終わりは、始まりのはじまり。
もしあなたの好きになった人が、
"100万円貯まる度に、住む街を転々としている人"
だったらどうする?
ずっと一緒に居たいからと引き止める?
一緒に着いていく?
それとも⋯
まずはこの映画を観て感じたこと。
気持ちは言葉にしないと伝わらない!!
きっと全日本人…いや、全東洋人…いや、全世界の人がそれぞれの人生経験を通して気付いているはず。
わかっていても簡単なことじゃない。
これも知ってる。
伝えたい言葉を言わなかった、言えないままだったことはきっと誰もが経験のあることなんじゃないでしょうか。
ここで少し映画の内容に入っていきますね。
まずはざっくりとあらすじを𓃠
鈴子は拾った猫を同居人の男性に捨てられてしまったことがきっかけでその男性の荷物を処分したために、器物破損の前科持ちになってしまう。
それが理由で帰ってきた実家に居るのも肩身が狭くなり、「100万円貯まったら出ていく、誰にも迷惑かけずに生きていく」と家族に告げた鈴子は、働いて貯金をし、100万円が貯まりとうとう実家を出ます。
気の向くままに見知らぬ街に移り住み、働いて貯金をし、100万円貯めたらまた次の街へ移住していくという物語。
鈴子と亮平
鈴子は海沿いの町から山へ、山から地方の町へとやってきます。
その町の花屋でアルバイトすることにした鈴子は、亮平(バイト先の先輩であり、鈴子と同い年の大学生)と出会い、亮平は仕事熱心な鈴子に、鈴子は優しくて頼りになる亮平に惹かれていきます。
あるとき亮平は鈴子をお茶に誘い、そこで鈴子は自分が前科持ちであること、そして、100万円貯めて街を移り住んでいる事を話します。
その日の帰り道、ふたりは互いの気持ちを打ち明け、付き合うことに。
しかし亮平は"100万円貯めたら鈴子がこの街を出ていってしまうのではないか"という事が気に掛かり、ある行動に出ます。
それは鈴子にお金を使ってもらうこと。
デートの時の映画代も食事代も鈴子にお会計をしてもらい、時にはお金を借りることも。
(お金を借りる目的は言っていなかったから何も使わないんでしょうね)
またある時には鈴子のシフト表をチェックしてお給料を計算したり。
うーん、これでは何だか逆効果では?と思いますよね。
でも亮平はただ不器用なだけで。
大学の後輩に講義のノートを貸してあげたり、花屋でも店長やお客さんに頼りにされ、気乗りしないバイトの飲み会でも鈴子に心配りができたりと根がすごく真面目なんでしょうね。
ヒモ男を演じて、物理的にでも鈴子を引き止めたいと思った。
好きな人が「街を離れる=お別れ」なんて想像したら、誰だって放っておけないし、何とかしたいと思うはず。
でもその行動の真の理由は鈴子には伝わらない。
自分のことが本当に好きだったの?
お金目的だったんじゃないの?
そんな事をひとり考えて、亮平の気持ちがわからなくなってしまった鈴子は街を出て行く決断をします。
事情を知っていたアルバイト先の後輩からの後押しもあり、「このまま誤解されたままではダメだ」と我に返った亮平。
キャリーバッグを引いて駅に向かう鈴子を、追いかけるもどこにもいない。
間に合わなかったか…と諦めて引き返そうとふと目線を上げた先には、鈴子の姿が。
そこは駅に繋がる歩道橋の上。
しかし鈴子は亮平には気付かず、どこか遠くのほうを見つめている。
鈴子はこう呟く、「来るわけないか」。
映画はここでエンディング。
自分の気持ちが全く別のフィルターを通して相手に伝わってしまい誤解を生んで、互いの間に見えない一本線が引かれたような気分になるのって辛い。
鈴子があの時歩道橋の上で後ろを振り返ったのはやっぱり亮平を好きだったから、もしかしたら追いかけてきてくれるかもと少しの可能性を考えたからだと思うし、亮平を信じたかったからだと思う。
自分が何をされたって、好きな人には追いかけられたいもんね。
鈴子が少し目線をずらして亮平に気付いて再び会えていたとして、今までの誤解が解けていたのなら鈴子はたぶん「なにそれ」なんて言いながら笑って許したりしたのかな〜(妄想)。
そして、それと同時に鈴子の"100万円移住の旅"は終わっていたのかもしれない。
(それはそれで…寂しい??)
ラストのワンシーンは画面の向こう側の鈴子に向かって、「ほら!後ろ!後ろに居るよ、気付いて!」と心の中で叫びたくなったけれど、少し頬を緩ませながら遠くを見つめる鈴子の目に、過去を振り返らないという決意と、次の旅の行く先を見たような気がして背中を押したくなりました。
鈴子、次はどこへ行くの?
*
エンドロールで流れる原田郁子さんの
『やわらかくてきもちいい風』。
鈴子から弟への気持ちが歌に乗って澄んだ空気の中をふわっとゆるりと流れていくようなイメージが浮かんで、じわっとなりました。
こちらも、ぜひ。