短い記録361:【過去作品再公開】Joy't(ジョイント)8
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※このお話は8話目です。
ウサギさんは、約束通り今日電話をかけてくるだろうか。
じわりと嫌な汗で張り付いていた荷物。
わたしは一度携帯を手放した。
「ハナエ、学校のお友達から電話よ」
学校?
よくやり取りをする子は私の電話番号知ってるはずなのに。
「もしもし?」
「ハロー、ハロー、ハナエさん。シホちゃんは元気だった?」
この喋り方は間違いなくウサギさんだ。
「シホちゃんちの電話、使えなくなっちゃってさぁ〜。時間かかってごめんねー」
「今日は、ちゃんと説明してくれますよね?」
「イエス、イエス、もちろん! メモのご準備はオッケーですか。」
嫌な時間が始まる。
「さあさあ、まずはお約束を思い出してください」
「それはもうわかってるから、早く」
「ええ~、ツレナイなあ~、ハナエさんは」
ひょうひょうとウサギさんは聞きたくもないのに「約束」を繰り返す。
1つめ~、嘘を本当にする。嘘から出た真ってやつだね!
2つめ~、嘘を取り消させる。つまり、嘘がなかったことにしちゃう。
そして3つめ~、今はまだナイショ!
「ハナエさん、この『約束』の中でどれか1つやらなきゃいけないとしたら、どれにする?」
「え?」
「伝えてあるだろう? 君は『嘘の連帯保証人』なんだぜ。逃げられないよ」
急に低くて大人の男の人のような声で、ウサギさんは私に言葉と現実を押し付けた。
選ぶっていったって、事実上1つめか2つめのどちらかしかない。
得体の知れない3つ目なんて選べない。
「じゃあ……」
「お、どれどれ? どれにしちゃうのかな?」
言いたくない。
「2つめ」
「なるほど~。ハナエさんは嘘を取り消させることを選ぶんだね~」
「だめなの?」
「だめなんかじゃないよ。ただ、面倒だよ」
「じゃあ、1つめの方がいいの?」
私は手元のメモ帳に「2つ目、メンドウ」と書いた。
「ウサギさんなら、どれを選ぶの?」
「よくぞ聞いてくれました! マチガいなく、タメラいなく、チュウチョなく、決まってます!!」
電話の向こうでふんぞり返っているのが透けて見えるようだ。
「1つめ?」
「やだなあ、そんなの3つめに決まってるじゃないか」
え!?
「だって、3つめはまだ内緒なんでしょ?」
「だって、ハナエさんに内緒なだけだもん。そんでもって、こっちは知ってるもーん」
(続く)
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