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【蓮ノ空感想文】 「わが母校、蓮ノ空女学院」
2024年3月9日、10日。
ラブライブ!シリーズのユニットが一同に集うという、ファンが夢にまで見た一大イベント「ユニット甲子園2024」が行われた。
実際の高校野球を模した全校全ユニット入場。
一番最後に入場したその学校へ向けられた声援はひときわ大きく聞こえ、一種の「熱」を帯びているかのように感じられた。
蓮ノ空女学院。
ラブライブ!シリーズで最も新しく、本格始動からようやく1年を迎えるその「ルーキー」達が姿を現した瞬間に会場全体を包みこんだ音と熱量が、果たして真に物理的なものだったのか、配信で参加ではあったが興奮状態にあった私の心理的な作用によるものなのか。
2022年春。
ラブライブ!シリーズの最新シリーズとして「バーチャルスクールアイドル」プロジェクトが始動との報せが届いた時、私の第一印象は今だから正直に白状するが
「バーチャルスクールアイドル?なんじゃそりゃ?」
「あれか?YouTubeでなんか配信とか動画とかか?」
「まあ、観てみて微妙なら無理して追わんでもええわ」
くらいの物だった。
第一報の時点では何も想像できなかったし、実感できなかった。
もっと無礼な言い方をすれば興味すら抱いていたか怪しいものだった。
それは後に受ける衝撃の大きさを思うと、静かな出会いであったと思う。
やがて季節は秋へ移り、我々はついにその学校を知る。
蓮ノ空女学院スクールアイドルクラブ。
背中しか見えないが、夕陽に向かい合う6人の少女が描かれたキービジュアル。
依然として何が起きるのか、おぼろげにすら見えなかったけれど、間違いなく心の水面に小さな波紋を起こすには十分だった。
そして波状攻撃のように繰り出される新情報の数々。
舞台は石川県金沢市。
明らかになる6人の少女たちの姿と名前。
そして迎えた2023年2月10日。
メンバー&キャストお披露目の生放送。
動いて、話して。彼女たちが間違いなく眼の前にいる。
最初に3Dキャラクターとして登場し、キャストさん達が登場。
形の見えなかったものが、突如として輪郭があらわになり、我々と出会う。
それは今まで見たこともないアプローチ。
1,2年生のみの6人のスタート、すでに決まっているユニット名。
何もかも「異質」な幕開け。
だがそこには違和感はなく、不安もなく、ストンと腑に落ちたような心地がした。
「衝撃」は続く。
同日に公開されたデビューミニアルバム「Dream Believers」試聴動画。
時間にしてわずかに9分41秒。
6つの珠玉の楽曲たち。
我々は即座に理解し、確信した。
「新しいラブライブ!が始まるのだ!」と。
~ 胸に舞い降りた小さなヒカリを
もっと追いかけてみたい…もっと!
これは新しい日々の始まりなんだ
知らない世界へ思いっきり飛ぶよ ~
そうだ。
先が見えないから何だ。
どうなるか分からないから何だ。
今、彼女たちが指し示したヒカリを、共に追うのだ!
この日そう決意したラブライバー、後の蓮ノ空のこと好き好きクラブのみなさんは多かったのではないだろうか。
そして、4月15日を狂おしい気持ちで待ちわび、即座にLink!Lik!ラブライブ!(以下リンクラ)アーリーアクセス版をダウンロードしたのではないか。
だが、この時になってもまだ我々は(少なくとも私は)真に理解していなかったのだ。
「推しちゃんの出てるアプリで遊ぶぜ~!」程度の認識だったと思う。
そう、今なら分かる。
我々は、蓮ノ空女学院の門をくぐったのである、と。
リンクラを手に取って、「活動記録」に目を通してみる。
入学し、これから始まる高校生活が楽しみで仕方がない花帆にマシンガントークで話しかけられて辟易するさやかのやり取りは観るものを微笑ましい気持ちにさせてくれた。
それはまるで同じ車内に居合わせたかのような心地。
眼の前で繰り広げられて行く物語は、我々を徐々に金沢へと引きずり込んでいく。
頑張りすぎる花帆を心配しながらも見守る梢。
起きてしまったアクシデントで2人の絆はより深まって行く様を見て我々はハラハラしながら推移を見守った。
スリーズブーケの始動を見ながら過去の自分を思い出し一歩踏み出せない綴理とフィギュアスケーターとしての自分、スクールアイドルとしての自分を見つめるあまり自信を失うさやかを見て、この2人に何かしてやれないのかとやきもきしながら日々を過ごした。
幼き日の約束を実現させようと日本へ戻ってきた瑠璃乃、その約束をもう果たせないと悲観して動けない慈を見て2人の背中を押してあげたい衝動に駆られ、幼き日の約束が実現するよう祈りながら日々を過ごした。
そう、我々はいつの間にか蓮ノ空女学院の在校生であるかのように、彼女たちの級友であるかのような心境になっていなかっただろうか。
そして物語が一区切りしたタイミングで毎月開催されるFes×LIVEで歌われる楽曲たちに触れて我々は歌詞の中に込められた意味に気が付き、ある者は胸を熱くし、ある者は涙してきたのでは無かったか。
そうまでしてようやく我々は気がつくのだ。
いつの間にかリンクラを手にしたその日から我々は蓮ノ空女学院のいち生徒としての日々を歩み始めていたのだ、と。
配信や動画を見守るその有り様はスクコネに熱い視線を送る「あの世界」のいち学生のそれに他ならない。
リンクラを手にした人々の境遇は見事なまでに異なる。
中高生(もしかしたら小学生も)、大学生、社会人。
老若男女の別なく、雪深い北国に生きる者、大都会で暮らす者、厳しい酷暑の地方で生活する者。
そんな人々は等しくリンクラを起動しさえすれば石川県金沢市にあるというその学校へと等しく誘われる。
小中学生はこれから体験するであろう「未来の」高校生活に触れる。
高校生は同時進行で異なる「現在の」学園生活を過ごす。
大学生、社会人は「過去の」高校生活を新たに追体験する事になる。
それは疑似体験でありながら実体験という、もはや言葉で説明できない事態。
いつの間にか我々は蓮ノ空という「事件」の只中にいた。
この文章を書いている3月後半。
SNSを見れば、間違いなく訪れる沙知先輩との別れに悲しむ声をよく見かけるし私とて同じ気持ちだ。
そして春を迎え新たな新入生を迎える事への緊張や不安の意見も見られる。
この心境が「在校生」のそれでなくて何だろうか。
だから、今なら言えるのだ。
あのユニット甲子園における大声援は「推しスクールアイドル」へのそれではない。
在校生が「わが母校を代表するスクールアイドル」に贈るそれであったのだと。
間もなく「蓮ノ空女学院の新年度」が始まる。
初々しい高校1年生も、単位に頭を悩ます大学2年生も、期待と緊張で身を震わせる新入社員も、転勤で新たな職場へやってきたベテラン社員も、リンクラを開けばみな等しく蓮ノ空の新2年生だ。
出会いや別れに身を焦がしながら、「もう一つの新年度」を楽しみたい、そう思うのだ。