m2エッセイ「自分、エッセイいいすか。」第二回
第二回 田舎暮らしとオタク今昔
今さら私が言うまでもないが、都会に暮らす人の連想する「田舎」と田舎に暮らす人のそれにはだいぶ隔たりがあるようだ。
つい先だっても「イオンくらいしか娯楽がねえ」と中堅地方都市をけなしたツイッター(意地でもXと呼ばない派)アカウントが炎上していたし、「定年後はゆっくり田舎で…」などと意気揚々と移住したまでは良かったが想像以上の不便さや地元住民との軋轢で「こんなはずじゃなかった…」となる話は枚挙にいとまがない。
おおむね都会の人々が連想する田舎というのは
・空気や水がキレイ!
・物価が安い!
・適度に自然がある!
・車ですぐのところにそこそこ開けた街があるので買い
物や娯楽に困らない!
・純朴でバカだから近所付き合い楽そう!
・よって田舎暮らしサイコー!
と脳みそハチミツ漬けにしたような妄想の産物であろうかと思う。
さっそく秋田県という「田舎の代名詞界の不動の王者」に住まう私がその幻想を粉々に打ち砕いてやるが
・空気はまあ否定しないが、水は場所による。
かつての鉱山近くだと水質悪いぞ
・物価?まあ地場産の魚や野菜はそういう傾向もあるが
消費量が少ないし、大資本の店が都会より少ないので
物によっては高くつくぞ
・適度な自然?自然しかないが?なんならクマの天国な
ので命の危険があるぞ
・イオンしか娯楽がない?ホントの田舎ってのはイオン
すらねぇよ
・田舎の人間がみんなのどかで優しいと思ってるか?
田舎こそ閉鎖的で既存のコミュニティの代名詞だぞ?
とまあ、「住みてえなら住んでみやがれ」のマイナス情報ばかりだ。
ところで炎上した彼が言う「遊ぶ場所」って何を指すのだろうか。
私が彼を遂に理解し得ない所以はそこなんだと思う。
「利便性」なら解るのだ。
イベント会場が多い都市部、特に首都圏へのアクセスが近くて便利、とか。
都会生まれ都会育ちの方は家からコンビニ徒歩圏内、とか当たり前だろうし、コンビに行くのにすら車が必要な環境はハードルが高かろう。
では「遊べる場所」とは???
オタクの私にとってクラブだとかは一切興味も需要も無い場所なので本当に理解できないのだ。
つまる所「何をもって遊びとするか」が若い世代の「都会と田舎」の分水嶺となろう。
畢竟言い換えるとその人にとっての「遊び」が充分に供給される以上、何処に住もうと不満はそう大きくはならないのではないか。
思えばアラフィフ以上の世代に属する地方住みオタクの青春時代は暗黒でしかなかった。
まず見たいアニメが地元で放送されない。
放送されている地方に住む知人に録画してもらうという方法があるが、そうした知人を持つ事自体ハードルが高かった。
なればこそ古のオタクは「ファンロード」を購読し、コミケに出かけ人脈を広げたのだ。
普段のやり取りだって電話か肉筆しかなかった。
そして人脈を持たぬオタクはアニメがビデオ(円盤ですら無いぞ)化され、レンタルショップに並ぶのを一日千秋の思いで待ち焦がれるのだ。
だがメジャー作品ならソフトが複数あるのでまだ良い。
マイナー作品で店側も一本ずつしか仕入れていない場合ならば先に借りられてしまうともう終わりだ。
いつ返却されるとも知れぬビデオソフトがある事を祈りレンタルショップへ通う日々が始まる。
もう心境は「プレデター」の「チェーンガンのおっさん」の「逃がすかクソッタレぇ…」である。
ゲームソフトにしたってそうだ。
「昭和の懐かしニュース映像」で「ドラゴンクエストⅢ」の発売日に行列をなす映像を見たことがある方も多いと思う。
あれは決して異常事態ではないのだ。大作が出るときはああだったのだ。
「発売日に遊びたい?じゃあ並べ」が鉄の掟だった。
ダウンロードで並ばずに品切れも心配せず新作ソフトが遊べる日が来るなんてあの行列にいた我々は想像すら出来なかった。
そして何よりも。
オタクの地位は今よりもさらに低かった。
中学・高校にもなってアニメを見てるやつなんてカーストの外だった。
時代は変わり、今やどんなアニメもサブスクで視聴が可能だし、同じ作品を愛する仲間同士が何処に住んでいようとネット回線を通じ多人数で作品への愛を語ることができるし、ゲームソフトだって発売日午前零時にダウンロードでの入手が可能だ。
果てはアニメやゲームのイベントやライブに配信で参加できる。
無論、興奮や感動は現地参加に一段落ちるが「参加すらできない」時代は終わった。
言ってしまえば「イベント開催地へ遠い」事しか地方住みオタクのデメリットは無くなったのだ。
何処に住もうとネットさえ繋がる以上はほぼ大半のオタク欲を満たせる時代になったのであり、地方格差はかなり縮まったと言えるのでは無いか。
思うに、情報化社会の恩恵を最も受けし者こそオタクではないか、と私は考える。
だから若きオタクよ、配属先がどこだろうと心配すんなよ!!(ニチャァ…)
えっ何、このオチは。