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【俳句とエッセイ】あきのいろ

秋色最中しゅうしきもなか」というお菓子を、昔いただいたことがありました。
名前とはちがい、一年中売っているそうですが
餡をつつむ薄皮は、薄ちゃいろ、草いろ、それに白。
どれも落ちついた色づかいで、秋を連想させなくもありません。
それにちなんで、という訳ではありませんが
今回の句材は秋の色です。

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[1]
立秋をすぎて一日二日という頃でしたら
夏の高気圧は、まだまだおとろえを知りません。
クーラーのきいた室内では、本が本棚に澄まし顔でならんでいますが
壁紙は窓からさしこむ日ざしに、白くハレーションするほどです。
本棚でいちばん幅をとっているのは、二十巻揃えの全集。
青いクロス張りは、この部屋の重鎮のような気むずかしい雰囲気ですが
何年ものあいだ、だれも読んでいなそうです。
ためしに一冊取り出そうとしても
ずっと同じところに押し込められたせいで、ひき抜くのに一苦労。
けれど、やっと手に取ったその表紙は
気持ちのよい風が吹いてくる、宵も更けたころの深いブルーでした。
一列にならぶ背表紙は、夜明けあとの薄く褪めた空のような色なのに、
ずっと日に当たっていなかった表紙には
この全集がつくられた時の色がそのままに。
まさか一夏で褪色する訳もないのですが
こんなところにも時間のうつろい、
ひいては季節のうつりかわりを感じてしまうのでした。


      全集に褪色ひとし秋の蝉     梨鱗

まだまだ蝉もげんきなころ。

[2]
処暑をむかえる頃にもなれば
日中の太陽の高さがかわったことに気づくようになります。
夏至を頂点としてもっとも高かった黄道は、日に日に低くなっていきますが
眩しい太陽を見上げることもないので、なかなか気づきません。
けれど、夏至からふたつきも経った頃のある朝、
太陽のおとろえにはっとします。
真上から太陽が照りつけていた頃は
すべての色がハレーションしていましたが、
高度を落とした日ざしが斜めから差し込む頃になると
微妙なグラデーションが浮かび上がってきます。
小川に脚をいれ、ささやかな風を受けている鴉。
その羽にも
青みをおびた檳榔子黒、つやをたたえた濡れ羽色、
紫がかった貴石のような黒さえ見つけられるのです。


    秋めくや鴉の黒にいくとほり   梨鱗

わりとカラス、好きかも。


         どーん。秋色最中




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