産声
「オギャー!!オギャー!!オギャー!!」
産声が聞こえてくる。
私の中に発現した小さな命。
また、私の中に人が増える。
ある日突然私の中に発現した。それは真っ黒だった。気持ち悪いほど黒かった。
私は思わず吐きそうになったが耐える。なんとか耐え忍ぶ。
自分の脳内に響く、自分の産声に思わず怒鳴り声をあげてしまった。
「うるさい!!!!」
自分の叫び声で、自分を壊せそうだった。
自分の産声に苦しめられる。こんなに苦しいものなのか。なぜ私なのか。
なぜ私に“それ”は発現するのか。
自分の中に違う自分がいる。そのことが気持ち悪すぎる。耐えられるだろうか。
おそらく黒色だ。おそらく。黒色。
また産声が脳内に響く。
「うるさい!!!!」
今なら、全てを壊せそうな気がする。
この声で、人を壊せそうだと思った。自分の中に違う自分がいるというのはとても大変なことだ。
“それ”がさっき増えてしまったのだ。
何をするにも自分が対抗してくる。
優しい自分。怒っている自分。生チョコな自分。煽っている自分。楽しい自分。
それぞれが私の意見に反応してくる。
全て壊してやりたい。脳内がおかしくなる。もういっそ、壊した方が楽だ。
「わかるよ。辛いよね。」
「勝手に壊れとけよ!」
「じゃあ私が壊してあげるよ」
「生チョコ美味しいな」
「ゲームでもして気分を紛らわそう🎶」
それぞれが反応してくるのだ。
鏡を見ただけで私が反応してくる。
「いい顔だね」
「ブスすぎだろ」
「なにその顔…」
「生チョコ美味しいな」
「ゲームのアバターの顔に課金したらいいんだよ!」
辛すぎる。
こんな人生、壊してやる。
私は架空の恋人を作って愚痴を聞いてもらうことにした。
なにも言わずに聞いてくれる君が本当に好きだ。
恋人は何でもしてくれる。料理も、洗濯も、お世話も、何でもしてくれる。
こんな恋人他にいない。
私だけのもの。
恋人をみんなに自慢したくなった。
みんなどんな反応をするだろう。羨ましがるだろうか。嫉妬するだろうか。きっとそうに違いない。妬み僻みの標的になることを恐れず、私はすぐさま自慢した。
「どう?私の恋人」
「めっちゃいいじゃん。羨ましいなー」
「どう?こういう恋人なんだけど」
「いいなー、素敵な恋人で羨ましいよ」
予想通りだ。やはりみんな私を羨ましがっている。
でもね、私だけのもの。私だけの。
自慢するにつれて、私の中の私が問いかける。
「自分に嘘つき続けて苦しくない?」
「もうやめようよ」
「こんなこと、しなくていいんだよ」
「生チョコ美味しいな」
「私がいいならいいと思うけどね」
ある日、1通のメールが届いた。
「2人の写真見たいなー」
私は思わず吐きそうになった。
こいつも黒いのか。真っ黒な心が見える。
バレた。絶対にバレた。いや、本当にバレたのか?バレてないと信じる。
いや、絶対にバレた。
「自分に嘘をつかないで」
このときだけは、私の中の私が同じ意見だった。
みんながひとつになった。
私は、私は、
辛い。
恋人は存在する。なぜみんな否定するのか。存在する。嘘なんかじゃない。バレていない。バレたのか?いや、バレてなんかない。だって存在するから。嘘なんかじゃないんだ。嘘じゃない。
ただ、寂しかっただけなのに。
「生チョコ美味しいな」