掌編/真似猿
山歩きの途中、一匹の醜い猿が現れた。気持ちが悪いので追い払ったがしつこく付いてくる。どうやら親に捨てられ群から追い出された落ちこぼれのようで、己の生き方が分からぬのか、しきりに私の真似をしてくる。
面白くなったので、わざと毒の実や泥水を口にするふりをしたら、しょせんは畜生、毒の実を食らい泥水を啜って苦しみ始めた。
懲りれば人真似などやめるかと思ったが、何度でも同じ事に引っ掛かり、私がする事はなんでも真似て、何度でも毒と泥水に当たった。
訳が分からぬと首をひねるうち、山道は果て、私は猿の住めぬ洛中に入った。畜生を気味悪がる人々に石を投げつけられるようになっても、まだ猿は付いてくる。
どこまで真似して付いてくるのか確かめたくなり、洛中で一番高い塔に登り、天辺から飛び降りるふりをしたら、猿は騙され、飛び降りて死んでしまった。ひしゃげて赤黒い染みになった猿の孤独で醜い死骸を眺めながら、人真似などせぬのが利口だなと、ただ当たり前の事だけを思った。
(終)
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