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「停滞か、飛躍か。エクセルを手放さないまま2025年を迎える企業の行き先


最近、どんなビジネスカンファレンスに行っても、あるいはWEBメディアを覗いても、「AI」というキーワードが踊っています。2025年はさらにAIが本格化するのではないか──そんな予感がひしひしと伝わってきます。一方で、日本企業の中には、まだAIを使うどころか、予算化すらしていないというところも少なくありません。AIコンサルや顧問的なポジション、あるいは社内チームを組成する話題を出しても「そこまでは考えていない」「エクセルで十分」「うちのシステムはリプレイスが難しくて…」で終わってしまう。

しかし、このまま2025年を迎えると何が起きるのか? ここでは、AI導入をめぐる諸問題や、来るべき「AIエージェント」「AIワークフロー」時代の展望、さらには「企業形態」そのものが変化していく兆しについてまとめます。途中には、Excel愛好文化や古いシステム連携の弊害といった“日本企業あるある”も容赦なく盛り込みました。これから何が起きるのか、そしてどう動くべきなのか。自社の行く先を考えるヒントになれば幸いです。


1. 「まだAIなんて必要ない」と言い切る会社が抱える深刻なリスク

「ウチは今の業務で手一杯だから」「IT予算も限られている」「AIなんて早すぎるし、お金かかりそう」。こうした声、現場レベルでは少なからず聞こえてきます。特に中小企業や、伝統的な業務フローを重視する組織ほど、新規テクノロジーへの投資を後回しにしがちです。

ところが、AI導入を“将来の選択肢”としてしか見ていない企業は、すでに出遅れているとも言えます。なぜなら、グローバル規模で見れば「AIで生産性をブーストする」取り組みは2023年頃から加速度的に進んでおり、2025年にはその差がもっと明確化するからです。多くの先進企業では、営業やマーケティング、顧客対応などの“人間が属人的にやっていた仕事”が、AIエージェントやAIワークフローと呼ばれる仕組みによって自動化され、すでに利益を生み出し始めています。

もちろんAIの導入には費用がかかります。しかし、まったく予算を割いていない企業──たとえば「AI顧問」や「AIコンサル」の契約はおろか、来期の予算計画にすら入っていない企業は、気づかぬうちに取り残されるリスクが高い。早い段階で試験導入した企業が、ノウハウやデータの蓄積で先んじてしまい、後追いする企業はノウハウ面だけでなく人材面でも不利になりかねません。特にAI開発や活用が本格化していくと、「AI時代のデータ設計がわかる人材」「AIを活用して業務フローを再設計できる人材」は争奪戦になります。

要するに、「AIは興味あるけど、まだ先」ではなく「AI活用への意識がない段階ですでに負けが見え始める」というのが現状の厳しさ。ここを直視するかどうかで、2025年に自社のビジネスモデルが大きく変わるか、あるいは変わらないかが決まってしまうのです。


2. DXが詰まる理由はシステムだけじゃない:SaaS、SIer開発、そしてエクセル愛

AI導入以前の問題として、「DXそのものが進まない」要因が企業内にごろごろ転がっています。よく言われるのは、下記の三つ。

  • (1) 一見便利だけどAPI連携が難しいSaaS
    表面的にはユーザーフレンドリーで機能も豊富。ただしデータを外部に出しづらい、APIが貧弱、カスタマイズが難しいといった弊害がある。すると、せっかくAIを導入しても、必要なデータを吸い上げられないという事態が起こります。

  • (2) 高額費用で作り込んだ自社専用サービス
    SIerにオーダーメイド開発を依頼し、大金を投じて構築してもらったシステム。ブラックボックス化契約面での自由度の低さから、あとからAI連携しようにも身動きが取れないケースが多い。

  • (3) エクセルが大好きな役員・経理・税理士
    これは日本企業ならでは、というほどに根強い文化。手作業でガシガシ編集できるエクセルに慣れきってしまい、「新しいシステムに移行するのは不安」「エクセルのほうが安心」となってしまう。エクセル運用そのものが悪いわけではないのですが、データが標準化されず、属人化しやすく、AI導入前の段階で詰まってしまう要因になります。

*Napkin AI

これらの要素が絡み合うと、「データを統合しようにも、システムの壁で無理」「データを活用しようにも、エクセルが社内の最強ツールなので合意が取れない」といった「詰み」の状態に陥ります。そして、これを放置したままAIを持ち込んでも焼け石に水。まずデータやシステムの整理(DX推進)**が必要なのに、「ウチはDX完了した」と誤解している企業すらあるのが実態です。


3. 2025年、AIエージェントが変える働き方

では2025年、AIが具体的にどう変わるのか。すでに世の中にある自然言語処理モデル(LLM)をはじめとする高度なAIは、「エージェント化」「ワークフローへの組み込み」という形で本格的に広がると言われています。たとえば、以下のような姿が見えてきます。

  1. AIエージェントがメール対応・調整を自動化
    営業の打ち合わせ日時調整や顧客への定期フォローなど、定型的なコミュニケーションはAIが自動的にこなす。関連情報を社内データベースから引っ張り出して、最適な提案書やメール文面まで用意する。人間は最後に「送る」ボタンを押すだけ。

  2. AIが社内外のコミュニケーション履歴を解析し、次のアクションを提案
    その顧客が過去にどんな発注をしたか、どんなメールのやり取りがあったかを瞬時に解析し、「今が追加提案のベストタイミングです」というインサイトをリアルタイムで送ってくる。飛び込み営業や勘頼みではなく、データに基づいたアプローチが可能に。

  3. 「AIワークフロー」によるプロセスのシームレス化
    これまで「人間がAというシステムからデータを取り出し、Bのシステムに手入力し、Cの管理表を更新して…」といった作業が生じていたものが、AI主導で自動連携。社員は承認・決済の場面だけ“人間の判断”として関わり、あとはすべてバックグラウンドで動く。

こうした流れは、何もSFや遠い未来の話ではありません。2023年〜2024年時点で一部の先進企業はすでに実装を始めており、2025年には「これをやらないとやっていけない」というレベルに達するかもしれません。現実に導入してみると、生産性が劇的に上がるため、気づいたらその差が取り返しのつかないほど開いている──というシナリオが十分あり得るわけです。


4. 『AIナイズ』された企業だけが得られる超効率の世界

AIエージェントやワークフローを実装するには、それなりの前提条件があります。中途半端なAPI連携や時代遅れのデータベースでは、AIが動作するためのデータをスムーズに扱えません。言い換えれば、「なんちゃってSaaS」では限界があるということ。最近よく耳にする「DXに乗り遅れている日本企業」という言葉も、少々辛辣ながらこの実態を反映しています。

4-1. 高品質のAPI連携&AIに最適化されたDB

高度なAIを運用するためには、大量データの高速処理と分析が欠かせません。最適化されたデータベース設計があり、リアルタイムにAPI連携できることが条件となります。これを国産サービスがすべて満たしていないわけではありませんが、現場の声を聞くかぎり「まだまだ機能が追いついていない」「サポートやアップデートが不十分」といった声が多いのも事実。グローバルのクラウドサービスと比べると、性能や柔軟性に差があるケースが目立ちます。

4-2. 俗人的だった業務を「AI+人間の判断」にシフト

営業・インサイドセールス・マーケティングの分野では、これまで「個人の勘と経験」が大きなウェイトを占めていました。しかしAIがデータドリブンに最適なタイミングを提案し、定型作業はほぼ自動化するとなれば、人間がやるのは“判断”だけになります。つまり、かつてはたくさんの人員が必要だった部署でも、ほんの数人で「データ分析 → 提案書作成 → フォローアップ」まで回ってしまう。人員削減という話だけでなく、顧客接点のクオリティも上げられるのがポイントです。

結果として、現場は「商談成立」「受注」といった成果に集中できるようになり、売上増に直結。「AIナイズされた企業だけが得られる超効率」とは、こうした仕組みを整備することで生まれる企業内プロセスの一気通貫を指します。データの入力ミスや二重作業も減り、トラブルの早期発見も自動化する。これを実現するかどうかで、ビジネスのスピードと規模の拡大が大きく左右されるでしょう。


5. 営業もマーケも自動化!AIがビジネス現場をどう塗り替えるか

ここから少し具体的な仕事のイメージを広げてみます。AI活用が当たり前になった未来のビジネスシーンでは、どんな変化が起こるのでしょうか?

  1. 顧客リストの自動スコアリング
    従来は営業担当者がSalesforceやExcelで作った見込み客リストをにらみ、「このお客さんはそろそろ購入してくれそう」「ここはもう少し寝かせて」といった判断を下していました。AI時代では、購買履歴やウェブサイトの閲覧行動、過去の問い合わせ内容などを総合的に評価し、自動でスコアリング。優先順位の高い顧客へフォローするようAIが促します。

  2. インサイドセールスの自動化
    メール送付やオンライン商談の調整もAIが行い、担当者は議題を絞って「決断を促す」場面に注力できる。AIが生成した提案書は、顧客の属性やニーズに合わせてテキストを微調整するため、担当者が一から書くよりもスピーディかつ高品質

  3. マーケティングキャンペーンの高度化
    SNSやオンライン広告、メルマガなど、多様なチャネルにおけるキャンペーンを一元管理するプラットフォームが、AIモジュールと連動。最も反応が高いクリエイティブを自動選択し、顧客層ごとに変化を加えながら効果測定まで自動で行う。人間が見るのは、最終的な成果レポートと、次回の企画立案に必要なインサイトだけという世界です。

こうした変化が進むと、人材の使いどころが劇的に変わります。マスに向けたアプローチはAIに任せ、人間は意思決定やクリエイティブな部分にフォーカスする。その結果、「AIやテクノロジーに精通しながら、戦略的に動ける少人数」で業務を回す企業が強くなっていくのです。


6. 「AI&社長」だけで中規模企業並みの成果:スーパースモール企業の台頭

ここで注目してほしいのが、新しい企業形態の登場です。これまでは「人手が必要→大量採用して大きくする」という拡大路線が王道でしたが、AIが普及すると必ずしもそうとは限りません。

  • 極端な例:社長とAIだけで事業を回す
    経理処理や営業対応、マーケティングはほぼAIに任せ、社長が最終判断だけを下す。もちろん現実にはもう少し人が必要かもしれませんが、“ほぼ一人”プラス“AIエージェント”で中規模企業並みの売上を上げる構想も、全くの夢物語ではなくなります。

  • 少人数精鋭で世界と戦う
    ビジネス展開に必要なシステムはクラウド&AIベースで揃え、業務フローを徹底的に自動化。そこに専門性を持つ少数メンバーが集まり、外部パートナー(フリーランサーや海外在住のデザイナーなど)と連携することで、大手並みのクオリティを提供する。人件費を抑えつつスピード感を持ってイノベーションを起こせるため、スーパースモール企業が続々と台頭する可能性があります。

この流れは、既存の企業が大きな組織構造を維持する意味を薄れさせます。大企業が古いシステムや多層の意思決定フロー、アナログな文化によってDXに踏み切れないうちに、AIをうまく使うベンチャーや小規模事業が市場を奪っていく──これが2025年からのシナリオとして十分あり得るわけです。


7. CLIへの回帰!?AI時代の開発環境がもたらす変化

「GUI文化から脱し、AIナイズされたCLI型のシステム構築への回帰」という言葉を、最近ちらほらと耳にします。これはどういうことかと言うと、従来のクリック操作主体のGUIツールから一歩離れ、よりスクリプトベース・コマンドラインベースでのシステム操作が重視される動きです。

  • AIエディタやAIアシスタントとの相性
    たとえばCursorのようなAI搭載エディタを使えば、コード補完や構文エラーチェックが強力にサポートされるため、GUIでいちいちメニューを選ぶより素早く正確にシステムを構築できる可能性があります。

  • 自動化&統合のしやすさ
    CLIベースであれば、他のツールとの連携やスクリプト自動化が容易。複雑なワークフローもシェルスクリプトやパイプラインで簡潔に書けるため、AIが補助する形で「爆速開発」ができてしまう。

  • クラウドインフラの管理も一元化
    AWSやGCPといったクラウドサービスをCLIで操作する際、AIに「このリソースを作りたい」と伝えるだけでTerraformやCloudFormationのテンプレートを生成してくれる、といった機能が既に登場しています。GUIでポチポチ設定するより圧倒的に速い。

これらは一部のエンジニア界隈の話のようでいて、実は企業の開発スピードやシステム保守コストを大きく左右するものです。クリック文化に慣れていると抵抗はあるかもしれませんが、AIが進化するほどに、「GUIのボタンを探す時間」が単なる無駄になる可能性は高い。エクセル至上主義の先にある世界観から、さらにCLI至上主義が台頭するというのは、なんとも面白いパラドックスです。


8. ニッチ市場の新しい争奪戦:なぜ従来型企業は追い込まれるのか

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