『何度だって』の楽曲解説・裏話とか
こんにちは、りりです。
ボカコレ2023夏以来のnoteですね。時間が経つのは意外と早いもので、もう次のボカコレがやってきました。今回のボカコレ2024冬でも、私の参加曲についてあれこれ書いていきたいと思います。
このnoteを開いてくださっているということは、既にこの曲を聴いてくださった方がほとんどだとは思いますが、まだ聴いてないよーという方は以下のリンクからどうぞ。
何度だって // LyRe: - feat.小春六花 - ニコニコ動画 (nicovideo.jp)
さて、初めに楽曲のテーマや世界観といった全体に共通する内容について触れた後、前回と同じく各パートごとに分けて歌詞やコードについて語っていきます。音楽理論が絡む話は読み飛ばしても問題ないように書きますので、ご心配なく。尤も、私が知っている範囲の理論の話ですので大したことは書いてありませんがね。
そして念のため書き記しておきますが、このnoteの内容はあくまで私の意図であり、聴いてくださる方の解釈を制限するものではありません。楽曲のテーマとも関連しますが、ぜひ作曲者である私の意図を参考にしながらも、ご自身の解釈を大事になさってください。それでは本題へ移りましょう。
楽曲のテーマは"出会い"
私のオリジナル曲はこの「何度だって」で5作になりますが、そのすべてに明確なテーマを設けることにしています。1作目「わたしのスピネル」は"挑戦"、2作目「Moonlight Reflection」は"声"…といった様に、ですね。
「何度だって」のテーマは"出会い"です。Cメロの歌詞にしれっと入っていたり、英詞ではCメロに限らず"encounter"とド直球に書いてあったりします。
このテーマを選んだ理由
いつかこれをテーマに曲を書いてみたいな、と思っているものは他にもたくさんあるんですが、今回はボカコレということで"出会い"を選びました。これは「ボカコレ」というイベントが、私にとってたくさんの曲と、それらを生み出したボカロPや制作チームのたくさんの想いや感情に出会える場所だからです。
"出会い"とは?
さて、楽曲でどのように出会いを表現するのか。
人と人が出会うのは、やはり春でしょうか。例えば入学式であれば人生で数回しかない、これから共に過ごす仲間と出会う貴重な機会です。きっと大切な出会いがあることでしょう。悪くないですね。
しかし、確かにそういった類のイベントが良い舞台なのは間違いないけれど、ふとした日常にも大切な出会いがあるはず。
何なら出会うのは人でなくても良いですね。ちょうど私のように、人生のどこかで音楽を知り、好きになっていくのも私と音楽の"出会い"と言えそうです。
と、色々と考えを巡らせていた当時の私。
印象に残る、あるいはその後に影響を及ぼすような出会いは貴重かもしれないけれど、"出会い"そのものはそこら中にあるような気がしてきたんです。
たくさんの出会いを前に、そのすべてに期待やわくわくといった好奇心を持てるような曲にしたい、と生まれたのがこの曲です。
MV
今回のMVも、イラスト以外はすべて私が制作しています。こだわりポイントとしてはやはり英語の歌詞ですね。歌詞の翻訳も機械に頼らず私がやったので、意訳も含んだ面白い英訳になったんじゃないかと思います。間違いが多分にあるとは思いますが、雰囲気重視ということで大目に見てもらえると嬉しいです。
その他の点で言えば、海をイメージした青系統のカラーリングと小春六花のピンク系統のカラーリングの融合でしょうか。ちょうど温かな海っぽくもなり、お気に入りです。
世界観
ここからは楽曲世界の設定のお話です。
この曲は、少女の未来を海に例える形で展開していきます。MVのイラストを見るのが分かりやすいですね。このイラストは楽しそうに海を泳いで回る少女のワンシーンですが、この海すべてが未来の可能性であり、少女はどこへでも泳いでいけるし、どんな選択をしても良い、といった具合です。
詳しくはこの後、歌詞を紐解きながら見ていきます。
イントロ
歌詞
サビのフレーズを早速頭に持ってきています。よくある形ですが、手軽にインパクトを得られるので私は好きです。
まだ1フレーズなのでこの時点で何を言っているかは分からないはずですが、この楽曲に限り既にストーリーを理解するヒントが隠れています。MVの背景にある英語の歌詞です。あくまで装飾の一環なので可読性が低いですが、次のように書いてあります。
どうやら少女は旅の途中のようです。英語の歌詞を見ると、その旅は何度でも始めたいくらい良い、楽しいもので「終わらない」というより「終わらせはしない」という意思が垣間見えるのではないでしょうか。
このような感じで、日本語の歌詞では省略されている部分が英語の歌詞には表れていたりするので、この後も2言語を並列して見ていくことにしましょう。
コード
サビと同じなので、詳しくはそちらで書こうと思います。
楽曲のキーは転調前がE♭メジャー、転調後がF♯メジャーです。何でもかんでも転調していると飽きてきそうですが、この曲に関しては絶対に転調する、と構想の段階で決めていました。転調やモーダルインターチェンジは、キーとキーの"出会い"だと思っているからです。
平行調の同主調である短3度下(-3)への転調はよく見かける(何なら私も「六花」で使っています)のに対して、短3度上(+3)への転調はあまり見かけない気がしたので"新たな出会い"っぽいかなと思い採用しました。調号の変化が激しい転調になるのも相まって、良い感じに仕上がったと思います。
前奏
Aメロの解説に行くと思わせて、前奏のセクションを挟みます。普段はサビのコードと同じであることが多いのですが、この曲は違うので前奏についてもしっかり書いていきます。
コード
|E♭|E♭/G|A♭|B♭|Cm|Gm7|A♭|Fm7/B♭|
|E♭|Gaug|A♭|Fm7(♭5)|E♭/G|F7/A|B♭sus4|B|
Ⅰ-Ⅰ/Ⅲ-Ⅳ-Ⅴ-Ⅵmと素直に上がっていき、Ⅲm7-Ⅳ-Ⅱm7/Ⅴともう一度上がる動きを挟んでⅠに戻る、というベースラインの上昇を中心に据えた動きになっています。2周目はⅢaugやⅡm7(♭5)、Ⅱ7といったノンダイアトニックコードを取り入れて力強く?しています。曲のテーマが出会いですし、わくわくを感じさせる上行進行と強めのノンダイアトニック感は相性がいいのではないでしょうか。
間奏や後奏も、キーの違いはありますが同じコード進行です。
1番-Aメロ
歌詞
少女が旅する世界の描写です。世界観のセクションでも触れた通りこの海は少女の未来の比喩であり、海に浮かぶ"無数の巡り合わせ"は出会いのひとつひとつに当たります。そもそも先ほどから出ている"旅"というのも、言うなれば少女の人生の比喩です。
そして英語の歌詞ですが、早速意訳に頼っています。作詞の前段階で練った構想に立ち返り、作詞と違い音数を気にせず文を再構成していく形で翻訳作業をしました。"マリンスノウが(出会いを)もたらす"という表現なんかは、歌詞に対する理解度がより深まった気がしてお気に入りです。
コード
|E♭|Gm|A♭|B♭|Cm|E♭/G|B♭sus4|B♭|
|E♭|G|A♭|B♭|Cm|A♭|B♭|E♭|
基本の構造は前奏と同じですが、ベースラインの上行はそのままに前奏ほどの力強さはいらないだろうということでダイアトニックコード中心の進行になっています。前奏に比べて何の変哲もないからこそ、2周目のⅢがシンプルながらいい味を出していると思います。そして最後は小室進行(6451)でしっかりと終止感を出し、雰囲気の異なるBメロに繋げています。
1番-Bメロ
歌詞
旅するうえで"どこへでも行ける"ということはつまり「この先の人生どうとでもできる」ということの比喩になります。海に浮かぶマリンスノウのように、人生におけるいくつもの出会いを通して成長していける、といったような解釈が分かりやすいと思います。
そして問題の英訳。もはや原型を留めていませんが、それ故に2言語で互いの解釈を補完することが出来ているように感じます。日本語では少女が自分自身に言い聞かせるような言葉ですが、英語ではAメロの文脈を継いで周りの海の環境(水そのものでもいいし、魚でもいいし、マリンスノウでもいいし…)に呼びかけるような言葉になっています。
少女が"どこへでも行ける"のは海から良い影響を受けているから、つまり「出会いを通してこそ、可能性あふれる人生が待っている」ことを表現したいのですが、日本語だけだとここまで限定的な解釈はできないですね。一方英語では、海の環境を旅の仲間のように捉えることでこの点を上手く表現できていると思います。
コード
|A♭|E♭/G|B♭|Cm|A♭6|A♭mM7|B♭sus4|B♭|
ポップパンク進行(4156)の亜種のような進行から、Ⅳ-Ⅴ-Ⅰのカデンツを最大限引き延ばしたものに繋げています。Aメロまでベースラインの上行を中心に展開してきましたが、ここではそれが少し弱まっていますね。これには私のストーリーのイメージが関連しています。
もともと「たくさんの出会いにわくわくする」というのがこの曲のコンセプトなわけですが、Aメロやサビでそれが顕著に現れる一方、Bメロではその興奮に向けた一種の"タメ"を表現しようとしています。コンセプトを如実に表したベースラインの上行を意図的に弱めて楽曲展開に変化をつけると同時に、ジャンプをする前にかがむような、感情の変化も重要だよね、ということです。ちなみにCメロもまた意図を持って雰囲気を変えていますが、その話は後ほど。
そしてこれは余談ですが、今回初めてmM7コードを使いました。音楽に触れ始めた頃の私は、このトゲアリトゲナシトゲトゲみたいな名前とエグめのサウンド故に敬遠していたのですが、意外と使いどころがあるものですね。ちなみに前奏のaugも初めて自分の楽曲に取り入れました。以上余談でした。
1番-サビ
歌詞
サビです。ここまでに共通している通り"世界のひとかけら"=出会いであり、いつの日か今日この日を振り返ってこの出会いを大切に思うこともあるだろうな、というのを表現したのが前半部分です。その出会いがあることでまた違った明日を迎えることができる、そう確信して旅を続けます。
また、歌詞の解釈に繋がる小ネタとして"ひとかけらは全部"という表現はおかしくないか、というのがあります。ひとかけらとは即ち1つの欠片ですから、全部と言わずとも1つだけじゃないかと。もちろん意図的にこうしているので、しっかり意味があります。
私の主観ですが、繰り返し"たくさん"の出会いがあることを強調していると、そのひとつひとつの価値に気付きにくくなってしまう気がするんです。出会いで"あふれて"いる要素も重要である一方でそういった事態を避けたいので、「ひとかけらの集合体である」という意識を持たせるために単数と複数が混在するような表現にしています。
この「単数と複数の混在」は英語の歌詞だともっと分かりやすく表れています。"those Aspect of ~"の部分ですね。Aspect(ここでは欠片)はたくさんあるのでthoseを用いますが、上で述べたものと同じ理由で"those aspects of ~"ではなく大文字も使って無理やり表現しています。
コード
|E♭/G|A♭|B♭|Cm|E♭/G|A♭|F7/A|B♭|
|E♭/G|A♭|B♭- Bdim|Cm|A♭|A♭/B♭|E♭sus4|E♭|
Ⅰ/Ⅲ-Ⅳ-Ⅴ-(Ⅴ♯dim-)Ⅵm、正真正銘の上行進行がここで初登場です。サビに向けてここまで温めておきました。間に経過和音としてdimや7thコードも入れ、私好みの形に仕上げています。私のX(Twitter)を見てくださっている方や前回のnoteをご覧になった方ならご存じだと思いますが、私はこの上行進行とdimとsus4が大好きなので、ある種私の好きを詰め込んだだけとも言えますね。
(このnoteを書き終わってから知ったのですが、どうやらこの進行は「オンリーワン進行」と呼ばれることがあるみたいです。基本形はⅠ-Ⅳ-Ⅴ-Ⅲ-Ⅵmのようなので、この曲はこれの亜種にあたると思います。)
2番-Aメロ
歌詞
1番で語られていた描写の拡張です。1番にあった海そのものやマリンスノウだけでなく、もっとたくさんの、言うなればそこにあるすべてが未来の可能性の塊であると強調するために、言い方を変えて情景描写を繰り返すような言葉選びをしています。ちなみに"隠れた秘密"というのは特定の何かをイメージしているわけではありませんが、1番の"巡り合わせ"と違いここでは出会いに関する直接的な表現を避けつつも「何かの向こう側に」感を出すためにこうしています。
コード
1番と同じです。前回のnoteでも同じようなことを書いた気がしますが、Cメロ以外1番と同じなので、以降このセクションは必要になるまでカットします。
2番-Bメロ
歌詞
"この気持ち"とは英語の歌詞に"curiosity"とある通り、この曲のテーマにも関連するわくわくや好奇心です。1番Bメロのセクションで「この先の人生どうとでもできる」と書きましたが、2番の方がより強くこの要素が出ているのではないでしょうか。「好奇心を忘れなければ、何にでも成れるし奇跡だって起こせる」というような強い意志を表現しています。この「奇跡だって起こせる」や「強い意志」の部分は英語の意訳にも表れていますね。
2番-サビ
歌詞
ここでもかなりの意訳が含まれているので2言語を同時に見ていった方が良いと思います。と言っても、日本語でぼかされている部分が英語だと直接現れているというだけのことですが。
"彩る青さ"と「彩ってるのに青一色じゃないか」と言われそうな表現も、当然意図的にやっています。別に「青って200色あんねん」と言い返しても良いのですが、"フィルム"と合わせて「青写真」を連想させるため、というのが本当の意図です。英語を見れば連想も何もありません。ちなみに青写真には設計図の複写技法の他に「未来の構想」といった意味があり、今回は当然後者での採用です。
後半の"夢は遠く"や"明日は笑って迎えてくれる"に関しても、英語の歌詞がそのまま解説のようになっているので割愛します。
Cメロ
歌詞
"ひとつの出会い"と"いくつもの出会い"、"弱く光る奇跡"と"確かな望み"など、真逆の言葉でありながら日本語の歌詞を深掘りしたものが英語の歌詞になっています。やはりメロディではないので音数の制限がなく、且つ私が日本語ほどの語彙力と想像力を持たない英語だとこうなりがちですね。
"ひとつの出会い"は「単数と複数の混在」を意識させるための「たくさんある中のひとつですよ」という表現であり、"弱く光る奇跡"には「今は弱く光るだけの奇跡も、出会いとその先の変化を経て"確かな望み"になるはずだ」という意味を込めています。
コード
|A♭|B♭|Gm7|Cm|Fm7|Gm7|Cm|D♭ - E♭|
|A♭|B♭|Bdim|Cm|A♭| - |B♭|G|
王道進行(4536)で始まり、♭Ⅶを経由してさらに上行していく進行になっています。このⅥ-♭Ⅶ-Ⅰという動きには2つの意味があり、1つは初めに書いた通り「キーとキーの出会い」であるモーダルインターチェンジを取り入れること、もう1つは「限界突破」です。このCメロまではⅠ-Ⅰ/Ⅲ-Ⅳ-Ⅴ-Ⅵの上行がメインでしたが、ここでⅥのさらに上、♭Ⅶ-Ⅰ(オクターブ上)と繋ぐことで後の歌詞にもある"次のプロローグ"感を表現しています。
作曲段階では"次のプロローグ"と歌っているところそのもの(後半部分)のコードもD♭/A♭(♭Ⅶ/Ⅳ)の予定でしたが、いざ編曲してみるとこれじゃない感がしたので、基本に立ち返りA♭(Ⅳ)になっています。
そして最後に転調の便利屋であるⅢと無音、さらにはここだけ5拍にすることで緊張感を高め、大サビへと向かっていきます。
大サビ
歌詞
楽曲の最後に相応しい、これからの可能性を強調した歌詞になっています。
"描き出せ~光宿し"には「出会いを通して未来の可能性を掴めるように、今するべきことをする」といった意味を、"目を閉じてまた開けば"には「新たなスタートを切る」といった意味を込めており、イントロの描写やそこで表れていた「終わらせはしない」という意思の描写を回収する構造になっています。
日本語の"「今」"が英語では"私がこれから見ようとしている世界"となっているのはここまでも見てきた通りの深掘りですね。一応日本語だけでも、"目"に関する描写と合わせて「見ること」といった連想ができるようにはしています。
コード
|F♯/A♯|B|C♯|D♯m|F♯/A♯|B|G♯7/C|C♯|
|F♯/A♯|B|C♯ - Ddim|D♯m|B|B/C♯|F♯sus4|F♯|
これまでのものが短3度上(+3)に転調しただけなので構造は同じですが、コード名だけ記しておきます。
後奏
コード
|F♯|F♯/A♯|B|C♯|D♯m|A♯m7|B|G♯m7/C♯|
|F♯|A♯aug|B|G♯m7(♭5)|F♯/A♯|G♯7/C|C♯sus4|C♯|
こちらも転調したものですが、変更点が1つだけ。曲の終わりをⅤ-ⅠとせずⅤのドミナントのまま終わることで「物語はまだ続きますよ」という演出をしたつもりです。
最後に
この曲を作るに至った裏話やこの曲に込めた想い、ほぼ全て書ききれたと思います。もちろん、後になって思い出すことや新たに気付くことなどあるとは思うのですが、それは最早作曲者の意図というより1人のリスナーとしての感想ですから、そのときにX(Twitter)にでも呟こうと思います。
ボカコレというイベントを通して、私の楽曲に出会ってくださりありがとうございました。そしてこのnoteに辿り着き最後まで読んでくださったことにも、重ねてありがとうございます。あなたの「今」の"ひとかけら"となれたことに小さな喜びを感じます。
そして今回は前回と違い楽曲公開とほぼ同時のnote公開ということで、私のボカコレもこれからです。たくさんの楽曲との出会いにわくわくしていますよ!
それではまた!!