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ヨーロッパの寝台列車「InterCity ADRIA」でクロアチアからハンガリーに行った記録

日本では絶滅に近い寝台列車ですが、ヨーロッパには国をまたいで運行する夜行列車が多数存在します。
今回(2024年9月)、そのうちの一つであるInterCity ADRIA (IC1205)に乗車しましたので、記録を紹介します。

列車の概要

この列車はハンガリー国鉄(MÁV-Start)が夏季の旅行シーズンに運行している季節運行列車です。ハンガリーのブダペスト東(Budapest-Keleti)駅とクロアチアのリゾート地スプリト(Split)を結びます。

参考(ハンガリー国鉄):https://www.mavcsoport.hu/en/mav-start/international-travels/adriatic

2024年の運行日は6月18日から9月30日までで、ブダペスト発が火、金、日曜、スプリト発が月、水、土曜です。
私が乗ったスプリト発の停車駅は以下のとおりです。
約15時間、約780kmの旅です。

  • Split 17:54

  • Split-Predgrađe 18:00

  • Kaštel Stari 18:23

  • Perković 19:10

  • Knin 20:44

  • Gyékényes 5:30

  • Nagykanizsa 5:56

  • Balatonszentgyörgy 6:41

  • Fonyód 7:08

  • Siófok 7:39

  • Székesfehérvár 8:27

  • Budapest-Kelenföld 9:16

  • Budapest-Keleti 9:35

列車は9両編成(機関車除く)で、寝台車(Sleeping car)と簡易寝台(クシェット、Couchette car)および食堂車が連結されています。ヨーロッパの夜行列車は座席車も併結していることが多いですが、この列車にはありません。

切符はハンガリー国鉄のサイトで予約しました。
クシェット4人コンパートメントで26,910フォリント(約11,000円)でした。

ちなみに予約時ちょっとしたトラブルがありました。
請求先住所の国一覧に日本がなかったのです。
ちなみに他のいくつかの国(アメリカ、韓国等)もなく、代わりに「Megszűnt ország」(消滅した国)という奇妙な選択肢がありました。

しばらく迷った挙げ句、消滅した国の市民となる運命を受け入れました。
チケットはEメールで送られてくるので特に問題はありません。

初めて覚えたハンガリー語は「Megszűnt ország」でした

乗車体験記

発車まで

駅舎
発着案内板

2024年9月28日に乗車しました。
スプリト駅はダルマチア地方と中央クロアチア地方を結ぶ路線の南端に位置します。
街の中心部からわりと近く、外に出ればフェリーターミナルと長距離バスターミナルがある交通の要衝です。しかし列車の発着は少なく1日10便程度かと思います。

余談ですが、駅のコインロッカーで最後に空いていた区画に荷物を入れ、2ユーロで購入したトークンを入れましたが反応せず使えませんでした。
駅員に聞いてみましたが、私たちには対応できないし、土曜日なので人も呼べないと言われ、お金をドブに捨てることになりました。
ちなみに駅周辺には有人の荷物預かり所が多数あるのでここが空いてなくても大丈夫です。

17時過ぎに列車が入線してきました。

右が今回乗車するInterCity ADRIA

ホーム上には他にもスロバキア国鉄の運行するブラチスラバ行き列車(EN1152)が停車しており、2本の夜行列車が並びました。
ブラチスラバ行きも5~10月の季節運行列車です。
ウィーン(Wien Hauptbahnhof)には8:54、ブラチスラバ(Bratislava-Nové Mesto)に11:00に着きます.

ブラチスラバ行き、バイクがたくさん載っています

ブラチスラバ行きは自動車用の貨車も併結されており、フェリーのように車やバイクを載せて利用できるようです。

運転台

最初に牽引する機関車はユーゴスラビア鉄道時代に生産されたHŽ2044という車種です。
運転台を見ると計器類が進行方向横向きについています。日本でも、入替作業用の機関車にはこのような構造がありますが、長時間の運転ではちょっとつらそうです。

客車の入口

客車の入口は狭く、段差が高いため、スーツケースを抱えた方が苦労して乗り込んでいました。

行き先表示
Kelenföld行きになっていますが、Keleti駅まで行きました

車内はこんな感じです。私が予約したのは4人コンパートメントでしたが、設備は6人用(3段ベッド)と同じでした。寝台を使わないときは中段を畳んで背もたれにするようです。
下の段はみんな寝るまでは上の段の人と共用で椅子として使います。
ちなみに荷物は椅子の下に置くか、上段の場合はドアの上にも少し空間があります。

無料サービスとして水とチョコレートが渡されました。

同じコンパートメントにはロシア人2人が乗ってきました。
船旅をした帰りで、ブダペストまで乗ってから飛行機で帰国するようです。
「俺たちはスパイだよ」と冗談で言われましたが、妙にリアルなジョークなので顔が引きつっていたかもしれません。

ゴミ箱、電源、エアコン調整つまみ

部屋の中には電源ソケットがついています。ソケットが2つと、USBが4つです。携帯の充電だけなら他の人と喧嘩になることはなさそうです。
ゴミ箱は小さいので長時間の乗車ではすぐ一杯になります。

発車~夜

列車は定刻通り発車しました。
車掌がやってきて切符を確認します。渡した切符(Eメールのプリント)は一旦回収されました。
ロシア人たちと少し話していたら、列車はもうアドリア海沿いを抜けて山の方へ入っていました。
そして彼らは日が暮れたころにもう寝てしまいました。

駅から見えるクニン要塞

20時を過ぎた頃クニンという街に到着しました。ここで40分ほど停車します。置いて行かれるのが怖いですが、せっかくなので外に出て新鮮な空気を吸いました。
同室のロシア人はちょっと体臭がきつかったのです。私もシャワーを浴びていないので人のことを言えないかもしれませんが。

ホームから

20時40分ごろ再び動き始めました。
やることも特にないので私も寝ることにします。
同じ車両内にはトイレが2箇所と洗面台が2箇所あるので、歯磨きなどで多少使用時間が長くなっても大丈夫です。
本当はシャワーを浴びたいところですが、今日は我慢して顔を洗うだけにします。

背もたれ(中段ベッド)を上げた後

シーツを敷いて寝る準備をします。背もたれを完全に垂直にする方法がないかと思っていましたが、車掌さんに聞いたところ上に上げて3段ベッド状態にするしかないとのことでした。
こうすると、縦の空間がかなり狭くなかなか身動きが取りづらくなります。今回は3人だけなので向かい側の席が空いていたのが幸いでしたが、これなら安い6人コンパートメントでも変わらないかと思いました。

21時半ごろに横になりましたが、正直なところあまり眠れませんでした。
固めのベッドに体が合わなかったことや、そしてカーブの多い路線だったこともあり、横向きで寝ようとすると不安定で転げそうになりました。ベッド自体も狭いのでほぼ同じ姿勢を取ることとなり辛かったです。

スマホのGPSでずっと記録していたのですが、列車は深夜帯にクロアチアのOgulinとハンガリーのZákányという街で2度スイッチバックしていました。

翌朝~到着

朝6時ごろに起きました。外を見ると列車はハンガリーのバラトン湖沿いを通過しています。

車掌さんが飲み物を聞きにやってきました。コーヒーをいただきました。
各車両の車掌室にコーヒーマシンがついているようです。
一緒にお菓子をもらいました。

まだ寝足りないですが、二度寝が得意ではないのであきらめます。
身だしなみを整えてから、車内を少し歩いてみることにしました。

食堂車に行ってみました。非常にレトロでイメージ通りの食堂車です。

どうやら政府専用列車として1981年に製造され、民主化後は一般車両として転用されたようです。

メニューを見るとハンバーガーが7~8ユーロなど、比較的お手ごろな価格で販売されていました。コーヒーぐらい頼んでもよかったですが、到着間際なので時間がありませんでした。

そうこうしているうちに終点の一つ手前、Budapest-Kelenföld駅に着きました。ここからBudapest-Keleti駅までは非常にのんびりと20分近くかけて走ります。

定刻より数分遅れて、9時40分ごろ終点のBudapest-Keleti駅に到着しました。

感想

まず印象に残ったのは切符の安さです。780kmといえば、日本では東京~広島に匹敵する距離で、日本なら乗車券だけで1万円を超えるところですが、今回乗ったInterCity ADRIAは横になって移動できて約11,000円でした。
そして,道中遭遇する思いがけない景色の美しさは忘れられません。

ただ、総合的に評価すると、夜あまり眠れなかったことが辛かったため、100%ポジティブな体験とはなりませんでした。クシェットではなく寝台車を選べばもっと寝心地はよかったのでしょうか。次にヨーロッパ旅行する機会があれば,この点をぜひ確かめたいと思います。


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