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冷たきは世間の風よ竈猫

つめたきは世間せけんかぜ竈猫かまどねこ

 かま猫はあたりまへの猫にならうと何べん窓の外にねて見ましたが、どうしても夜中に寒くてくしやみが出てたまらないので、やつぱり仕方なく竈のなかに入るのでした。
 なぜそんなに寒くなるかといふのに皮がうすいためで、なぜ皮が薄いかといふのに、それは土用に生れたからです。やつぱり僕が悪いんだ、仕方ないなあと、かま猫は考へて、なみだをまん円な眼一杯にためました。

宮沢賢治『猫の事務所 ……ある小さな官衙に関する幻想……』
藤田嗣治《猫のいる自画像》1926年 三重県立美術館

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