明日、推しが卒業する



恩送りが苦手だ。

そもそも得意とか苦手とかそういう類のものではないし、そういう行為を否定するつもりもない。
ただ、自分は「お世話になった人にはちゃんとお礼がしたい」と常々思っている。

だから、恩送りより、恩返しをしたい。

そう思ってはいても、自分はいつも貰ってばっかりで、
周りの人に支えられながら生きているなと痛感する。
その度に返しきれない恩を感じて、返せない歯痒さに、ままならないな、と思う。


FEELCYCLEに通い始めて6年目。そのうちの4年と3か月、自分が一番お世話になったインストラクターが明日、卒業する。


感謝という一言では表せないくらい、本当に、本当にお世話になった。

いつもレッスンに全力で、ひたむきで、いつだって元気をくれて、
FEELCYCLEの色々な楽しさを教えてくれた。
何よりも、FEELCYCLEのことをもっともっと好きにさせてくれた。

"HouseとEDMでブチ上げて、ハイテンションで駆け抜ける"
もちろんそれは自分の好きなFEELCYCLEの姿だけど、それだけじゃないって知ることができた。

曲本来の美しさを、アーティストのバックグラウンドから、曲の中で流れるひとつひとつの小さな音、世界観まで含めてまるっと全部、音楽と一つになるという心地よさを教えてくれた。

痺れるような歌声に気持ちを乗せて、これがレッスンであることを一瞬忘れてしまうくらいに惹きつけてくれた。

ハードな曲の中でもう心が折れそうな時、「音楽の力を信じて!」と叫んで、全力のパフォーマンスを見せてくれて、
その姿を見たら、その言葉を聞いたら、スタジオの外でだって、どんなことでも頑張れる気がした。

レッスンを受ける。好きな曲が増える。プレイリストに追加する。
そうして4年でずいぶんプレイリストも長くなったけど
ヒマさえあれば流していたこれも、しばらくは聴けないかもしれない。

自分は元々、体力に自信はなかった。だから高強度のプログラムは苦手だった。
BB3なんて怖くて、受けてみようという気すら無かった。
そうして入会から1年以上は過ぎていた21年の夏、FEEL 9というイベントが開催された。

要はビンゴカードみたいなもので、9種類に分けられたプログラムを全種類受ければちょっとした景品がもらえる。

景品は欲しい、でもBB3を受けないといけない、今思えばしょうもない葛藤を抱えながら話をした。
あっけらかんと「大丈夫ですよ!」なんて笑って。
そしてその後に「一緒に頑張りましょう!」ってまた笑顔で。

この人のレッスンなら頑張れるかもしれないと思った。
恐る恐る3House2を予約して、前の日はたっぷり寝て、
部活の試合に臨むみたいな緊張感の中でレッスンを受けた。

キツかった。正直めちゃくちゃキツかった。
完走には程遠く、ラス前で限界を迎えたところまでしか記憶は無い。

ただ、自分がチャレンジしたこと、新しい世界に踏み入れたこと。
そして
背中を押してくれたから、一緒に頑張ろうって言ってくれたから、その挑戦ができたこと。
それだけは忘れないでいられた。


4年と3か月。自分の身の回りには大きな変化があった。
職場が変わり、仕事が変わり、新しいことも学び始めた。
時間の使い方、関わってくれる人、物事への向き合い方、色々なものが目まぐるしく変わっていった。
きっと人は、変化があると否が応でも「何か」を考えるようにできているのだろう。
そして考える機会が増えると、ふとした時から「理想の自分」との戦いが始まる。

もっとこうしたい、こうありたい、でもできない、上手くいかない。

良い時があれば悪い時もある。なんなら悪い時ほど続くような気もする。
抗って、落ち込んで、気持ちの整理がつかない時が増えていく。

たぶん、そうやって誰しもままならない人生を送っている。

でも自分は、FEELCYCLEに行けば元気を貰えた。


仕事がちょっと大変で、と、ぽろっと溢す。
「じゃあ今日のレッスンはぴったりですね。
前を向こうって思わせてくれる曲だから、きっと寄り添ってくれますよ」なんて、
頑張ってくださいとか、大変ですねとか、そういうねぎらいの言葉は勿論それだけで十分ありがたいのだけど、
それ以上にもっとずっと深く、自分に響くような言葉をかけてくれる。

そうやってたくさんの元気を分けて貰った。
レッスンを受ける回数はますます増えた。


ただ、インストラクターとの距離感は難しいなと思う。
とくに異性のインストラクターとの距離感は、殊更に。

いわゆる「ガチ恋勢」と周りから思われても仕方ないなと感じていた。
自分の中でそういう気持ちは無くて、ただ純粋に応援しているつもりでも、それは外からは見えないものだから仕方ない。

仕方がない。仕方がないけれど、「そういうファンが付いていること」自体が下手したらインストラクターにとってマイナスになるんじゃないかと思うと、そのせいで他のお客さんが離れてしまうんじゃないかと思うと、それは自分で自分が許せない。

許せない自分と、それでもファンだから最前列に陣取りたい自分。
矛盾してるなと思いつつ、せめて、最前列のドセンターからは少しだけずらした場所で、なんとなく目線は下の方を向けながら漕いだ。

そうやってギリギリのラインで気を回したつもりで、
自分で勝手にラインを守っている気になって、
結局それも全部が自己満足だと嫌悪したりもする。

もっと別の形で応援すればいいのになんて自分に言いたくなって、
でもそれはできないし、そんなやり方思いつかないし、
次第に自分でもわけがわからなくって、
つくづく自分はアホなんだなぁと思いながら、
最後にはまぁ、アホでもいいやって開き直る。

何度かそういうことを繰り返した末に、考え過ぎて後悔するよりよほどいいなんて、とりあえずレッスンをいっぱい受けようなんて、いつの間にか、自分本位な所に気持ちを落ち着かせていた。


時々考える。
インストラクターはみんな、いつでもキラキラしている。
あるいは少なくとも、そう見えるようにふるまってくれている。
でも楽しいことばかりではないはずで、きっと推し量れないくらい大変なこともあるはずで。
インストラクターの人がつらい時に何か、会員の自分に、ファンとしての自分に、できることはあるだろうかと問いかける。
本当はそんなもの無いとわかっている。
何かできないかなって考えてみて、結局レッスンを受ける以外の考えは思い浮かばない。
いつもレッスンで元気を分けてもらっているのは自分の方なのに。


でも、だから、できるだけ、「ありがとう、楽しかったよ」って言葉にするようにした。
元気が無いように見えても、なんだか疲れてるように見えても、
いつでも全力200%で向き合ってくれるから。
本当はもっと伝えたいことが色々あって、話したいことも沢山あって、
でも何が適切な言葉かわからないし、気の利いた言葉をさらっと言えるキャラでもないし。

だから色んな気持ちを乗せて、「ありがとう、楽しかったよ」って、スタジオを後にする。
そうしてちょっと振り返って、ガラス扉越しに手を振って、
結局自分が温かい気持ちになっていることに気が付きながら電車に乗る。
そんな繰り返しだった。


なんとなく、そろそろかもしれないとは思っていた。
驚きはそんなになかった。
寂しくなるなとは思った。それはもう、耐え難い程に。

けど、やりたいことを考えて、次のステージを選んだって教えてくれた。
嬉しかった。
新しい日々が彩りに溢れて、穏やかな光に満ちたものになって欲しいと思った。

でもそういう気持ちさえ、本当に伝えたい気持ちさえ、その場では上手く言葉にできなくて、
そしたら「これからも "らしく" 頑張ってくださいね」って自分が元気づけられてしまった。
こんな時にまで貰う側にいる自分が憎らしくてたまらない。


恩送りが苦手だ。
恩返しがしたい。

いつも元気をたくさん貰っていて、貰い過ぎな気がして

少しでもお返しがしたいと思って、返し方はわからないまま、レッスンを受けた。
一昨日も、昨日も、今日も。

そして明日もレッスンを受ける。
明日で、最後のレッスンを受ける。


本当に。本当に返しきれないほどの元気を貰って、
貰ってばかりだったこの恩は、きっとずっと返せないままで


だから祈る
どうか、どうかこれからも元気でいてくれますように

だから誓う
この先もずっと、ずっとずっと応援しています


推しと一緒に、文字通り走り抜けた4年と3か月は
本当に楽しくて、いつだって全力で、温かくて、
後悔なんて微塵もない、心の底から幸せな日々だった。
ファンになれて良かった。出会えて良かった。


ありがとう!!楽しかったよ!!

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