#25 遠い星で、また会おう。
※この作品は、フィクションです。
しばらくして、病室に呼ばれる。母さんは、眠っているようだった。お医者さんが俺に話をしてくれた。母さんは、手に傷をつけただけで、命に別状はないと。そして、精神科の入院が必要だと。かかりつけの病院に連絡して、入院できるように手配したと。明日、転院の手続きのために、母さんを迎えに来てほしいと。
「頼れる親戚はいる?」
「いや、いません。」
「明日、もしよかったら、誰か大人と一緒に、お母さんを迎えに来て。」
「夕方に来たらいいですか?」
「十分だよ。疲れだだろう?今日はしっかり寝てね。明日は、学校休んだ方がいいよ。」
その後、病院がタクシーを呼んでくれた。お金がないと言ったら、お金はいらないよ、と言われた。それは申し訳ないからと話したけれど、タダで乗せてくれた。
帰りのタクシーの中で、割増と書かれた料金メーターを眺めていた。お金はいらないらしいけれど、料金はどんどん上がっていく。帰って、小遣いから、お医者さんにお金を返そうと思っていたけれど、6千円を超えたあたりで「甘えさせてもらおう。」と気持ちが変わった。自宅について、お礼を言って、タクシーを降りた。タクシーの運転手さんは、終始無言だった。
家に帰ると、浩介がリビングでテーブルに突っ伏して寝ていた。風呂場をのぞくと、電気が点いたままだったが、蛇口の水が止まっており、元のきれいな浴槽に戻っていた。浩介、ごめんな。ありがとう。
もう、時計は4時を回っていた。俺は、一度シャワーを浴びて、食器を洗い、いつも通り食事の準備をした。弁当も、いつも通り準備した。
うつ病は、ナマケモノがなる病気。それが、友達にばれちゃいけない。俺は、いつも通り。何もなかった。そう自分に言い聞かせていた。
「浩介、今日は、休んでね。学校に連絡を入れておくから。ご飯食べてね。」と書置きを残し、母さんの携帯電話を持って、学ランを着て、カバンを持って、家を出た。バスの時間よりだいぶ早い時間だったけれど、浩介にどう声をかけていいかわからなかった。7時くらいになり、母さんの携帯から「浩介は、熱があって、一日休みます。」と中学校に連絡を入れた。その後、電源を切り、カバンの底に投げ込んだ。いつも通りバスに乗ったときに気づいた。ラケットバックを持ってきていない。
もう、いっか。
母さんを、家を、浩介を、支えることができるのは、俺しかいない。そう感じていた。単語帳を開いたが、アルファベットが頭に入ってこなかった。
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この物語は、著者の半生を脚色したものです。
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