私たちはみんな世界を信じた勇者だった。
これはおチビさんが神々と世界に祝福を受けて誕生した日からのたつみのりwithおちびさん…たつみのりっちの育児日記…の予定である。
色々と続いた初体験。
嵐と共にやってきてこの世に人として産声を上げたおチビさん。
なんていうか…おチビさんが産まれたその日は本当に嵐みたいだった。
次々と初体験に次ぐ初体験でもう痛みとかしんどさは産後直後は吹っ飛んでしまっていた。
神々からの祝福を受け、産まれてすぐにおチビさんは私の上に乗せられた。
カンガルーケアといって産まれて間もなく感覚が研ぎ澄まされているおチビさんに母体の体温を感じて貰うためのケアを希望していたから。
まだ羊水に濡れた感触を残したまま、真っ赤な肌をして乗せられたおチビさんの体は心細くなるくらいに冷たく感じる。
お産直後だったからその時は気にする余裕もなかったけど、今思い返すと大丈夫かと感じたと思う。
重くて…寒い…。
おチビさんから私はそんな風に感じた。
温かく重力も感じなかった羊水の中から外に出てきた時、重くて寒い…そうおチビさんは感じたのかもしれない。
一気に心許ない世界に放り出されて人の柔らかさや体温は彼らにとっては『安心』そのものなのかもしれない。
そんな風におチビさんを感じた私に看護師さん達はどんどんと初体験をさせてくれた。
まず臍の緒を切った。
ハサミでジャキンと。
見た目はぶにぶにしていて柔らかそうな臍の緒は切る瞬間には束ねたゴムを切るような感覚でものすごく硬かった。(意外)
そして自分の胎盤を見た。
見た目は…レバー。
すごいレバー。
いや、まぁ、内臓だもんね。
会陰切開もバッチリする事になったので、その処置も終え…。
そこからがアドレナリン全開から現実に戻ってきて体のしんどさを感じ始めた。
まず起きあがろうとするとクラクラする。
食欲も無くて、トイレにも行きたくなくてとにかく動きたくなかった…ていうか動くの無理だった。
初点滴のおかわり。(食べられなかったから。)
初尿道カテーテル。(トイレ行く気が無かったのにお腹は尿でパンパンだったらしい。)
初車椅子。(血圧が戻らなくて動けない内に次の妊婦さんがやって来たから。)
担当の看護師さんからも心配されてナースコールを握らされた。(これも初体験。)
産むことが済んだ後は自分が生き延びる事に体が全振りしたような感じでもうその体の切り替えたるやズタボロなのになぜか生命力を感じた。
そんな中でも押し上げられた内臓が一気に下垂して下に引っ張られて背中を伸ばして立つことが出来ない。
え?え?みんな産んだ後に普通に食べたり歩いたり出来るもんなの???
トイレってどうやってするんだっけ???
っていうかなんでこんなに全身痛いの???
みのりん満身創痍である。
1番弱くて無防備な世界と人を信じた勇者
そんな満身創痍で次の日から始まる母子同室。
みのりんは点滴台を松葉杖代わりに腰の曲がったおばあちゃんのように地面を見ながらおチビさんをお迎えに行った。
み、鳩尾がいてぇ…!背筋伸ばせない…!股がいてぇ…!
おチビさんと一緒の7日間。
とにかく必死。
痛くてもしんどくても必死。
ほとんど寝れてなくても必死。
冷静に考えてしまえばものすごく怖かったから。
生まれてすぐに立つことも出来ず、首も据わらず、生物的本能だけで生きているようなおチビさんが無力過ぎるように感じて。
攻撃されても反撃どころか抵抗もできない。
置いていかれたら冷たくなるしかない。
声もか細く優しい。
そんな無力で無防備な状態で何も持たずに生まれてきたのか君は。
自分を受け止めてくれる世界と受け止めてくれる人を信じて生まれて来たのか君は。
きっと自分を受け止めてくれると信じてこんな小さくて弱くてすぐに死んじゃうような状態で生まれてくるのか君は。
お腹の中から何度も何度もおチビさんは伝えてきていた。
『生まれたいんだ。』
『この命は誰にも譲れないんだ。』
その命の熱だけを持って何も持たずに生まれたのか。
なんて弱くて、無謀なんだ。
それでも世界と人とを信じて生まれるなんて…すごい勇気だ。
きっとかつての私もただこの世界を信じて、誰かの手に受け止められることを信じて、何も持たず、無力で無防備な状態で生まれてきたのに…おチビさんを目の前にした今そんな勇気を持っていたのが信じられない。
この世に生まれてきた私たちは1番無力で無防備な状態から世界と人とを信じた勇者だったんだろう。
受け止めると決めた世界は全ての命に平等で、受け止めると決めた人もまた命に向き合う勇者なんだろうな。
良い母であることをやめる
満身創痍の私にでさえ片手で抱けるほどに軽くてふにゃふにゃのおチビさん。
お腹の中にいる時から思っていたけれど、実際におチビさんを目の当たりにして固く誓ったことがある。
良い母であることをやめよう。
もっと正確に言うと良い母であることを目的におチビさんと関わることをやめようと決めた。
今までのnoteを読んでもらうと分かる通りに私は『母』というものになれるのかという点で自分を信用していなかった。
今でさえ信用していないところがある。
良い母になることに拘っておチビさんが見えなくなってしまっては本末転倒だと思った。
だから私は極端に言えば…母親の役割が出来なくておチビさんを傷つけたり、最悪殺してしまう前に母親であることをやめて乳児院などの然るべき施設におチビさんを預けようとさえ思っている。
自分を相手にでさえ、おチビさんは絶対に傷付けさせないし、殺させない。
おチビさんが生きてくれるなら自分が良い母で在ることなんて小さなことで、良い母で在る事に拘るよりもおチビさんが生き抜いてくれる方を選ぶ。
本格的な育児が始まる前。
私はそんな風に思っていた。
『早くお家に帰りたいよ〜…。』
夏の花火大会の音だけが聞こえる産院の部屋で、いつ起きるとも分からないおチビさんを前にぴーぴー泣いていた。
切られた股も、伸縮する子宮も、授乳のために張ってしこりだらけの乳も痛い。
その上おチビさんの存在そのものにビビり散らかしながら過ごす7日間はとてつもなく長く長く感じていた。
命を迎えるあの賑やかな祭りから、いつも感じていた神々の気配はパッタリとせず。
時おりおチビさんが部屋の中の何もない空間を何かを目で追うように眺めるだけ。
何なんだよう、みんなどこ行っちゃったんだよう。
こんな時こそ傍にいてくれよう。
きっと傍にいてくれたのに彼らの気配はおチビさんを通してしか感じられなかった。
イザナミのおばあちゃん…私は今、とても心細くて怖いです。
たっつんがおチビさんに会う前より早く、みのりんはネガティブな方向に一直線で弱っていた。
そんなネガネガみのりんにとってたつみのりっちの育児ライフの幕開けは『良い母親である事を目的にしない』という決意で始まったのである。