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【俳句】なんにも燃えないなんて、まさかね?

とてつもなく大きな夕焼けを見たのは
いつのことでしたか。
東京湾に近い駅を降りると
町に覆い被さるほどの大きな空がありました。
海にちかい古い界隈、視界をさえぎる山々はなく
平坦な町並みがひたすら四方に開けます。
その真上で、空は燃え盛ることに一心不乱。
山がちの地域で生活してきたぼくの目に
どこまでも広がる夕焼けは、新鮮な光景でした。


    なんにもない明日が来さうよ大夕焼   梨鱗

赤々とした空に身体を差し入れるように歩きます。
そのあいだ考えていたのは
どうやって仕事をやめないようにしようか、
ということでした。
あの日のじぶんをふり返ると、少し滑稽になります。
あんなに当時の仕事に縋りながら
その数か月後には、すっぱりやめていました。
夕焼けの中を歩くぼくは、ぼくの未来を
敢えて見ないようにしていたのでしょうか。

あの日の烈しい色をこえる夕焼けを
後にも先にも見ていません。
夕焼けは、たいてい雲を連れ
ほんのりとした色づかいで始まります。
燃え盛りの絶頂さえ、翳りを帯びて
あ、と思う間もなく山稜に飲まれるのです。
かつての仕事は、やめて正解でした。
とても済々したのですから。
けれど。
過ぎたものは、すべてまぼろし
そう言い切っていいのかと
雲には埋火のような茜色が。


     羽ひらくすがたの雲に夕焼して




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