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変わるもの 変わらないもの

 腐れ縁の男友達がいる。中学三年からの付き合いだから、もう十年以上になるのか。
 彼とは1年に1、2度会うか会わないか。会うのはだいたい、車を出してくれと私が依頼するとき。彼が自分で私の足だと言っているくらい、私は彼を遠慮なくこき使う関係だ。

 その彼が珍しく、私に頼み事をしてきた。転職をするから自己PRと志望動機を書いてほしいというものだった(良い子は真似しないでね。ほんとは人にやってもらったらだめよ)。私は国語力があるので、添削はよく頼まれる。けれど、ここまで本人しか分からないだろうことをほぼ丸投げされることは、ない。

「俺しか書けへんことやっていうのはわかってるんやけど! お前、俺より俺のこと知ってるから!」

 そう言われて笑ってしまった。こんなに会わないのに。近況もなにもかも、よく会う人間の方が知っていて当然なのに。年月と相手に絶対の信頼を置く私たち。

「ええよ。やったるわ」
「まじ!? 転職できたら飯おごるわ!」
「お、ラッキー、よろしく」

 何かしてもらって、私がごはん奢ったことなんてないけどね。

「けどほんまにがんばらんといてな! 無理すんなよ!」
「はいはい」

 私はいっつも無理なお願いきいてもらうけどね。

「また困ったことあれば言うてくれ!」
「それはいつでも言う(笑)」

 わざわざ言われへんくても、いつもそうしてるわ。

 彼は私に虐げられていると言う。私は彼を召使いのように扱っているし、周りも彼のことをかわいそうだと言う。
 けどね。本当は、私が彼をだいすきでだいすきで仕方ないんだよ。彼がいなくなったら人生どうしようと思うくらい、私にとっては大事な存在なんだよ。一生つきあいたい存在なんだよ。だれも勝てない、私のいちばんなんだよ。歪んでるのかもしれないけれど、これが私たちの形なのだ。

 もう私はあいつにとって特別じゃなくなったのかも、なんてちらっと思ったこともある。彼女との付き合いも長くなってきたことだしね。お互い大人になったはずだしね。


 ゆるーく繋がっているだけだけど、その糸はとても頑丈で。
 他のだれも入れないし、きっと切れない。
 だれに理解されずとも続いていく。
 お互いを取り巻く環境がいくら変わっても、きっと変わらない。

 この人に出会えて、こうして関係を築けたこと。それは、自分で自分を「よくやった!」と褒めたくなるくらい、自分にとって良いこと。
 出会えてよかった。大事でだいすき。この気持ちもきっと変わらない。
 お互い結婚したとしても、どこかにぜったい存在はあるんだろう。男女ってややこしいけれど、それでもこいつとならきっと。

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司名森ちほ
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