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【未知】タコに「高度な脳」があるなんて初耳だ。人類とは違う進化を遂げた頭足類の「意識」とは?:『タコの心身問題』

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タコは我々人類にとって、「地球外生命体」に最も近い存在

頭足類に高度な頭脳があるという事実を知らなかった

本書を読んで最も驚いたことは、「タコなどの頭足類には、人間のような高度な脳がある」という点だ。そんなこと、全然知らなかった。

さてこの「高度な脳」という表現は誤解を招くので、まずはこれを正確に理解しよう。

イルカやカラスなどは「知能が高い」と知られているだろう。しかし、イルカの脳は人間の脳より大きいが、カラスの脳は人間より小さい。つまり脳の大きさだけでは知性を判断することはできないということだ。

では、体重と比較して脳がどれぐらいの大きさかという「脳化指数」で比べてみたらどうか。

ヒト:7.4
イルカ:5.3
カラス:1.25

カラスは、身体の大きさと比べても脳が小さいということになる。

どうやら、脳の大きさと知能にはそこまで関係がないようだ。では「脳が高度であるか否か」はどう判断されるのか?

それは「神経細胞(ニューロン)の数」である。そしてタコやイカを含む頭足類は、この神経細胞の数が非常に多いのだという。タコは神経細胞が多く、非常に高度な脳を持っていると、まず理解しよう。

本書『タコの心身問題 頭足類から考える意識の起源』という本の存在は昔から知っていた。しかし私は、「タコの心身問題」という表現は「哲学的な比喩」だと考えていたのだ。つまり、「タコに高度な知性はないが、しかし『ある』と考えてみた時にどういうことになるのか思考実験をしてみよう」という内容の本だと思い込んでいたのである。

だから、タコが高度な脳を持ち、知性の高い生物であるという事実にまず驚かされることになった。

頭足類は唯一無二の無脊椎動物

そしてさらに凄い点がある。頭足類は唯一無二の存在だ、ということだ。

頭足類は、無脊椎動物の海に浮かぶ孤島のような存在である。他に彼らのような複雑な内面を持つ無脊椎の生物は見当たらない

基本的に「脳を進化させた生物」といえば脊椎動物だ。哺乳類・鳥類・爬虫類・魚類など、「脳を持っている」とイメージできる生物は基本的に脊椎動物だと考えていい。

しかし頭足類は、高度な脳を持っているが脊椎動物ではない。無脊椎動物だ。つまり頭足類というのは、無脊椎動物で唯一「高度な脳」を進化させた存在なのである。

この点については後で再び触れるが、先に印象的だった文章を抜き出しておこう。

頭足類と出会うことはおそらく私たちにとって、地球外の知的生命体に出会うのに最も近い体験だろう

「脳を持つ脊椎動物」というのは、言ってみれば「似たような進化を遂げてきた仲間」である。しかし、無脊椎動物で唯一脳を進化させた頭足類は、我々とはまったく異なる形で脳を進化させてきた生物だ。そしてだからこそ、人間にとってタコは、異星人と出会うようなものに近い、と著者は書いている。

この点に関して本書の訳者は、

昔から、異星人の想像図はタコに似た姿になっていることが多かった。最初に描いた人がなぜ、そういう姿にしようと考えたのかはわからないが、的を射ていたのかもしれない。偶然にしてはできすぎている

と書いている。なるほど、興味深い指摘だと思う。

さらに驚くべき指摘が、本書ではなされている。まずその概要を書こう。その指摘とは、「タコとイカは、独立で脳を進化させた」というものだ。

ちょっと意味が分かりづらいだろうと思うので説明しよう。

知っての通り、タコの足は8本、イカの足は10本であり、タコとイカは同じ頭足類でありながら別の進化を遂げた生物である。つまり、「タコとイカの分岐点が存在する」ということだ。

ここで、頭足類の脳がどう進化したのか、なんとなくイメージしてみよう。先程、無脊椎動物で唯一脳を進化させたのが頭足類だ、と書いた。無脊椎動物のほとんどは脳を進化させなかったということだ。とすればこう想像したくなるだろう。「タコとイカの共通祖先が脳を進化させ、その後タコとイカに分岐した」と。

つまり、8本足と10本足に分かれた時点で既に「脳」は発達しており、そこからタコはタコとして、イカはイカとして進化した、という仮説だ。この場合、「頭足類に起こった『脳の発達』という出来事」は1回ということになる。「無脊椎動物で唯一脳を進化させた」という事実は、非常にレアケースと捉えられるので「頭足類に起こった『脳の発達』という出来事」が1回だけ起こった、と考えるのが自然だろう。

しかし、近年のDNAによる研究で、この仮説は覆されている。実際には、「まずタコとイカに分岐し、そしてタコとイカのそれぞれが独自に脳を進化させた」ということが分かっているのだという。

つまり、無脊椎動物のほとんどが脳を進化させなかったのに、頭足類では「脳の発達」が2回も起こっている、ということだ。このことについて、著者はこう書いている。

この事実は、頭足類が複雑な神経系を持つよう進化したのは単なる「偶然」ではないことを示唆する。単なる偶然であれば、何度も起きる可能性は低いからだ

確かにその通りだろう。では、頭足類はなぜ脳を進化させたのだろうか。

頭足類はなぜ脳を進化させたのか

しかし、その理由を突き詰める前に、もう一つ重要なポイントに触れておこう。それは、「脳はメチャクチャエネルギーを消費する」ということだ。

私たち人間は、エネルギーの大半を食物から得ているが、そのエネルギーの四分の一近くを、ただ脳の正常な活動を維持するためだけに消費している。人間以外の動物でも、神経系がコスト高な機械であることは同じだ

このような観点から考えても、「なんらかの理由でタコには脳が必要だった」と考えざるを得ないだろう。通常の機能を維持するだけでエネルギーを大量消費するような器官を、わざわざ発達させる必要がないからだ。

しかし一見するとタコには、「高度な脳」が必要とは考えられない。何故なら、「単独行動を好み」「寿命が短い」からだ。

群れを作り複雑な社会を作る生物であれば、様々な情報処理やトラブルへの対処などに脳を発達させる必要があったと考えやすい。しかし、タコを含む頭足類は、基本的に単独行動を好み、社会生活が存在するようには見えないという。

また、高度な脳を持っていることを考えると驚きだが、頭足類は2年ほどしか寿命がないのだという。例えば、カラスは他の鳥と比べても寿命が長く、「ハシブトガラス」「ハシボソガラス」で7~8年生きる。イルカは、50~60年生きるという。長く生きるのであれば、脳を発達させるのもなんとなく理解できる気がするが、2年しか生きない頭足類が高度な脳を持っているというのはやはり不思議だろう。

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