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 裏庭に穴を二m位の深さに掘って、その中に飛び込んだ。そうすると地面に届かず、二mどころか、いつまで経っても底に届かないのである。でも、速度に加速度は付かなかった。落下しながらも、途中まではだんだんと自分の体が軽くなり、ある地点を過ぎてからはまた重く感じられた。気が付くと、僕は地球の裏側、南米にいたのである。少し歩くと人の街が見えた。それは南米のたたずまいをしていた。街の人の言葉は分からなかったが、じきに日本人を見つけることができた。僕は、どのように南米に来たのか説明したが、信じてもらえなかった。それで僕は、その日本人を僕の出てきた穴まで連れていってみた。だが、そこには二mばかりの穴があるだけだった。「こんな穴じゃどこにも行かれないよ」と言いながら、その日本人は二mの穴に飛び込んでみた。するとその日本人の姿は見えなくなってしまったのである。その後を追って僕もその穴に飛び込んでみたが、二mのところで止まってしまった。その穴は一往復しかできない穴だったのだ。僕には金が無かった。眠たくないのに、もう夜がやってきた。まただれか日本人を見つけて、事情を話せばいいと思った。だが信じてくれるだろうか?そんなこと考えるのは明日にしようと思って、街の中を散歩した。家々の窓の灯は、一つ二つと消えて行った。僕は公園を見つけてベンチに横になると、考え事をしながらも少しうとうとした。朝はじきにやってきた。朝になって、本格的に眠くなった。しかし腹も減ってきていた。僕はまた日本人の家を探して、その人たちは穴に吸い込まれていった人の家族だった。その人が行方不明になって、僕が現れたのだから、いろいろ不審がられた。やはり僕は本当のことを言わねばならないので、信じてもらえなかった。あの二mの穴を見せてもしようが無かったので、そこへは連れて行かなかった。僕はその家で一時眠らせてもらったが、その次には警察へ連れて行かれた。家族の日本人の人達に通訳をしてもらった。すると僕は、行方不明者の関係があると見なされて、身柄を拘束させられた。僕は自分の身元を証明するために、日本にいる家族の人に、電話してもらった。家の人達も、急に僕がいなくなって、心配してくれているとのことだった。あの穴に吸い込まれている人も、自分の家に電話すればいいのにと思ったが、彼には金が持ち合わせてないようだった。

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