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10代の冒険を見守る存在 映画『エイブのキッチンストーリー』

きみがつくる きみがみつける 社会のトリセツ』の著者の一人、ライチです。
10代の人に向けて書かれたこの本には、映画や本の紹介ページがあります。私たちが本に書けたことは世界のほんのほんの一部で、映画やほかの本にもたくさんの『トリセツ』づくりのヒントがあるからです。(そしてページに掲載できた作品もほんのほんの一部なのでここからさらに探索していってほしい!)

先日、夫が束で借りてきたDVDの中にあって出会った映画『エイブのキッチンストーリー』も、10代で観ても、10代と関わる大人が観ても良い作品だな~~と思ったのでここに記しておきます。
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12歳のエイブは、イスラエル系の父と、パレスチナ系の母を持つ、ブルックリン生まれの少年。料理が大好きだけど、家族はあまり関心を示さない。SNSをサポートツールにして日々、料理実験に取り組んでいる。
夏休みを過ごす場として、料理のサマーキャンプに入れられるが、子どもだましの内容に満足できず、そこを抜け出してSNSで見たクリエイティブな無国籍料理をつくるチコを訪ねる。

10代になった子どもは、そろそろ家族「以外」の交流を必要としている。両親も親戚もエイブを愛しているけれど、成長変化を続けている彼の実像よりも少し幼い認識で彼をとらえている。近い目線で、保護し導く対象としてしか見ていない。しかも導こうとする先は、大人のあいだでも少しづつズレていて、時に対立が起こる。

エイブは表だった反抗はせず、料理キャンプはいやだとも言わず、ただそこを抜け出して秘密の行動として冒険を続けている。それが阻止されても、理由を切々と訴えたりはしない。
この、身近な大人とのコミュニケーションのズレが自分のこととしても思い当たるのだ。
10代の私は、自分は子ども扱いされてると思っていたし、私の本音には関心を持たれてないし(その代わり行動には過干渉)、そもそも親には余裕がなさそうだし、自分の気持ちを説明したってどうせわかってもらえない、という思いを抱えていた。

家族外の大人として、エイブと関わるチコやキッチンの仲間たちの距離感は最高だ。まな板にリュックを置こうとしたエイブに、強く毅然とストップをかけ、ここでの「掟」を教える。毎日ごみ捨て、洗い物、分相応なことしかさせない。その中でエイブは不満ながらも仕事を頑張り、その陰で工夫してこっそり実験料理をしてみたりする。

冒険がバレてSNSを開けない謹慎中もきっと、キッチンの仲間たちは心配していただろうが、その間も再開の時にも絶妙なスタンスでそこに居てくれる。エイブの代わりに戦ったりはしない。ただ再会を喜び迎え入れるだけだ。

こんなスタンスの大人が社会にいっぱいいれば、10代の子どもにとっても親にとってもありがたい。私もそんな大人の
チコたちの屋台のシーンがとても美しく、近所だったら絶対飲みに行きたい。夏の夕暮れ、最高だ。

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タイトル画像は、夫I氏によるアスパラバター。美しい。

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きみトリ著者のひとり、聖子さんのレビューはこちら。


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