彼以外何もいらないと思っていた私が、最後に彼にねだったモノ。
私には遠距離の彼がいた。
好きだった。
でも別れた。
なんか、お互いの心の距離も遠くなった気がして。
今でも彼のことを想うとなんだかモヤモヤする。そんな心のわだかまりを、ここにそっと、大切に残しておきたいと思う。
私と彼とは田舎の出身だった。だけど彼が東京に行ってしまった。ここから2人の遠距離生活が始まった。
遠距離になってはじめて、彼からこんなLINEが来た。
「東京は思ってたよりはなやいだ街だったよ。いろんなお店があるから、君への贈りものを探しに行ってくるね」
だけど田舎にいる私からしたら、そんな都会の贈りものなんてどうでもよかった。ただ、田舎に戻ってきてほしい。それだけだった。
だから私は、
「いや、欲しいものはないわ。ただ、都会に染まらないで、早く帰ってきてほしいな」
と返信した。彼は既読スルーした。
半年後、彼から再びLINEが来た。
「都会で流行りの指輪を送るよ。君に似合うはずだ」
だからプレゼントなんかいらないんだって。私が欲しいのはあなただけなんだって。喜ぶと思ったのかもしれないけれど、私からしたらどんな宝石よりもあなたがいちばん輝いているのよ。そう思った私は、
「ありがとう。だけどね、ダイヤだって真珠だって、あなたのキスほどきらめかないのよ。私はそう感じるの」
と返信した。彼は既読スルーした。
そして後日、また彼からLINEが来た。
「ねえ、もしかして今もすっぴんで街歩いてるの?笑 オシャレには気を遣った方がいいよ。僕はね、この前東京で高級スーツを買ったんだ」
間違いない。彼はすっかり東京に染まっちゃってる。そしてスーツ姿の写真が送られてきた。
「僕のスーツ姿見てよ!これ僕だよ!?見間違えちゃうぐらいカッコイイっしょ!」
私といっしょにいた頃はお世辞にもオシャレとは言えない安っぽい服だった。くすんだ色にヨレヨレの生地のパーカー、裾を折るとチェックの柄が出てくるというダサい構造のズボン。それでいて草っぱらにごろんと寝転ぶ野暮ったさ。でもそんな庶民派な彼が嫌いではなかった。
それが東京デビューしてからは高級な服を身に纏っちゃって。確かに外見はカッコよくなったけど、なんか大切なものを忘れちゃってる。そんな気がした。
「私、オシャレじゃなかった頃のあなたが好きだったな。でもあなたが好きでやってるなら、その方がいいのかもね。この季節のビル街は木枯しで寒そうだから、からだに気をつけてね」
こう返信して、私はスマホの電源をそっと切った。
そして数ヶ月たち、とうとう別れのきっかけとなるLINEが来てしまった。
「僕、これからずっと東京にいようと思う。東京での生活って毎日愉快でさ、もう田舎に帰れない。まじでごめん」
こんな日がいずれ来るとは思っていた。でもいざ来たら心にくるものがある。
都会の絵の具に染まってほしくないという私のささやかな願いは、叶うことはなかった。
悲しかった。悔しかった。涙が溢れた。そして私は、彼に最後のわがままをすることにした。贈りものなんていらない、指輪なんていらない、そう思っていた私が、最初で最後のおねだりをした。
「ねえ、涙拭く木綿のハンカチーフ下さい」
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