見出し画像

テイラー・スウィフト"folklore" 全曲歌詞解説 ~小文字表記のヒミツ~


はじめに

Taylor Swift には個人的な思い入れがある。彼女がカントリー歌手としてデビューした当時、私は毎日ラジオでカントリーを聞いていた。だからデビュー曲「Tim McGraw」から、彼女の十代の頃の歌は本当によく聞いていたのだ。でもいつのまに彼女はPOPSへ転向し、私もいつのまにかカントリーを聞かなくなった。その後私は作詞家になるべく勉強を始め、いわゆるヒットチャートを聞き始めたら、彼女の歌に再会した。振り返ると、長きにわたってTaylor Swiftを聞いてきたわけだ。

今作 "folklore" フォルクロール=民間伝承。なんだか彼女らしくないタイトルだなと思いながら…聞き始め2曲目くらいで察した。これはコンセプトアルバムなんだと。そして気付いたときには、引き込まれてしまった。Taylor Swiftの張り上げない、落ち着いた歌い方と、歌そのものがとても心地よい。

いつもそうなのだけれど、私は彼女の英語がいまいち聞き取れない。一度聞いたくらいでは、歌詞の内容は掴めない。それにしても一聴しただけで、彼女の成熟さを感じた。歌詞をきちんと読んでみたいと思ったのだった。

全曲歌詞解説

folkloreには16曲が収録されている。Taylor自身が説明しているけれど、コロナの為自粛生活を送っていた時に、リモートでコーライトした曲がすべて。一人の時に、想像し、妄想し、それらが楽曲制作に繋がっているとのこと。それにしても、お気づきだろうか?このfolklore、アルバムタイトルも、曲のタイトルもすべて小文字表記ということ。今まで、タイトルの頭はすべて大文字だったはずなのに。そのことは、最後に書くとして、とにかく歌詞を見てみよう。(先にお伝えしておく。私はTaylorが誰と付き合っていたかとか、そういうのに興味はないので、ネットではそのことばかり騒がれているけれど、私は割愛させて頂く。)

1. the 1

コンセプトの幕開け。最初は失恋ソングだ。Taylorはいつも自分の体験を歌に昇華してきたので、失恋ソングは山ほどある。それ自体は珍しくもないけれど、歌詞の中で使っている言葉が興味深い。最初のVerseにある「Sunday matinee」マチネは演劇などの昼公演という意味だそうだが、アメリカでは映画館の昼公演もそう言う。そのあとにYou know the greatest film of all time were never made(最高の映画なんて作られていない)という歌詞があるけれど、この"film"映画という言葉は、この後の曲にも出てくる。そして「Roaring twenties」狂騒の20年代という、アメリカの1920年代を表す言葉も印象的。第一次世界大戦後、社会、芸術、文化の力強さを強調する言葉だそうだが、twentiesというのはその人の20代という意味にもとれる。Taylorは今年30才。自分の20代を振り返っているようにも思える。だって彼女の20代こそ、狂気・狂騒だから。個人的に「何かが一つ違えば、それですべては変えられたの?」というフレーズが刺さった。

2. cardigan

こちらも失恋ソング。ただ、このアルバムの中で"Teenage triangle love" = 十代の三角関係を、それぞれの視点から綴った3部作があり、その一つ。ずっと過去を振り返っていく描写なのだけれど、「若い時は何も知らなかった。でもあなたのことは、こんなにたくさん知っていた。」と綴る。最初はこのフレーズがそれほど気にならないのだけれど、あとで3部作を全部聞くと、なるほどと納得するはず。そしてタイトルのカーディガン。この表現が秀逸で、自分自身を「誰かのベッドの下に落ちている古いカーディガンのように感じる」と言う。好きだった人は、そのカーディガンを身に着けたし、好きだって言ってくれたと。カーディガンは、人を温めてくれる存在。でも今は、誰かのベットの下に落ちているだけ…って、切ない。

3. the last great american dynasty 

これはレベッカ・ハークネスという女性のお話。レベッカは石油会社を持つ富豪と結婚し、とても裕福になった人。アート芸術のパトロンとして活躍した人物でもある。レベッカの旦那が購入したロードアイランドの豪邸、通称 "Holiday House"は、2015年にTaylorが購入している。それを踏まえて、レベッカの人生に、自分の人生を重ねて歌詞が書かれている。レベッカ(彼女)も、テイラー(私)も、「すべてを破滅させながら、すばらしい時間を過ごしているの」と、あくまで楽しげに、でも皮肉を込めながら、淡々と綴られる物語。

4. exile

exileとは亡命のこと。歌詞はすれ違って別れてしまった男女が、再会する場面を描く。Justine Vernonの低い嗄れ声が男性側の気持ちを、Taylorが女性側の気持ちをそれぞれ歌い上げてゆく。男は女の変わり身の早さにあきれ、理解が及ばないし、女はあんなにサインを送って気持ちを伝えていたのに、どうして理解してくれなかったのと悲しむ。ここで、1曲目に登場した言葉「映画」が出てくる。「こんな映画を見たことがあって、あの結末が嫌いだった」と男女ともがリフレインしていく。そして相手の目に触れないように、亡命=その場からいなくなろうとする。

5. my tears ricochet

ricochetとは跳弾、跳ね返った弾丸のこと。これはTaylorらしい恨み節。彼女がデビューから契約したBig Machineレーベルとの対立について、歌っていると思われる。冒頭は、葬式の描写。私はこんなにあなたを愛していたのに、あなたは私を裏切った。私の涙は跳弾になる、とこれから復讐が始まりそうな歌。

6. mirror ball

この歌では、自分自身のことをミラーボールに例えている。「あなたの楽しみを映し出している。ハイヒールで踊るように不安定で、もう終わると思われても、あなたの為だけに輝いてる」さて、その“あなた”について。恋人、パートナーと解釈もできるし、ファンとも解釈できる。解釈はいつだって聞き手に委ねられているに違いない。

7. seven

子供の頃、7歳の時の思い出が綴られている。体験談と妄想のはざまのようなお話。今は顔も思い出せないけれど、家庭事情が複雑な友達がいて、その友達は父親に泣かされてたりしていた。友達を助けるために、一緒に逃げてしまえば、問題はすぐ解決できると思っていた、幼い自分に思いを馳せている。

8. august

Teenage triangle love 3部作のひとつ。描写がとてもきれいで「August slipped away into a moment in time」8月は時の流れの中の、たった一瞬として消えてしまう。その一方で「August sipped away like a bottle of wine」8月はワインのように、ゆっくり飲んで、でも消えてしまう。SlipとSipという音が似ている言葉をうまく使っている。学生の頃の8月は、すごく長いようで、あっという間だったという気持ちを、うまく表現していると思う。8月も、そして”あなた”も「自分のものではないから、なくなってしまう」というのが最終的に切ないところ。つまり、あんなに仲良くしたのに、結局あなたは私のものではないから、私のもとを去っていくという話。歌の最後に、車で迎えに行き、あなたを車に乗せる、というフレーズがあるが、そこが3部作最後の一曲"betty"とリンクする。

9. this is me trying

絶望から立ち上がっていく姿を描写している。これも失恋と言えば失恋。傷が治らないのに、パーティーに参加するのはツラい。あなたが欲しいときは、どこにいてもツラい。後悔もあるし、何と説明すればわからないこともあるけれど、少なくとも努力しているよ。と訴えかけている。そしてこの歌詞にも「映画」が登場する。「あなたは、私の街でのワンシーンが映された映画のフラッシュバックだ」映画という言葉が出てくる歌は、なんとなくリンクしている。

10. illicit affairs

不倫、不貞行為に関して綴ったもの。世間を、誰かを、欺く行為は、最初の数百回だけ効くドラッグのよう。けれどあなたと以外は見られない色を見せられて、あなたと以外は話せない言葉を教えられて、あなたのせいで私はだめになる。結局は、自分をダメにするだけだということ。

11. invisible string

日本人にはとてもわかりやすい題材。いわゆる運命の赤い糸をモチーフに使っている。これも若い時の恋愛の話で、セントラルパークの木々が緑の葉をつけていたころ、二人は出会って恋に落ちる。「私と君が赤い糸で結ばれていたって考えるのは、ステキじゃない?」でも二人は別れてしまう。そしてセントラルパークの木々の葉は金色になる。これは季節の移り変わりを表すとともに、今が決して不幸なわけではないことを表現している。「地獄を旅して、天国にたどり着いた」という歌詞にもある通り、季節が変わっても、彼女はまだ幸せなのだ。日本人的には、赤い糸で結ばれた二人は別れないのだけれど、まあ…別れてしまっても「結ばれていた」と考えるのは自由。

12. mad woman

クレージーだと言われるたび、もっとクレージーになる。怒っているように見えると言われたら、もっと怒る。狂気の女性。また旧レーベルとの対立を持ち出しているようにも思えるし、3曲目のレベッカ・ハークネスのことを歌っているようにも思える。狂気の女なんて誰からも好かれないけど、そんな女に誰がしたの?これはTaylorがよく使う表現。

13. epiphany 

epiphanyとは洞察、ひらめきのこと。この歌は、Taylorの祖父が体験した、第2次世界大戦の転換点ともなったガダルカナル島の戦いにインスパイアされたと言われている。1番の歌詞では、ヘルメットをかぶり、傷を負って血を流しながらも、ライフルを渡される兵士の描写。一方、2番は患者の手を、その家族がビニール越しに握っている描写。2つのシーンとも「言葉にできない」と締めくくられている。そして、両描写は同じコーラス(サビ)に繋がる。「with you I serve」このserveとは、兵士として従軍することも指すし、医者やナースとして医療を務めることも指す。つまり、戦争とコロナをリンクさせている表現だ。厳しい状況を描いてはいるが、20分しか眠れないときに見た夢が、希望の一端として表現されている。ほんの少しの希望で、まだ動ける。そういう力強さを感じる。

14. betty

Teenage triangle love 3部作の最後。Jamesの視点から語られるストーリー。JamesはBettyに語り掛ける。Inezから聞いただろう?噂は本当なんだ…と。Bettyにしてしまった裏切り行為を自分の未熟さ、17歳という若さゆえであると言い訳する。そしてただ君が恋しいと訴える。このInezの視点から綴られた物語が "august"になるわけで、ドライブに誘われるというフレーズが出てくる。そしてBettyの視点は"cardigan" となり、今楽曲の最後に "standing in your cardigans"という表現が出てくる。結局のところ、三角関係と言えど、みんなすれ違いだ。それこそsummer love=ひと夏の恋なのだろう。

15. peace

パートナーとの関係について語っている。関係が終わってしまいそうな局面でも、私は火であり、脆いあなたの心を温めてあげられる。あなたのために命を差し出せる。あなたにpeace=平穏をあげられないから、私の気持ちは十分ではないと言うの?パートナーにヒカリをあげたい、自分のベストをあげたいと思うけれど、私のいる場所はいつも雨が降る…と彼女は言う。まさに、Taylorの波乱万丈な人生について語っている気がする。

16. hoax

hoaxとは、作り話や偽告知という意味。あなたの不誠実な愛は、私が信じられる唯一の作り話。あなたがくれる憂鬱以外は、誰からのものもいらない。つまれこれ、こんなふうな愛でも、続いているよと言っているわけで…Taylorが結婚するんじゃないかと、ネットは沸いていた。愛に生きる人を、力強く描いている。

おわりに

ということで、駆け足で16曲を解説してみた。いや、Taylorはやっぱりセンスの塊だ。描写は綺麗だし、うまいことまとめるし。それにしても、今回すべてタイトルが小文字表記なのは、なぜだろうか。私は、自分を主張しない、しすぎない気持ちの表れと思う。タイトルを決めるとき、大文字か小文字かというのは、クリエーターの気持ち次第ということろがある。私も作家名はsoranoと全部小文字。これは、自分を主張しなくてよいと思ったから。そういう気持ちが、今回の全タイトル小文字表記になっているのではないかと思う。主張しなくても、十分すぎるほどすべてTaylorなんだから。

あとは、リラックスした雰囲気を作り出したいと思ったのかもしれない。アルバム16曲通して、Taylorは一度も声を張り上げていないように思う。終始落ち着いている。歌声も、曲調も。コロナ、Black lives matter…騒々しい日々のなかで、ゆったりとした雰囲気を届けてくれたのだろう。folklore、いいアルバムだ。まだ聞いていない人は、ぜひ聞いて欲しい。


#歌詞 #歌詞解説 #作詞 #作詞家 #テイラー・スウィフト #TylorSwift #folklore #音楽 #洋楽  


Image by Myriam Zilles from Pixabay

いいなと思ったら応援しよう!