【空港税関-怪物図鑑】 #逆噴射小説大賞2023
空港のバックヤード、冷たい床を背に、腕に渾身のチカラを込めて、俺はチュパカブラの首を締めていた。
なんだってチュパカブラの首なんか締めているのか? 仕事だからだ。
俺は税関職員だ。といっても、一般にイメージされるような薬物取締はしていない。空港に運ばれてきた動物が輸入禁止のものでないかチェックするのが俺の仕事だ。基本、イヌネコと書類を適当に眺めるだけ。
だが、違法な動物を運ぶやつもいる。カワウソのような希少動物、危険なコモドドラゴンやユニコーン、殺人ビーバーを密輸するアホがいるというわけだ。最近は南米の吸血UMA、チュパカブラの密輸が急増している。理由は不明だ。
この動物たちと荷主を捕まえるのが俺の職務だ。動物の方は厳重にケージに入れて保護するから安全だが、たまに脱走する禁制品がでる。
何が起きてるか察しがつくだろう。今日は厄日。次から次へと違法動物が逃げ出した。端的に言って、大惨事だ。
同僚はユニコーンのツノに頭を刺されて虫の息。上司は殺人ビーバーに食われて死んだ。検疫検査官は大量の血痕を残し消えた。コモドドラゴンは行方不明。チュパカブラは7頭も脱走し、空港のダクトに潜り込む始末だ。
俺は対処した。ユニコーンの角をへし折り、殺人ビーバーを殴り飛ばして昏倒させた。そして今、ダクトから引きずり出したチュパカブラの首を締め上げている。動物虐待? 知ったことか。
甲板の鮪のごとく大暴れするチュパカブラも、3分ほど締め続けるとぐったり大人しくなった。
俺は気絶した吸血UMAを押しのけ立ち上がった。まだ6頭、空港内をお散歩している。利用客の目に触れる前に拘束したい。表沙汰にならなければ、始末書も少なく済むはずだ。
そう考えているところに、第2ターミナルの方から女性の叫び声が聞こえてきた。あの絶叫、出産してるか、チュパカブラに遭遇したかのどちらかだ。俺は前者であることを願い、走った。
【つづく】