○って書類が必要になる場合があるけど……」

私「あー、ちょっと分からないんで、上司に連絡して確認とっていいでしょうか」

先生「はい、どうぞ」

そして一旦診察室を出て、会社の上司の電話番号をPUSH。

プルルルル……

上司『はい』

私「お疲れ様です、私です。今病院に来ているんですが、インフルエンザ診断の場合の書類って……」

上司『えっ、陽性だったの?』

私「いや、熱が凄い上がってるんだけど、陰性です。でもお医者さんは、限りなく陽性に近い陰性でしょうと……」

上司『あー……申し訳ないんだけど、陰性って診断出たなら会社の決まりで休ませれないから、診断書貰ってこないでいいよ』

私「えっ、でもお医者さんは『陰性って出てるけど、診る限り陽性だから書いてもいいよ』って言ってくれてるんですけど……」

上司『うん、でも決まりだからごめんね……。その分連休に変えておくからゆっくり休んで』

私「あ、はい、わかりました……(通話終了)」

マジか、この会社

診察室に戻るアテクシ。先生「どうだった?」

私「一回陰性って出たなら陽性で診断書貰ってくる事は出来ないと……」

先生「はぁぁ!? えっ、イイの? これ絶対インフルエンザだけど!?」

私「まあ、会社がそう言うんで……診断書は諦めます……」

ショックやらしょんぼりするやらだけど、とにかくまた熱が上がってきたようなので、その時点でもう早く帰りたい私。

不憫に思った先生が、薬だけ出してくれました。ありがたや。

そして帰宅してその薬を飲んで、早めに就寝した私、すっかり熱が下がって元気になりました。

絶対インフルだったじゃん。インフルの解熱剤効いたからこれは絶対インフルじゃん。

次の日も同じ病院を受診してもう一度検査したけどやはり陰性。熱が下がってから陽性出ても逆に困るけどさ。

いや、でもここまでくるとやはり、私はまだ生涯でインフルエンザに罹った事が無いと言い張ってもいいのではないか。

逆転の発想。ポジティブに考えるの大事。ただそれは、何の肥やしにもならないが。

神からの投げ銭受け付けてます。主に私の治療費や本を買うお金、あと納豆を買うお金に変わります。