[第二十七話]弓道では飯は食えない。
弐段審査を終えた後。
仕事はいよいよ本格的に”一人立ち”をするようになり、責任のある仕事も少しずつ、任されるようになって来ました。
そんな折だったので、道場に行って練習する日はどんどん減っていきました。
練習量の減少とともに、落ちていくモチベーション。
やりたい気持ちはあったのですが、どうにも腰が上がらない…という事もありました。
その時、一瞬頭を過ったのは、翌年に開催される新潟国体のことでした。
とも、一瞬頭をよぎりました。
しかし、同じ時に、T監督の言葉が蘇って来ます。
たしかに、弓道教室の先生達、連盟のOBS先輩。
一般枠で国体を目指す強化選手の皆さん。
県弓連の当時の会長……
皆さん、弓道とは別に、本業を持っていました。
T監督をはじめ、他の高校時代の先生方も、弓道の先生で生計を立てているわけではなく、日中は各教科を受けもつ”高校教師”という職業を持っている中で、弓道に尽力して下さっている。
T監督はたまに”弓道の指導は無償労働だ。だから上達してくれないとやる気が出ない。”と、仰っていた事を思い出しました。
もちろん、T監督は、進路や方向性を選ぶ時に”弓道を辞める”という選択肢を用意するために言った言葉ではないはずです。
しかし、19歳になりたての私。
社会人になりたての私。
実際に、初めて社会に出て、対価を頂いて仕事をする事がどういう事なのかを理解しつつあった私。
“弓道では飯が食えない”という言葉が重く……とても重く響きました。