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いわゆる【名作】の紹介
現在、書籍の発行点数は年間約8万冊
1日にすると、約219冊
昔の名作まで読んでいる暇はないと思うので、
私が50年ほど前から読んでいた、いわゆる
【名作】と言われている本を紹介させていただきます。
【森鴎外 高瀬船】
森鴎外は明治から大正にかけての小説家
医者の家計で自身も軍医で、ドイツ留学の経験もあります。
小学生のときに読んだ記憶では
【安楽死】をテーマにした小説という認識でしたが
今回再度読んで、そこにはもう1つ鴎外が伝えたいテーマがあったことに気付きました。
あらすじを書きますので、もう1つのテーマは後で触れたいと思います。
☆登場人物
◎弟殺しの罪で、遠島の刑を受けた罪人 喜助
◎喜助を船で護送する同心 羽田
喜助は弟殺しの罪で遠島の刑となり
同心の羽田は船で喜助を護送する役割です。
もともと遠島の罪人は物取りや、人を殺めたような凶悪な罪人ばかりではなく、
例えば、心中で死にきれず生き残ってしまうと言うような、同情を禁じ得ないような咎人も多くいました
罪人を運ぶ高瀬船には、
お上のお情けでその罪人の親類縁者の一人が
大阪まで同乗を許されます。
護送にあたる同心は、彼らが夜通し語り合う内容からその身の上を細かく知ってしまいます。
心根の優しい同心だった場合は
彼らの境遇に涙を堪えかねる場面もあり、辛い仕事でした。
同心、羽田のそんな役目の日
その日、送られる罪人、喜助には同乗する親類はいませんでした。
喜助は、いつもの罪人たちと違い
本当に晴れやかな明るさがありました。
同心の羽田は、その顔つきを不思議に思い、役目を逸脱する覚悟で、喜助に問いました。
喜助は
「自分は今まで、さんざん苦しい目をしながら生きてきて、その苦しさを思えば島流しも苦にはならず
食べ物ももらえて幸せです。」
「お上は命を助けて下さって島へやって下さったばかりか二百文もいただきました。」
「お恥ずかしい事を申し上げなくてはなりませんが、今日まで、二百文というお足(お金)を懐に入れて持ったことはございません」
「娑婆の自分では模様うもないこのお金は、島暮らしの元手にしたいと思います」
羽田はこの話から喜助のこれまでの、厳しかった身の上に思いを馳せ、敬意すら感じます。
このような男が弟を殺したのか
と言う疑問から
罪人である男に対し
「喜助さん)
と呼び掛け、弟殺しの成り行きを問いました。
そして、喜助はこうなった経緯を語ります。
子供の頃に親が病死し、弟と二人、近所の家の小間使いや、施しでなんとか力を合わせて生き延びてきました。
しかし弟は病気になってしまいました。
貧しい中で喜助は働き、弟を養いました。
そんなある日、仕事を終えて、住まいである掘っ立て小屋に戻った喜助は
喉にカミソリが食い込んだ血だらけの弟を発見します。
弟は治りそうもない身なので、兄にこれ以上の苦労をかけるのが忍びなく、自ら喉笛を切ったのでした。
しかし、死にきれず、弟は兄に
喉のカミソリを抜いて死なせてくれと頼みます。
驚いた兄は医者を呼ぼうとしますが、そんな金もないことも知っていて、このまま逝くことを必死の眼差しで訴えます。
迷う喜助を睨むその目には
切望のあまり憎々しげな表情さえ浮かび
それに押されて喜助が抜くことを承諾したとたんに
弟は晴れやかな、嬉しそうな表情となりました。
その時、近所の老婆が小屋に入ってきて殺人とされたのでした。
喜助は弟を安楽死させた殺人の罪での流罪でした。
同心の羽田はその真実に心を痛め
罪人なのに安らかな様子だったことに納得するとともに自らは、疑問も感じたのでした。
☆「苦から救ってやろうと思って命を絶った。それが罪であろうか」と
ただその疑問は自分の中で答えとして出ず、
「オオトリエテ(オーソリティ)に従うしかない
奉行所の判断に従おう」と結論づけます。
話の内容は以上です。
この小説は
一般的には「安楽死」を題材としているとされますが
もう1つ
「足るを知る」《知足者富 足るを知る者は富む、という老子の言葉から来ている》
と言う考え方もテーマとしています。
お金も地位もある同心の羽田は
その境遇でもまださらに、欲するものがあるのに
何も持っていない喜助は
わずかなものでも、感謝し、満足していて
無意識に「足るを知る」と言う考えのもとに
生きています。
考え方としては
野心も無く、それで良いのか?
とも思います。
鴎外はどちらのテーマについても結論付けている訳ではなく、読み手に投げ掛けています。
もう1つのテーマである「安楽死」ですが、
安楽死を題材として書かれた小説では
日本では初と言われています。
最近も安楽死関連の殺人(内容は全く違います)
があり、100年以上たった今でも決着のつかない題材となっています。
医者でもある鴎外だから扱うことが出来たのかも知れません。
内容的に不十分と思われる方は
小説をお読みいただきたいと思います。
冒頭でも言いましたが、本の数は無限にあり、
すべては一生かかっても読みきれないと思うので、
昔の本をまた、ご紹介できたら、と思います。