白紙
あなたは年賀状が来たら、ちゃんと返しているだろうか。
私は一つ一つしっかり目を通して、手書きで住所を書いて送っている。
相手が返してこなくなるまでは全部そうしており、小学校どころか幼稚園の時のもはや顔も覚えていない友達とも年に一回だけのやり取りが続いている。
そんな恒例の行事の中で、不思議なことがあった。
始まりは7年前だった。
小学校の時の友達にJと言う少年(今はおっさんだが)がいた。
親友というほどでもないが家に呼んだり呼ばれたりしてゲームで遊ぶぐらいの友人で、授業中に寝るようなやつだったのを覚えている。
彼もまた、年賀状のやり取りを続けている一人だ。
しかし5年前に、異変が起きた。
その年もJからの年賀状が届いたのだが、その文面が異様だった。
……いや、これは正しい表現ではない。
文面が無い、と言うより完全に真っ白の年賀状が送られてきた。
Jの住所と名前はちゃんと書かれているのに、メッセージの面は郵便局かどこかで買ったそのままになっていたのだ。
当時ちょっとびっくりしたが、彼がたくさんの人に年賀状を送っているなら一つぐらいメッセージを書き忘れたり、あるいは印刷し忘れてしまうと言うこともあるだろうと思い、それで納得した。
このことはすぐに忘れ、まる11ヶ月後に年賀状を作る時になって思い出し、彼に送る年賀状には「今年のメッセージが楽しみです」といった具合に伝わるか伝わらないかわからないような皮肉を書いてポストに投げ込んだ。
まさかその年もJから白紙の年賀状が来るとは思っていなかった。
同じことが二度も続くと、流石に書き忘れだとは考えにくい。
一旦は「熱で消えるタイプのボールペンで書いたせいでメッセージが無くなったんだろう」と予想したりもしたが、よく考えたら住所の方は消えたりなんかしていないので、ありえない。
彼を怒らせるようなことを年賀状に書いてしまったのかと言えば、当たり障りのないことしか書いてないはずだし違う気がする。
あるいは疎遠で怒られても問題がないからってイタズラのターゲットにでもされたのだろうか。
少し不審に思いながらもこの事はまた年末まで忘れ、「年賀状真っ白ですけど、何かありましたか?少し心配です」と書いて送り返した。
そんなことを知ってか知らずか、やっぱり白紙の年賀状が返ってきた。
実害は何一つ無いが、流石に3回も続くとJのことが気になってくる。
小学校の頃の連絡帳なんか無いし、一度家族の引っ越しで県を跨いだので、彼の家はそれなりに距離がある。
唯一ある手がかりは手元にある年賀状だ。
ここにはちゃんとJの住所が書いてあり、少なくとも地名は彼や私が住んでいた地域がしっかり書かれているので、嘘が書かれているなんてことは無いだろう。
私は検索サイトを開き、衛星写真で彼の家を探してみた。
そこにはお墓が……なんてことはなく、見覚えがあるような無いような家が確かにあった。
駐車場には車が止まっているのを確認でき、まだ人が住んでいるらしい事が確認できる。
その写真がいつ頃のデータなのはよくわからないが、とりあえずJはちゃんと生きているんだろうと思い安心してしまうことにした。
その後も彼から白紙の年賀状が届き続けたが、文字通りの「便りのないのは良い便り」だと思って気にせずこちらも年賀状を返し続けていた。
と言うのが、去年までの話だ。
今年は小学校の同窓会があり、そこでJの現在を知ったのだ。
と言うかJはちゃんと同窓会に来ていた。
彼が嘘をついていないと言う前提での話になるが、Jは白紙の年賀状について何も知らなかった。
彼は7年前から、私には年賀状を送っていなかったと言うのだ。
なんでも当時の三が日に泥棒に入られ、年賀状が盗まれてしまったらしい。
これがまたおかしな泥棒で、年賀状以外には本や漫画、ノートを盗んでいったが、現金やその他値段が付きそうなカメラやゲーム機なんかには手をつけなかったと言う。
そう言うわけでJは以前まで年賀状をやり取りしていた相手の住所を確認する手段を失ってしまい、仕方なくその年は送るのを諦め、届いた年賀状に返すだけにしたのだ。
私の年賀状は返ってこなかったので、そこで縁が切れたと判断したそうだ。
私が7年間年賀状を送り返していた住所をJに見せたが、それは間違いなく正しいものだった。
何故私の年賀状が彼のもとに届かず、そして誰が白紙の年賀状を返していたのかは結局分からなかった。
隣で話を聞いていた別の旧友は「もしかしたらその泥棒、今でも正月にJん家のポストからK(私)の手紙を盗んでるのかもな」なんて言っていた。
それに対しJは、玄関に防犯カメラをつけられないか調べると返していた。
私もJとスマフォでの連絡先を交換し、また手紙が届いたら連絡することにした。
結果が出るのは、もう数日後の話になるだろう。
※この物語は事実に基づいていない部分があります
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