本邸スワロウテイル帰宅レポ

序章

その執事、愛好

アニメ黒執事 ~寄宿学校編~
めでたく4月より放送が開始する。
私がアニメやマンガに触れるきっかけとなった、後にも先にもこれ以上好きになれる作品は無いだろうと思わせ続けてくれる作品である。
それに伴い昨日からアニメBook of Circus編を観ていたわけだが……。
この作品は原作の漫画は当然に美しい。
そして映像化されたときには読者の期待を裏切らず、むしろ想像を凌駕するほどに全てが美しいものになっていた。私が黒執事に出会う以前から好きであったモチーフや時代背景、音楽、ダークファンタジー、キャラクター。全てがそこに詰まっている。

2006年から月刊Gファンタジーでの連載がスタートし今年で18年目になる。
15周年の際には国際フォーラムでアニメサウンドトラックのオーケストラ演奏会が開催された。
当然私もその演奏会を観覧した。その日は気合いを8割増に、3万円程するバッスルスカートにナポレオンジャケットで主人公ファントムハイヴ伯爵さながら、スコーンより軽い足取りで会場へ赴き一晩を過ごした。
家にもメインキャラクターであるセバスチャンを模したラビットのぬいぐるみがいる。
これもまあまあいいお値段がしたのを今でも覚えているぞ、セバスチャン。

これが当時のスカート服飾科出身の母曰く
「この刺繍ならとんでもない値段がつく」とのこと。

コンサート会場では私のみならず、華やかに着飾った紳士淑女で溢れかえっていたのも良い思い出。


第一幕

1.その執事、如何様

さてここからが本題である。
黒執事大好きっ子で育った私と元来の性分であるアンティークや陶磁器、嗜好品やスイーツが好きな私。これが合わさり大人になるとどうなるのか、という最近のレポが今回の本題である。

先に結論を申し上げると、人生初
執事喫茶スワロウテイルに行って参りました。
いや、正確に言うならば私は家に帰ったのだ。
「本邸」への帰宅である。今私がこの文字を打っている家は「別邸」なのだ。

誰だって日々の忙しさに疲れ呆れ、すり減りながら人生を嘆くことは出来る。
しかし己を労り癒すことも出来るのが人間なのだ。
と形式ばった理屈を並べながら心の中では
「そらお嬢様として丁寧に扱われ、美味しい食事に美しい空間とティーカップ、無駄なく美しく給仕をする執事に迎えられたい」
声を大にして叫んでいた。心の中にお嬢様を飼うだと?ふざけるな、私がお嬢様だ。

そもそも今回執事喫茶に行くきっかけとなったのはとあるSNSのバズがもとだった。ひとつの投稿をきっかけに様々な方が様々なお嬢様(或いはお坊ちゃま、旦那様)体験エピソードを投稿する一晩があった。以前から執事喫茶なるものが存在することは知っていたものの、その箱の中はベールに包まれたままであった。
日本で執事喫茶を名乗れるのは池袋の『スワロウテイル』だけだそうで(おそらく権利とかの問題)。
あと有名なのは名古屋にある『執事の館』だろう。


そんなことを考えバズ投稿の数々を眺めるなか、とんでもない物が目に飛び込んできた。
YouTube配信で仲間たちと楽しげに会話をするスワロウテイルの執事、隈川である。
彼は屋敷が18年目を迎える2024年、8年目程の勤務になるそうだ。彼の何に魅了されたか。
それは誰よりも美しい姿勢、豊富な知識、丁寧でありながらウィットに富んだ言葉遣い、周りを巻き込みのびのびと会話し過ごす姿、そのうえ歌が上手いときた。神はいくつ彼に与えたら満足するのだい?彼もきっと努力家なのだろう。と微笑みながらも同時に接客業をやる身として、背筋が伸びる思いをした。このような人間が給仕する場所、さて如何様なものだろうか(隈川の給仕姿ももちろん見たいが全体のサービスを知りたい)、と観察しているうちに気づけば1週間後には本邸の前に辿り着いていたというわけだ。


2.その執事、緊張

まず、スワロウテイルは完全予約制だ。
その予約すらなかなか簡単ではない。0:00から10日後の予約ができる。しかし0:00:25には終日完売になる有様だ。訳が分からない。僕を家に帰らせろ
心の中の坊ちゃんが喉まででかかる。
そして数日後の朝5時。
私は前夜酒を飲み過ぎ酔ったまま予約サイトを眺めていた。Safariの更新マークを連打していたらなんと数日後に1名席の空きが出たではないか。酔って勘違いでもしてるのかと考える間すら惜しい、今を逃したら絶対次は無い……噛み締めるハンカチも無いので下唇を噛みながら勢い任せで予約。予約成功!歓喜!うおぉお!!!

そして迎えたは当日。
いざここまで来ると妙に緊張する。
しかし脳内シュミレーションはとうに済んでいるのだ。スっと息を吸い込み、予定時刻の5分前に玄関へ向かう。するとドアマン担当の執事が名前を確認し、小さな待合エリアに通された。

そして時間になると促されるまま玄関の前に立った瞬間、フワリと扉が開く。
出迎えてくれたのはクロークや鍵の管理を担当する執事と、今日1日私の世話をしてくれるフットマン椿木(ツバキ)。
椿木はスラリと背が高く、四角いフレームの眼鏡に綺麗にわけられたヘアセット。柔らかく穏やかな低く美しい声には遊び心がチラつく。
椿木に連れられるままティーサロン(我々が食事を楽しむ場所)へ。ソファがちょうどよく、その日は晩餐に合わせて帰宅したから既にカトラリーが用意されていた。この段階では緊張で会話をする余裕も無く膝にナプキンをかけてもらうまで笑顔で頷くことしかできなかった。
(そもそも眼前にいる椿木が麗しすぎる。品がある。しかし彼も緊張しているのか私の扱いに悩んでいるのか、眉の辺りが強張っているように見えた。)
まずは簡単に屋敷内でのルールの説明

・スマートフォンでの撮影や録音は禁止 
・執事を呼びたい時は卓上にあるベルを鳴らす
・お花を摘みたい時も執事を呼ぶ

その後メニューの説明を一通り受け、ディナーメニューに追加できるワインやセットの紅茶をじっくりと選ぶターンに。その間、椿木は私の席を離れている。ディナーメニューは半月ごとのシーズナルコースになっているようで、私が頂いたのは¥7,300のフレンチベースのコース。セットの紅茶は隈川がブレンドした茶葉、ネーヴェをチョイス。
紅茶の感想は後ほど書こう。

さてドリンクも決まった。しかしどのタイミングでそれを伝えようかしら…とホールに視線をやる。瞬間、3秒もかからずに椿木と目が合った。
素晴らしい。こちらが呼ぶ前に相手の視線や空気感に気がつく技能、私が理想とし目標とする完璧なタイミングで目の前ににスルリとやってきた。

「お嬢様、何か不安なことがございましたか?」
「ええ、食事の時用にワインのハーフボトルとセットの紅茶を決めたのだけれど…。どのタイミングで伝えたらいいかしら?
☺️

自分でも驚いた。こんなに軽やかに、当然のように普段は使わない口調で言葉が泉のように湧いてくるではないか。この段階で私はやっと覚悟を決めた。せっかくなのだから、私は伯爵家の令嬢として振る舞おうではないか。ここは私の家なのだから!と無意識下に第二の私が出来上がっていた。
そして形式的なやりとりと要望を伝え、いざ食事を待つ。(この日はディナーの為にお茶とシリアルを少し食べた程度だった。少食な私にとって、空腹は最高のスパイスだからね)

3.その執事、恍惚

各卓でディナーの用意が始まる。
前菜が運ばれる前に椿木がワインの解説をして注いでくれる。どうやら彼は屋敷に来る前は料理人だったそうで。解説もわかりやすく、理解できなかった点を質問してもスラスラと教えてくれた。
必要な情報と不要な情報の取捨選択が上手いのだろう。そしてそれは豊富な知識を持ち合わせるからこそなせる技。それらを優雅な振る舞いと共に遂行する椿木は大変に素晴らしかった。

椿木がワインを注いだ後、前菜を運んできた。
料理に関して、私がフレンチ系のレストランで社会勉強をしていたこと、加えて椿木の経歴も由来し、テーブルマナー含み不自由なく理解できたから存分に楽しめた。
(ちなみに普段の仕事のことは社会勉強と言う。なぜなら私はお嬢様で本来なら領地の管理やブティック、サロンの経営などをするのが仕事なので)

前菜→ポワソン(魚)→ビアンド(肉)→デザート
どれも香り豊か、見た目もよく季節の食材をふんだんに使い美味しかった。ビアンドに添えられた枝豆ベースのソースがあまりにも美味しくてパンをおかわりするのにベルを鳴らした笑

お食事は当然コース形式なので一皿頂いたらカトラリーごと交換。そのタイミングで私は椿木との会話を楽しんだ。あまり長く引き留めて仕事の邪魔をしたくないから簡潔に、そして少しでも温かい空間になるように私は心がけていた。椿木もそれを汲み取ってくれたのか会話もいい塩梅で冗談や面白話を交えてくれて、テーブルセットで現れる度に盛り上がってゆく。
美味しい食事とお酒、椿木との会話で終始笑顔ニッコニコな私。
こんなに完璧な夜があって良いのだろうか。
こんなにも恍惚とした優雅な時間を味わうのは初めてだった。美味しい少量の食事とスイーツ、お酒、美しい空間、その空間と空気をコントロールする執事たち。完璧だ。


幕間

ここからはラストスパートに向けての余談。
紅茶ネーヴェは私の苦手としていたルイボスベースだったけれど、蜂蜜や果物の華やかな香りでとても美味しかった。ストレートはもちろん、ミルクティーすると甘く可愛らしい味わいで心も温まる。
屋敷にはティーカップも様々な名品が揃えられていて今回私が使ったのは「ロイヤルアルバートのレディーカーライル」。ロイヤルアルバート、つまり英国ヴィクトリア女王の夫の名前だ。カーライルはイギリスカンブリア州の地名。
ボーンチャイナの滑らかで軽い使い心地と可愛らしいデザインは私のロリータ大好き乙女心を存分に楽しませてくれた。

紅茶の継ぎ足しに関して椿木は
「紅茶の継ぎ足しをご要望の際はベルで呼んでくださいね。お嬢様にティーカップより重いものを持たせるわけにはいきませんから♪」

ありがとう。もう夢の世界にいるかのようだわ。
しかし小心者の私は紅茶の継ぎ足しでベルを鳴らすのも申し訳なく、お料理が運ばれるタイミングで注いでもらうようにタイミングを合わせてしまう。
まだまだお嬢様力が足りていない笑。


第二幕

その執事、寂寥

非常に寂しいけれど、優雅なディナータイムも終わり別邸へ戻る時間がきてしまった。
もっと彼らのことを知りたい、この屋敷について知りたい。ワインが私の満たされた心と体にいっそう心地よくまわり、ふわふわと眠気がやってきた。
そして椿木がやってきて私にこう伝える。

「お嬢様、まもなく出発のお時間となります。本来でしたらお嬢様がお会計をするなんてことはございませんが、本日は算数のお勉強ということでこちらを」

と伝票を静かに卓上に置いた。同時に私は

「そうね……私は小さい頃から算数が大の苦手だったけれど、たくさん勉強したから大丈夫!成果を見て頂戴!」

と言いながらカードを伝票ボードに入れる。
いや、普通に算数できないからカードなんかい〜とセルフツッコミをしつつ「いつもなら小切手なんだけれどね、今はこれでお願いね♪」
そんなやりとりを椿木も楽しんでくれて褒めてくれたのがまた嬉しい☺️

そしてお花を摘み化粧直しをすませ、椿木に導かれるまま玄関へ。
その日のワインボトルを持ち帰れるとのことなのでお願いした。なぜなら名前を覚えられないうえにスマホで写真も撮れないので同じものを探すにはそれしか手段がないからだ(なんてマヌケなお嬢様)!

「お嬢様、お寒いのでお気をつけて。どうかまた早いご帰宅をお待ちしております。隈川にもお嬢様がいらしたこと伝えておきますね」

「もちろん。必ずまた帰ってくるからその時はよろしくね。屋敷のみんなも、忙しいとは思うけれど心身健やかに過ごして。それではご機嫌よう」

と言い残し、外のひんやりとした空気と体に残る熱の余韻を楽しみながら帰路に着くのであった。


終幕

さて、今回の帰宅レポはここで幕を閉じる。
読みにくい文章であるのにお付き合い頂きありがとう。いかがだったろうか?

今回特に感じたのは、周りの目を気にせず優雅に振る舞えるのならアナタもきっと屋敷での時間を楽しめるだろう。
正直なところ、ああいった場所でも下世話なレディもいるわけだ。だからこそ己の品格と教養が試される。いわば上流階級のフリースタイルダンジョン。
この例えも意味不明かもしれないが、体験すればわかるだろう。
あなたもぜひ優雅なひと時を過ごしてみては如何?

それではご機嫌よう、またいずれお会いしましょう

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