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婚約は春の深まる森の中

婚約こんやくはるふかまるもりなか

医者たちはかの女を助け得ると思つてゐた、
然し娘は今年になつて死んで行つた、

娘は森の花ざかりに死んで行つた。
余所の木の葉がもつと青いかは誰が知らう?

それだのに娘に残された人たちが泣いて惜んだ、
然し私は生き残つた娘たちのために泣きたい

やがて人妻となり、やがて子供を生み
やがて小鳥も花も唄も忘れる娘のために泣きたい

医者たちはかの女を助け得ると思つてゐた、
ともすると娘は自分の真の運命を理解したのかも知れない。

かの女は森の花ざかりに死んで行つた、
彼女は余所にもつと青い森があると知つてゐた。

ギイ・シャルル・クロス『小唄』堀口大學訳
アーサー・ヒューズ《四月の恋》1855 - 1856年
テート・ブリテン

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