「公共交通機関」のあり方が見直される世界で、僕がLUUPというインフラをつくる理由
はじめまして。Luupという会社の代表の岡井大輝といいます。
僕らは2018年に設立したモビリティインフラを創る会社です。これまで電動キックボードなどの電動小型モビリティや、それをシェアリングするためのサービスなどを開発してきました。以下が弊社の扱う機体の一部です。
新型コロナウイルス感染症の拡大にともなって、僕のところには「満員電車に乗りたくないけど通勤はしなきゃいけないから、早く電動キックボードのシェアサービスを使いたい」「LUUPの電動キックボードってもう買えるの?」「LUUPの電動キックボードちょーだい」といった声が多く、というか大量に、届くようになりました。
しかし、日本国内において電動キックボードは法令上原付バイクの扱いであるため、海外のように走ることはできないのが現状です。
そのため、規制の適法化に向けた検討をする必要があります。それ故に僕らはまだまだ機体の安全性を検証するための実証実験を必要としていて、「これ!」といった事業をスタートしているわけではありません。
そんなステータスな会社ですが、将来のサービス展開に向けて全国自治体との連携協定の締結や、国内最大手企業のアクセラレータプログラムの採択など、さまざまな協力を得ることができています。
なぜ設立1,2年の若い会社で、それが可能になっているのか。それはLuupが近い将来日本の重要な課題を解決すると信じて貰えているからだと思います。
今日はその課題の共有を通じて、LUUPが目指す未来をお伝えしたく、はじめてnoteを書くことにしました。
(「withコロナ時代」において短期的に僕らがどんな価値をどう提供していけるかは、かなり長くなってしまうので今月中の次のnoteで書きたいと思います。)
ここで言う日本の課題とは、今後の日本の人口動態や都市構造の変化に交通インフラがついていけなくなることです。以下で、説明をしていきます。
そもそも日本の交通インフラは、海外に比べて全く進化していない
まずそもそも日本の交通インフラは、長年大きくアップデートされておらず、世界との差は開く一方であるというのが現状です。
具体的には、みなさんの通勤の形は数十年間変わっていません。たとえば、通勤を最も支える「電車」として山手線が開通したのは、1903年です。他にも、自動運転の法整備も海外より格段に遅れています。
弊社の扱う電動キックボードは、アメリカだけでなくドイツやフランスといったヨーロッパでもすでに街じゅうでシェアサービスが展開されています。直近1年で先進国の都市へ旅行をした人であれば、ほぼ必ず街中に並んだ電動キックボードを目にしたはずです。
上の地図は、電動キックボードが普及している国を表現したものです(Luup調べ・2020年作成)。実は、先進国で電動キックボードが走っていないのは、日本とイギリスだけなのです。
ただ、イギリスについても、政府で規制緩和に向けた実証開始のニュースが、2020年1月末に出ました。つまり、事実上残るは日本だけになってしまいました。
日本の交通インフラがこのような現状の中、それを取り巻く日本の社会課題はより悪化していきます。具体的に、都市部と地方部に分けて見ていきましょう。
三茶から徒歩20分って、不便すぎません?
たとえば、「三軒茶屋から徒歩20分」みたいな場所って、正直なところ不便じゃないですか? あとは「駅からバスで10分」といった場所とか。でも、実際問題として住宅地の多くは駅から離れた場所にあります。
この不便さは、今後都市部の過密化に伴ってさらに深刻になっていきます。具体的に言うと、日本の人口が大幅に減っていく中、実は東京などの大都市で人は増えています。言い換えると、都市部が過密化してきているのです。
そんな大都市で不動産を探すとなると、駅前の物件には限りがあるので、駅から徒歩20分や30分といった離れた場所に多くの人が住むようになっているわけです。
一方で、渋谷と恵比寿の中間にあるカフェは、昼間にいくと空席が多く採算が成り立っていなかったりすることは珍しくありません。JRの乗車人員なら渋谷は日本の第6位で、恵比寿は第20位なのに!これは、人々は駅から遠いところに住んでいるのも関わらず、昼間人口は駅前に密集していることに起因します。
そもそも「駅前に全てがあって、駅から離れると何もない」という感覚に、僕らは慣れすぎています。
先人たちが日本の至る都市間に電車というインフラを発達させたからこそ、今後はそれに加え「駅からその先」の移動手段が必要なのです。
先人たちが電車網を発達させ、インフラを作った現在の日本だからこそ、「駅からその先」の移動手段がこれからは必要なのです(いわゆる「ラストワンマイル」の移動はこれに該当します)。
地方部では、ご高齢者のアシがない
地方における深刻な課題の一つなのは、「ご高齢者のアシがない」ことです。地方では「近くのコンビニ」といえど1kmや2km離れているので普通は車で移動します。歩くと30分かかる距離も車ならたった5分です。
ところが、ご高齢者になると、様々な事情で車に乗れなくなることがあります。電動シニアカーは値段が高価ですし、最大時速が6kmですから、車の代わりにはなり得ません。
これらの過疎化といった社会課題は、僕がLuupを創業してから話をしてきた数十の市区町村に共通していました。驚くことに、すべての自治体が交通インフラの将来に似たような課題を抱えていたのです。
このまま行くと日本の人口の3分の1はご高齢者になります。その場合、運転手不足やオンデマンドバスの不採算などにより、交通インフラが維持できない農村のほとんどでは人々が従来通り生活することが難しくなります。
この交通インフラ不足を解消するため、僕らは「マイクロモビリティ」で未来を作りたいのです。そこに最先端の技術を取り入れ「電動」にすることで、安全性の向上、環境、移動の利便性にも配慮した本当の解決策になる思っています。
たしかに、電動キックボードは二輪なので、若者向けだと思います。今後は、ご高齢者も乗れるようなマイクロモビリティが生まれてくるはずです。
(以下の画像は足腰に不安のある方も含め、ご高齢者が安心して乗れる弊社のモビリティが示されています)
ここでご高齢者のお話をあえてさせていただいたのは、Luupが電動マイクロモビリティを推し進めている理由が、「気楽に移動できたら楽しい」みたいな感覚だけではなく、今後より深刻化する社会課題の解決につながると信じているからなのです。
Luupが目指す未来に、「電動・小型・一人乗り」はマスト
そもそも、電動マイクロモビリティは以前からありました。皆さんもおそらく知っているセグウェイがそれです。12年前に登場した当時は、一台約100万円で、インストラクターが必須な乗り物でした。
それが、IoTの進化とバッテリーの軽量化が進んだ結果、一台あたり数万円でインストラクター不要な電動キックボードが開発されました。そしてそれがシェアリングとして世に広がったのが2年前になります。今後も様々な新しい機体が開発され続けると考えています。
Luupも現在は、キックボードタイプや四輪タイプなど、ご高齢者にも利用してもらう前提で複数の機体を開発しています。そして、数年後には「電動・小型・一人乗り」のユニバーサルな1つの機体に集約したいという未来像を持っています。
下記は、現段階で僕らが作りたいと思っている、機体のイメージです。
繰り返しになりますが、「電動・小型・一人乗り」はマストです。具体的にそれを説明させてもらいます。
まず、電動にできなければ、逆走防止や危険感知による自動の速度低減といった安全を守る機能が付けられません。(人力で走行するということは安全制御は運転手のみに全て任せられることを指します)
また、小型でなければ都市部に多く配置することが難しくなります。地方の場合でも、細かい路地に入れないと使いにくくなります。
最後に、一人乗りでなくては非効率です。今後は人口の3分の1がご高齢者になるのに、運転手をつけて誰かを運ぶという手段だけでは効率が悪いと考えています。
ちなみに、ありがたいことにLuupも「電動キックボードの会社」として少しずつ認知されはじめていると実感することが増えてきました。
Luupは今後も電動キックボードのみにこだわらず、電動マイクロモビリティを包括的に扱っていきたいと思っています。
「電動・小型・一人乗り」の未来に向けて、必要なのは「安全性」の検証と確保
日本での電動マイクロモビリティの社会実装のため今必要なことは、機体/サービスの安全性の検証と、業界全体の安全性の確保です。
安全性の検証のために、Luupは地方自治体や大学などと協力し、直近半年間で全国30ヶ所において実証実験を実施してきました。単純計算で考えても、毎週1ヶ所のペースでやってきたことになります。
実証実験を重ねるのには大きな意味があります。実証実験では、日本各地の実証場所に僕らが開発した機体を持っていきます。地元の関係者の方々に機体の性能を説明したうえで、ご高齢者、障がいのある方、若者といった様々な方々に機体に乗っていただき、ダメ出しをしてもらっています。その結果として、電動キックボードの機体だけでもすでに8回のバージョンアップを重ねてきました。
また、現地に赴き人々の声をお聞きすることで市区町村レベルでの細やかな安全上のリスクや課題の違いにも気づけました。
一方で、業界全体の安全性の確保のためには、「マイクロモビリティ推進協議会」という業界団体を立ち上げました。Luupが主導的立場を任せていただきながら、業界における安全面の担保と政策提言を定期的に行なっています。協議会に参加する企業は、言わば競合企業です。それでも建設的な議論をしながら業界を進めていけるのは、たとえ競合であっても業界として協力をして、日本に安全なインフラを作りたいという協議会企業の目標が一致しているからだと思います。
関係省庁ともしっかり議論を重ねていく中で日々感じるのは、「なんとか規制緩和させよう」という考えではなく、「悲しい事故を起こしたくない」という各社の思いに尽きます。
日本でも福岡市が「電動キックボード特区」を政府に提案し、推進協議会のメンバーでもあるアメリカの電動キックボードシェアサービス「Lime」の実証実験に協力するなど、Luup以外にも各地での実験が進んできています。国内企業ですと、株式会社mobby rideさん、株式会社mymeritさんたちが協議会のメンバーになってくれています。現在、国内で自治体との連携協定を締結できているのはLuupのみですが、今後は他の企業も同様の動きをとっていくのだと思います。
人生を賭けて、インフラをつくる
Luupという会社は「可能な限り早く、これからの日本に適した新しい交通インフラをつくる」ために存在しています。
社員や自分の子供が当たり前のように電動マイクロモビリティで移動し、まさかそれが数年前にベンチャーによって作られたとは誰も考えもしない。そんな未来を実現したいのです。
大変長くなってしまいました。最後まで読んでくれたみなさん、本当にありがとうございます。まだまだ不安な日々が続きますが、どうぞご自愛ください。
今回は未来の話がメインでしたが、次回以降はより具体的な(そしてこんなに長くない)お話をします!それではまた次のnoteで!
追記:「今月末には次のnoteを」とのことですが、全然間に合わなそうです!ごめんなさい!