ヤバ連鎖つら連鎖
みんな自分ちの家系図みたことありますか、ハムスターはないです。
ハムスターは会社をやめたんだけど、退職に向けていろいろ進めてるタイミングで母から電話きて、あーこれは会社やめるって言っとかないと、もしこの先ハムスターが母と縁切って連絡つかなくなったらあの人会社に連絡しかねないっておもって、そうなったらこわいから、電話に出て、会社やめたって言ったの。
そしたら一旦帰ってきてって言われて、えっマジでそれはやだなっておもったけど、ハムスターはあの人の言いなりの洗脳が完全にはとけてないから(今は殴られたりはしないってわかってるけど、ブチ切れられたり家に来られたらこわい)、やだなっておもいながら「うん」って言って実家に行った。8月のこと。
飛行機を降りて、○時頃着きますってメールしたら、家の中ぐちゃぐちゃだけど何もできてないって返事来て、座る場所あればいいですって送ったら、座る場所作るねって返事来て、アーそうそうこれこれ、っておもった。ハムスターの実家はいつも物で溢れて散らかってる。いわゆるゴミ屋敷。子供の頃、友達を呼ぶのは禁止されてた。服、靴、カバン、化粧品、いつもこだわりの物で着飾っている自分に、こんなだらしない面があるなんて、人には絶対知られたくなかったんだろうね。
家に着くと、とにかくしゃべるしゃべる、お金がないこと、父の病気と介護が大変だったこと、父が死んでから車を売ったりいろんな手続きが大変だったこと、葬式にも来ない親不孝な放蕩娘(つまりハムスター)のこと。(あと、デジカメで撮った死亡直後の父の遺体の写真を見せてきた、やだった)ハムスターはこころをこわばらせて、何も感じないように感覚を鈍らせた。言葉の一つ一つが、入って来ないようにした。
家には母とハムスターのふたりだけ。ハムスターはガラケーしか持ってないことになってるから、ネットもできない(LINEをやってることがバレたらつながろうとしてくるからヤバい、しかも無料通話となるとさらにヤバい)。 Switchを出してちょっとゲームをしていたら、ゲームの何が面白いわけ?ゲームなんてする人の気持ちが分かんないんだけど、それってやって何か意味あるの?とまくし立ててくる。逃げ場のない空間、ハムスターは晩年の鯉みたいな目で、ただただテレビを見てた。
どういうわけかあの人はハムスターのこと、親友か何かだとおもってる。ヤバい。機嫌によっては敵とみなしたり、娘に見えることもあるらしい。
ご飯のとき、トマトを切ってくれて、トウモロコシを茹でてくれた。ハムスターがお風呂に入るとき、バスタオルを用意してくれて、パジャマを貸してくれた。洗濯をしてアイロンをかけてくれた。まるでお母さんみたいに。
近所のスーパーは数年前に閉店したらしい。買い物はバスで遠くのスーパーに行くしかない。ふたりでバスに乗って出かけて、お昼ご飯を外で食べた。ごちそうしてくれた。まるでお母さんみたいに。帰りのバスの中で、母はふと昔の話をしはじめた。まだ幼稚園に入る前のちいさいハムスターと出かけた時、発車間際のバスに乗るために走ってて、ハムスターは足がみじかいから(ていうかこどもだからね)遅くて、母がハムスターの腕を引っ張って階段をのぼったら、ハムスターの肩が脱臼しちゃって、という話を、すごく面白おかしく、楽しそうにしていて、ハムスターは怒りが抑えられなくて思わず、それは笑ってするような話じゃないよ、おかしいよと言ってしまった。(こういうこと言うと面倒だから言わないようにしてたんだけど、我慢できなかった。)母は、は?何しらけたこといってんの、といった雰囲気でぜんぜん話が通じなくて、やっぱり言わなきゃよかったとおもった。
どんなに母親っぽいことをしても、根本的な部分やこれまでのことは絶対に埋まらないんだなあと確信した。
何に使うのか知らないけど、母がハムスター名義で父の田舎の戸籍謄本を取得して、それがハムスターんちに届いたから、実家に持っていった。中には、手書きの古い戸籍謄本が何枚か入っていた。文字がつながっていたり旧字だったり、読みづらいことに母は腹を立てていた。大正生まれの父の母はどうやら満州に前夫がいて、その後再婚で父を産んだらしいことがわかった。(ハムスターが解読した。一切ほめられなかった。せめて助かったわ〜くらい言えやとおもった。)父の母、つまり姑から、母はずっといびられてたらしい。母の母も超ヒステリーだし。なんだかそういう昔の話をいろいろ聞いているうちに、父方も、母方も、死別だの親戚に預けられただの、背景は様々だけど、何世代も前から虐待とネグレクトが受け継がれていて、しかもみんなそれを、そういうものだとすっかり思い込んで今に至る、ということがわかった。(もうわけわからん)みんな人から受けた傷を、他の誰かに返す。自分より弱い立場の子供を傷つける。それにより加害者を正当化してるのか、トラウマを再現してるのか、ただ八つ当たりして恨みを晴らしてるのかはわからない。
全員被害者全員可哀想という同情の気持ちと、まともなやつはいなかったのかよという軽蔑の気持ちと、こんな血は根絶やしにしなくてはという気持ちで、ハムスターの心はひじょうに複雑だった。
数十年ではないね、数百年かもしれないし、もしかしたら数千年かもしれない、ヤバ連鎖に気付いたハムスターは、いやこれ止めるのって、責任でかすぎん?とおもった。みんなでちょっとずつやれば負担かからないものをさ、こうやってひとりでやると、マジ大変だかんね、仕事とかでもそうっしょ?大体いつも決まった人が結局サボってる人らの尻拭いしてさ、は?
あ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜正直めんどくせ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
ふざけんな〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
先祖バ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜カ
実家には4日間いて、雨を言い訳に父の墓参りは行かなかった。
成田に着いて、ああ、生きた心地がしなかった、とおもった瞬間、ハムスターっていつの間にか生きた心地味わえるようになってたんだ、よかった、とおもった。昔は毎日、心をこわばらせて、何も感じないように感覚を鈍らせて、言葉の一つ一つが、入って来ないようにするのが普通だった。けど今はもう、そうじゃなくなってる。これからもずっと生きた心地を味わいつづけたい。
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