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お祭りの日

9月。日中はまだまだ暑く、夕方にはスッと気温が下がりはじめた頃の話。

私が暮らす町では、4年ぶりに本格的なお祭りが再開され夜店が出た。

午後6時。辺りは暗くなってきている。
家を出て、ズドーン、バチバチバチ、シューと花火の音がなる方角へ、家族4人で向かう。
子ども達は音が大きくなるにつれ足早になり、弟は駆け出す。横断歩道で息子に追いついて、信号が変わるのを待つ。交差点むこうは側は、お祭りに来た人でいっぱいだ。

横断歩道を渡り終えると人が増えて、はぐれてしまいそうなので、お姉ちゃんはお父さんと、弟は私と離れないようにと伝える。
子ども達は人混みの中を、夜店に向かいずんずん進む。
焼きそば、から揚げ、かき氷、チョコバナナ、りんご飴、カステラ…店を見て歩き、ひとまわりしたところで、かき氷屋に戻り、姉弟は100円玉2つと大盛りのかき氷を交換した。

人が溢れる通りから逸れ、広場の階段に座る。
広場には、浴衣姿の女子のグループや、背の高い高校生くらいの男の子の集まり、小さな子どもを連れたお母さんやお父さん、いろんな人たちがいる。

階段に座った7歳息子はイチゴ味、9歳娘はカルピス味の氷を口に運ぶ。しばらくして夫も欲しいものがあると屋台へ向かった。

姉弟が食べる氷を横目に見ながら、視線を辺りにやると、5メートル程離れたところの、お母さんと男の子が目にはいった。

男の子は小学校1、2年生だろうか。半袖半ズボンからは細く白い手足が伸びる。お母さんは白いブラウスに紺色のスカーチョ姿、髪は後ろに一つに束ねている。
なぜニ人が目に留まったのだろう。
息子と同じくらいの背丈の男の子だったからかもしれない。

二人は花火が「ズドーン」と轟くたびに、身を寄せ会い、お母さんの手で男の子の耳を塞いでいる。耳が良く聞こえる子なのかもしれない、と
思う。男の子は花火が鳴ると、お母さんにしがみつく。辺りを行き来する人達は二人をよけて通る。

母と子を見ていると、心もとないような心細いような気持ちが押し寄せてきて、どうして二人ここにきたんだろうと、つい何度も見てしまう。


自分の隣に座ってかき氷を食べる姉弟は、ハイスピードで食べ進め、こんもりと盛ってあった氷の山がなくなりはじめている。
私の視線を感じたのか、横に座る息子が冷たそうに口をすぼめてこちらを見る。

よく聞こえる耳という意味では、息子も音に対して過敏なのかな、と思うことがあるが、今日は花火に対して今のところ耳を押さえて小さくなるなどの反応は見られない。同じ「大きな音」でも、本人が好きなことに関わる音かどうかや、その時の疲れ具合で反応が違うように思う。慣れているかどうかも関係ありそうだ。

ズドーン、ド、ドーンッドン、バチバチバチッ。花火は続く。私はまた母と子を見る。

その時、お母さんと男の子の前に男の人が歩み寄った。きっと、男の子のお父さんだろう。手には紅いりんご飴が2つ。
一言二言話してから、三人はそろって歩き始め、お祭りにきている人の中に入っていった。

人混みに消えていく後ろ姿を見送りながら、紅いりんご飴を思い返す。
あのりんご飴は、男の子が欲しがったのかな。
きっと、お父さんは息子の為にりんご飴を、人でごった返した夜店へ買いに行ったんだろう。お母さんは男の子と一緒に、人混みを避けてお父さんを待っていて、そこを私が見かけたのかな。
男の子は、もしかしたら、今日初めて近くで花火を体験したのかもしれない。そんなことを想像した。


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