
「俳句恋々」今がよければ
深く眠る耳へ呪文をヒヤシンス 梨鱗
「眠っているとき、息をしていないみたいだね」
きみより先に眠りに入れなくなったのは、
そう言われたとき以来。
戸棚にはヒヤシンス。
水栽培の瓶の影を、暗がりに慣れた眼がとらえる。
香りが好もしくて購ったのに
夜になるといっそう強まるそれが鼻につく。
眠っていたぼくをじっと観察していたらしい、きみ。
ぼくの気づけないときに、ぼくをそばで見ていたことが
なんだか許せない。
この手がとどかないところで
自由に羽根を羽搏かせているのと同じくらいさ。
ぼくに背をむけ寝息をたてる無防備なその耳に
そっと注いだ。
――眼を醒ましたら、きみは××××したくなる――
きみがぼくより他を見ないようにする呪文。
デジタル時計の LED が1分すすみ、
あの花の厚かましい香りが一段と濃くなった。
瓶のなかでは、ぎしぎしと根が張りつめている。
――――――――――――――――――――――――――――
前回につづき、恋愛ねたで一句です。
なにも考えないで書くと、ス〇ーカーみたくなる Lylin ……。
俳句×恋愛、シリーズ化しました。マガジンは「俳句恋々」です。