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なくした探し物の行方 #春風怪談

 私の家系は、見えないものへの感覚が緩い。お化けがどうのとか幽霊が見えるとかそういう話ではなく、自分で言うのもなんだが、古き良き日本の精神を持っている。
 そしてこれは、本当にあった少し不思議なお話。

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 お盆。それは亡くなった先祖が帰ってくる期間だとされている。
 祖父が亡くなって2ヶ月ほど経ったその日、私たちは初盆の準備をしていた。と、言っても浄土真宗なので大したことはしない。ただ親戚が集まってごはんを食べる、それだけだ。

 金庫からお金を取り出そうとしていた祖母が、あ!と声をあげた。
「あんた! これこんなとこにあったがな!」
 そう言って父に向って差し出されたのは、印鑑として使える銀の指輪。父が亡き祖父に、どこやってん、とずっと訊いていたものだ。
「ああ、じいちゃん探して入れといてくれたんやな~」
 私は呑気に言い、父にあほう!と怒鳴られた。
「葬式から今まで何回金庫開けてると思ってんねん。なかったわ」
 
 ああ、と一同が声を上げた。

「ほなずっと探してて、お盆で帰ってきたし言うて入れといたんちゃう」
「じいちゃんせっかちやから、そもそも向こう行ってへんと探し回ってたんかもしれへんな~」
「今もこんなん言われてるって怒ってはるんやで、きっと~」

 笑い声が響く、夏。最期までぼけることのなかった祖父は、父の欲しいものを忘れずに探しだしてくれたようだ。

 今祖父の見えない手によって差し出されたその形見は、父の指を飾っている。
 

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 こちらの企画に参加いたしました。
 あんこぼーろさん、素敵な企画をありがとうございます!
 私の話は怪談になっているのか……不安でなりませぬ。怪談って不気味な話のイメージなんですけど、これは本当になんというか、日常の一コマで。でも不思議な話なのでいつか書きたいと思っていたところ。
 よい機会をいただき、ありがとうございました。


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司名森ちほ
読んでいただきありがとうございます❁¨̮ 若輩者ですが、精一杯書いてます。 サポートいただけたら、より良いものを発信出来るよう活用させていただく所存です。