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世界のブックデザイン2023-24:感覚を巡るブックデザインの旅
2024年3月にドイツ・ライプツィヒブックフェアで発表された「世界で最も美しい本2024コンクール」の受賞図書と、日本、ドイツ、スイス、カナダ、中国、フィンランド、デンマークの各国コンクール受賞作品が会する本展。展示図書を実際に手にとれる貴重な機会でもあり、文字だけでなく手触りや装丁のワクワク感を味わえるのが魅力。
1. 最初に気になったのは,『世界にひとつきみだけの国語辞典』(小学館)
木箱入りの国語辞典というだけでわくわくした。
言葉を編む国語辞典を生涯で一つ、自分のためにも、誰かのためにも、これから言葉を見聞きしていく人のためにもプレゼントしたくなる。
カラフルな写真やイラストが満載で、例えば「かなとこ雲」には実際の写真とイラストを交えてわかりやすく解説。
「自分の名前が辞書に載る」といった仕掛けがあり、プレゼントにもぴったり。
子どもの頃に持っていた辞書よりずっと特別感があって、「いまからでも欲しい!」と思わせる1冊。
2. 次に気になったのは,『ここにいるよ』(シズカ)
本文の合間に挟まるトレーシングペーパーが効果的。合間合間に挟まるトレーシングペーパーが、いなくなった何か(本の中では亡くなった猫)が悲しみにくれる少年に、はかなくも寄り添う姿を表現しており、世界に引き込まれていく。
亡くなった猫の面影が、哀しみに暮れる少年にそっと寄り添うように描かれ、ページをめくるたびに世界観へ引き込まれる。
存在のはかなさ、気持ちの揺らぎ、透ける紙、感性に語り掛けるための余白がたっぷりとつまった本。透明感のある紙で「存在のはかなさ」や「気持ちの揺らぎ」を表現し、読み手の感性を刺激する装丁が美しい。
3. 紙の箱の中に本、写真などが色々と詰まっている『賦彩照:20世紀下半葉的着色照片』(晉永權, 晉悅然)
箱の中に本や写真などがいろいろ詰まった“宝石箱”のような一冊。
箱を開ける瞬間のドキドキ感が楽しく、写真資料や冊子がセットになっていて発見の喜びが大きい。
「箱に詰め込まれた教材」というアイデアは、教科書やワークブックなどに応用できそうで刺激的。
4. このあたりで、この展覧会来てとってもホクホクした気持ちになっている。『年齢のこと:年齡這回事』(裘山山)
24の文章を「1日の24時間」に見立て、1冊を読み終えると1日が経過したことになる仕掛け。
各ページが時の流れを意識させるデザインになっていて、「年齢」と「時間」を結びつけて感じられるつくり。
大胆な時計の針の表現も特徴で、「読みながら現実世界の時間をも意識する」という体験が新鮮。
5. 『Kniha vnímání:感覚を知る本』(Lucie Lučanská)
各ページでそれぞれの感覚を使いながら感覚を知ったり、感覚を研いでいく本。ページごとに五感を使ったしかけがあり、子ども向けの短い絵本ながら、「感覚を研ぎ澄ます」体験を促す。
物理や身体感覚へのアプローチが含まれており、しっかりした内容の「感覚を学ぶ本」の可能性を感じさせる。
6. 『inhen har sett det du ser: それを見たのは君がはじめて』(Heidi Bale Amundsen)
スパイラル(リング)製本の大判本。
子どもの視点でエドヴァルド・ムンクを理解・共感しながら進む美術教科書のような1冊。
ワークブック的な要素もあり、実験や失敗を肯定して「創造する楽しさ」を大きく取り入れている点が魅力。
持ったときや開いたときに感じる余白や紙の質感が素晴らしく、「こんなワークブックを作りたい」と思わせてくれる。
今回の展覧会では、実際に本を手に取ることで、装丁や素材、仕掛けの面白さを全身で感じられたのが大きな魅力でした。デザインだけでなく、感覚や仕掛けそのものが「本」の新しい可能性を見せてくれる。そう実感できる素敵な体験でした。