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愛でぬりつぶせ
1年ですって。
正直、私は今でもちゃんと受け入れられていません。
最初に食道ガンの発表があった時は、1年……いや2年もしない内に戻って来るだろうなんて呑気に考えていた。
チバユウスケがガンなんかに負けて死ぬ訳ないじゃん?みたいな。
現実はそう甘く、優しくないものだったね。
2023年12月5日、私はその日早番で、スタッフと一緒に昼食をとっていた。そこそこ忙しい日だったと思う。
Xで不穏な空気を感じ取ってニュースサイトを見た時、本当に喉の奥がぐっと詰まって、痛くて、呼吸が出来ず、心拍数が物凄く上がったのを覚えている。
この頃私は鬱を発症していたので、しばらく呆然として意識しないと涙がボロボロ出る状態だった。
いや、正直鬱とか関係なく、ノーマルでもそんなんなってた気がするけど。
ここで何かが途切れたように精神的にもまたやられて、頭がボーッとして何も考えられず、後にラックから落下して足の指を骨折したりもした。(労災はおりた、会社に謝罪したい)
私のチバユウスケ歴は決して長くない。
ファーストコンタクトはミッシェルのMステだったけど、本格的に聴くようになったのはバースデーになってからだ。
部活仲間から誕生日プレゼントに「音楽と人」を貰った。吉井和哉が表紙のやつ。
当時吉井和哉とかクロマニヨンズ、バックホーンを聴いており、いずれのバンドも載っていたから貰ったんだと思う。
その中に載ってたんだよね、バースデー。
もう手元にないから不確定なんだけど、タイミング的には「Rollers Romantics」の発売辺りのインタビューかな。
あ、あの時のMステの人だ。となり、すぐにアルバムを借りに行った。
聴いたことも無いような声の人だな、わざとがなってるのかなと思ったけど、喋っている声もハスキーで「かっけー!」と高校生と私は思ったものだ。
歌詞の言葉は分かるけど、意味としては「?」なのにその単語単語の組み合わせが絶妙で、聴いてて気分がよかったのも覚えてる。もちろん今もそうなんだけど。
うんざりするぜお前のしめった感じ メキシコ行け
言いたい事は分かる。分かる、が、突然のメキシコ行きの命令形。んん?
でもメロディにバシッとハマるからコメディにならない。散文的、無意味の意味。
この辺りからJ-POPからロックの方に移っていったのかな。現に高校2年生辺りから両足の膝くらいまではロックンロールにズブズブだったし。
ライブに行くようになったのは2009年の"愛でぬりつぶせ"ツアーから。出会ってから3年とちょっと。
今年の2月末で営業終了した仙台CLUB JUNK BOX、照明が落ちて登場SEのSixteen Candlesが流れた瞬間の緊張感、その佇まいは今でも忘れられない。
映像で見てたそのまま!じゃなくその何百倍のオーラを放っていて、ちょっと気が引けるレベルだったよ。
悪い意味ではない「怖いな、この人」って気持ち。そして怖い以上にもっと見てみたい、深淵に臨みたい、好奇心のような気持ち。
終わってからの感想はね、もう脳が揺さぶられたような。ここまで違う世界に住んでいるのにこっちに来てくれる人がいるんだ、みたいな。
「カレンダーガール」が好きでして。このツアーの時もやっていたな。
奔放で気ままで、媚びないキュートな女性っていうのがずっと理想。未だなれそうもないけど。
しかしながら私は所謂サービス業、中々週末や繁忙期に休みをとるのが難しくてライブに行けない事の方が圧倒的に多かった。
そうこうしている内にイマイさんが抜けてフジケンさんが加入。今まで長尺の曲が多い中でかなりスッキリとして、より洗練されたロックンロールになっていた!
敢えていうなら"現体制"のバースデーは、より自分にハマったのである。
「I'M JUST A DOG」は我が人生のベストアルバムTOP10には間違い無く入る1枚。
夏に入るとどうしようもなく聴きたくなる。
経験がなくても追体験したような気持ちになるのは、チバユウスケのアーティストとしてのクオリティなのか、はたまたあの「声」という楽器の説得力なのか。
……これはどうしようもない思い出なんだけど、「I'M JUST A DOG」ツアーの時、そこそこ前の方に居て。「Red eye」の時にブルースハープをそれはもうセクシーにベロンと舐めたんですよ。
この辺りから私の性癖は歪み始めたと思う、悪い方向に。下品な話でごめんなさい。
基本1人でライブに行くことが多い私だけど、VISONツアーの時は姉と、NOMADツアーの時は友達(斜向かいのお店に務めていた子)と2人で行った。彼女とは後にウィルコ・ジョンソンのライブにも行く事になる。
特にNOMADツアーはね……四日市CLUB CHAOSというそこまで大きくないハコなんだけど、整理番号が1桁で。そりゃもちろん最前で観たよ。後にも先にもこの時だけ、あんなにチバユウスケを近く体感したのは。
もう始まる前からウキウキで16時からやってる飲み屋で2人でワイワイし、ライブ中も音の波に飲まれて感動し、終わってからも飲み屋でやいのやいのと1日を満喫した。
……悲しいかな、これが私の最後のバースデーのライブになろうとは。
バースデーだけではなく、THE GOLDEN WET FINGERSのライブにも行った。
GWFはもっとセッションのような緊張感とグルーブの上にチバユウスケの歌詞が変幻自在に乗っかっているような感じで、酩酊するような世界。
あんなに格好良いのにさ、実にファニーな言動で、はにかむ様に笑い、音楽について語る時はまるで少年のようで……こんなに魅力的だから音楽界でもファンが多いし、リスナーもその人間的な魅力に惹かれてしまうんだと思う。
実際私もそんなリスナーの1人であった。
チバユウスケが死んだ。
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結局ろくにライブにも行けず、果たしてファンとは言えるのか分からない1リスナーの私ですらどうしようもない悲しみに暮れている。
ミッシェルの時からのファン、欠かさずライブに訪れていたファンの絶望は計り知れない。
生でほとんど会えなかった自分を呪った。
立ち直ろうと思って立ち直れるものではない。
それでもチバユウスケが素敵な言葉を残してくれていた。
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音楽は、音は、ずっと君に残るよ。
今もチバユウスケの作った音は残り続けている。
今でもチバユウスケの愛にぬりつぶされている。