全部好きでいいんだ
悩んでいた。考えていた。
何をと言うと人生設計について。
これまで「自分の好きなことをする」と言う目標のもと進んできた。
やりたいことをする。そのために博士課程にまで進学した。
これを許容してくれた母には感謝しかない。
思えば、博士課程進学を決意したのは大学4年生の頃。
その頃から、いや多分それ以前から持っていた一つのイメージがある。
研究者は、コアとなるテーマを解明するために人生を捧げている。
・生物間相互作用
・低温ストレス
・乾燥ストレス
・雑種生育異常
・配偶子致死
・染色体対合
・病害抵抗性
・・・
周りの大学教員や研究機関の研究員さんはみんな、それぞれの代名詞となるコアテーマを持っている。
これについて聞きたいことがあればあの人に聞けばいい、と言うのが確立されている。
研究者って、その道を極める人だから、それが普通なんだと思っていた。
一方、私はと言うと、全ての現象に興味がある。
その代わり、「これ!!!!」と言うテーマがない。
どんな分野の話でも面白く聞きに行く。
もちろん、自分の専門に近い話(植物、環境、遺伝子etc...)は優先的に聞きに行くのだけれど、言語学とか、文化人類学とか、社会学とか、そういったセミナーにもホイホイ参加する。
特にチューリッヒではたくさんセミナーのお知らせが来るので、時間があえば必ず聞きに行く。
知識欲、知的好奇心の塊なんだろうな、と思う。
「遺伝学が面白い」「コムギの研究がしたい」「倍数性が楽しい」というのは漠然とある。
ただ、コムギ遺伝学で何をしたいのか、倍数体の何を解明したいのか、が明確になっていない。
バイオインフォマティクスの知識は活かしたい。
でも、実験するのも、植物育てて観察するのも堪らなく好きである。
だから自分のことを「バイオインフォマティシャンです」と言い切ることがどうしてもできない。
いつも自己紹介するときは「生物学者(遺伝学者)です。コムギ研究してます。」って幅広めの内容でお茶を濁していた。
いってしまえば全部やりたいんだけど、そんなことしていると極められる物も極められないと思っていた。
そして、研究者としてのポストを得るためには何かしらそう言うコアが必要だとも思っていた。
つまりは研究者に向いてないんちゃうんか?と。
博士進学を決めてからの5年、ずっと考えていた。
先日、チューリッヒでの指導教官と話をする機会があった。
研究の話を進める中で、「何がしたい?」と言う流れには当然なる。
それで、何を思ったのか、上記の事柄を素直に話していた。
全部やりたいんです。コアになるものが見つからないんです。と。
そもそも、こう言うのは自分で見つけるものだと思っていたから、話すつもりはなかったのに。
「うん、そう言うのは僕や君には向いてないんだよね〜」
指導教官は軽やかに笑いながら、私が悩んでいたことを一蹴した。
どうやら彼も、その境地に行くまで10年くらい悩んだらしい。
結局研究が好きなことに変わりはないんでしょ?
どこで何がリンクするかなんて誰にもわからないんだし。
大事なのは、調べてみて出てきたことのどれとどれを繋げるかであって、そこに個性とか独創性が出てくるんだよ。
若いうちは、特に学生やポスドクの間は手当たり次第好きなことをやってみるといいよ。
ちょっと目から鱗の感覚。
手当たり次第でいいんだ。好きなことを手当たり次第調べてもいいんだ。
言われてみれば当たり前のことなんだけど、自分の「好き」を限定しようとしすぎていたことに気付かされた。
向いてない、と断言されたときはちょっと凹んだけど、研究者に向いてないと言われたわけではないからまあ良し。
コムギ遺伝学が好き。それでいいんじゃなかろうか、と。
全部好きでいい。全部調べればいい。
わからない、知りたい、それが研究の原動力なんだから。
「好きなことを仕事にする」の究極形が研究者だと思っている。
博士課程に在籍していると、確かに学生なんだけど、どちらかというと仕事している感覚で研究に向き合っている。
実際に研究テーマのことを「〇〇の仕事の件なんですけど〜」なんて先生方と話したりする。
そんなある意味特殊な精神状態で自分の好きなことに向き合っている。
確かにパンは美味しいし、粉もんは大好きだけれど、そんな単位ではないところでコムギと向き合っている。
塩基配列一つの違い、それがもたらす壮大な結果、見た目の違い、掛け合わせをした時に得られる変な子たち。
背丈を測り、DNAを抽出し、水やりは欠かさず、肥料を与え、PCに向かい、証明するための実験もする。気温も降水量も記録する。病気が出たらすぐさま対処する。
いかに健やかにコムギが育ってくれるかを念頭に、日々を過ごす。
好きなことだけど、向き合うことで嫌いになったりもする。
コムギやってるとゴールデンウィークは休めないし、なんでか朝8時から9時の1時間しか掛け合わせできないなんて主張してくる子もいるし。
ATGCをみるのも嫌だーなんて日も確かにあった。
それでも、やってないと気持ち悪い。考えてないと気持ち悪い。
向き合って、掘り下げて、考え抜いて、ぐるぐるしてるうちに、新しいことが見えてきたり見落としてたことに気づいたりして、やっぱり面白い、好きだ、となる。
ここまでのめりこめる「好き」に出会えたこと、それを本格的に仕事にできるかもしれないところまで近づいたこと。
それを自信にして、根底に「研究が好きだ、遺伝学は面白い」という確たる思いを抱いて、目の前の道が何か新しい発見に繋がることを信じて、これからも研究に真摯に向き合っていこうと思う。
ふと目にしたひらやまさんのこちらの記事のテーマと、ちょうど書こうとしてたことがフィットしたので、便乗させていただきました。
ひらやまさんが想定していた「すきなモノ」とは違う切り口かもしれないけれど...(^^;)
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