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【書籍レビュー】#02 「神に愛されていた」 木爾チレン著

愛されていることに気づくことの難しさ。愛することはどこまでを許されるのか。


 他者から自分に向けられる感情を正確に理解することは難しい。特に、それが愛情であった場合、人は疑い、苦悩する。さらに、愛情が濃すぎる場合は、敵意にすら感じることだってある。
 
 作品を書けなくなって久しい作家のもとに、編集社の女性が一人訪れる。そこからはじまる物語は、三人の視点から人生が語られる。人の人生は立場の違う人間からはまったく違う景色が映っている。
 
 ただ純粋に表現し、作品づくりに情熱を燃やす冴理。高校生の頃からその文才は多くの人の耳目を集める。ただ、環境が悪かった。精神的に病んだ母親と二人きり、ごみが溢れる部屋に育った冴理は本の中だけに自分の居場所を見つけ、創作に自分の可能性を見出していた。大学へ進学後には母親に代わり、日々の生活を稼ぐために夜間のバイトに勤しむなど、執筆ができない時間が続いていた。
 
 そんな中、ごみで溢れる自宅とともに、母親が焼死する。これにより冴理の人生は動き出す。出版社新人賞の受賞。そして、プロ作家として華々しく活躍していくのだが、そこにも人生の壁が立ちふさがる。高校、大学の後輩である作家白川天音である。
 
真実を知りたく、最後までページをめくる手が止まらない。
ふたりの作家の間にあった真実の感情とはいったいどんなものなのか。
人間の感情とは複雑、且つ、難解なものである。
 


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