落水…前編
今年の初バスは1人で釣りに行った4月26日の金曜日のam 8:20だった。
新年1月1日元旦から数えて15回目の釣行。
前日からTOPWATER JUNKYのミルヘッドターキーで仕留めると意気込んでいた。
am 8:00にはフィールドに浮かんで、オーバーハングの切れ目から打ち込めそうな立ち木ビチビチに狙いを定めていた。
エントリーした場所からしばらく行った所でそのポイントに差し掛かりロッドを振り抜く。
自画自賛する完璧なサミングのキャストで無音無しぶきでの着水だ。
1秒、2秒、3秒 …
完全に波紋が消えるまでカウントダウン。
キャストしたミルヘッドのお尻が少し水面から出て、頭のペラ2枚がきっと水中でゆっくり回っている事だろう…
さぁ、こっちの準備はバッチリ…
「ガバッ」
アクションを付けようとしたその瞬間にいきなり水面が爆発!
ルアーは完全に目の前から消えている。
待っていたのだよ、この時を!
1、2、フンっ!
かなり遅合わせでのフッキング。
ロッドを立て、脇を締め、バスの引きの重みを感じながらリールのドラグを少し緩める。
ググっとロッドが前へ前へとしぼられる。
十分な引きを堪能しながら慎重にハンドランディングまで持ち込めた。
久しぶりにガッツポーズが出た。
狙ったポイントに狙ったルアーで釣り上げた渾身の初バスだったからだ。
リリースした後、今年もちゃんと手が震えている。
この震えが無くなったらおしまいだ。
バスの匂いがまだ残るその手でタバコに火をつけ吸い終わるまでの5分ほど余韻に浸る。
至福の時だ。
今日は幸先良く早い時間に釣れた。
これはまだ釣れるのではないか…
鼻歌まじりで次のポイントにキャストしていくと、次にチョイスしたルーピールーパーがオーバーハングの出口で水面に広がった新芽たっぷりの枝に引っ掛かってしまった。
グラマンカヌーを木の側まで横付けし、新芽たっぷりの枝の中に引っかかったルーピールーパーをロッドの先で突いて落とそうとしたその時…
カヌーはいつも以上に傾いていた…
1人だからカヌーから腕を目一杯伸ばしながらルーピールーパーを外そうとしている姿勢がすでに危険だった事がわからなかった…
当然、極端に左に傾いたカヌーに乗っている僕の真横から水が入って来た…
一瞬だった。
ヤバいと気付いた時にはもう僕は水中にいた。
本当に一瞬だった。
カヌーは一度だけ傾いて僕だけを水の中にそっと追い出した感じに思えた。
不思議な事に冷たさは感じず、苦しくもない。
ただ水中から見上げる空が綺麗だったのと緑の木の枝が視野の左右を枠どっていて手を伸ばすと今にも届きそうだった…
ウソだろぉ…
あぁ…こうやって死ぬんかぁ
なんか悪くない…
好きなバス釣りで好きな場所で死ねるならそれはそれでなんか悪くないかも…
ちょっと待てよ…
こないだライジャケのガス交換したばっかりだったぞ…
ある、今、ライジャケのレバーが右手にある…
開こうとしないのは駄目やな…
ほなレバー引っ張ろか…
引っ張っとこう…
僕は力いっぱいレバーを引いた。
ライフジャケットが一瞬で膨らむのがわかった。
膨らんで行く最中に息が苦しくなり水面に顔が飛び出した。
助かった…
そう思ったのも束の間、足が水底に着かない。
目の前には岸が見えているが、6〜7mは離れている…
立ち泳ぎしているとビーンブーツを履いているので上手くバタ足が出来ない。
幸か不幸か僕はビーンブーツの紐を縛って履かない。
だから勝手に脱げて、バタ足が出来る様になった。
しかし、岸に泳ごうとしてもこれまた上手く泳げない。
なぜなら服も着ているしズボンも履いているから…
ずっと同じ場所で立ち泳ぎをしているので体力にも限界が来ている。
何かしがみつく物はないかと思ったが僕の顔の真横に半分ぐらい水が入ったカヌーが浮いている。
ガンネル横を両手で掴むとその重みでカヌーが裏返りそうになる。
どうやらバッテリーが左側に寄ってしまっているのが原因みたいだ…
片腕をカヌーの中に入れ、水の中に浸かっているバッテリーに繋がったエレキの線を素早く外した。
結局薬局、僕はバタ足全開のままカヌーが裏返らないように下から持ち上げながら岸に向かうしかなかった。
火事場のクソ力…
自力で岸までカヌーと一緒に辿り着けた…
が…
なんじゃこりゃ…
ここでやっと自分が置かれた立場を理解した。
死ぬとこだったと。
全身びしょ濡れの僕の目の前の景色は、まさにカオスだった。
持って来ていたルアーが全部水面に浮いている。
タックルボックスも浮いている。
クーラーボックスもシートもオールもローテーブルもソロの時に水を入れてカヌーの前にオモリ兼バランス取る用ソフトバケツもみんな水面に浮いている。
タックルは?
2本あったはずのタックルは?
この世の終わりの光景だった。
後編につづく…
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