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用水路ロマン紀行
今から25年も前の話だ。
ワイルドフィッシュにF.F.M.「フローティングフィッシャーマガジン」の創刊号が並んでいてその雑誌を読んだ時に衝撃を受けた。
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雑誌にしてはページ数が少なく値段も安かったが1枚1枚が厚い紙を使用していた。
そして掲載している内容に痺れた。
ビンテージタックルの情報がビッシリ…
オールドヘドンやフェンウィック、ブローニングのタックルやアブ、フルーガー2600のリール…
どれも実物を見た事のない物ばかりだった。
雑誌の後半には電話で通販が出来るシステムのモンスターバザールまであった。
一体どこの誰が作っているんだろう…
雑誌の裏を見るとフローティングフィッシャーマガジンの住所が書いてある。
最初GOODCASTはバス釣り用のTシャツを作っていた。
その広告をFFMに掲載してもらう為、僕は1人で東京行きの飛行機のチケットを握って荒川区へと向かった。
FFMに書いてある住所を頼りに歩きまくって行き着いた所は「季膳いかわ」と書いてある日本料理店だった。
何度も住所を確かめたがやはりここに間違いない。
意を決して扉を開けてみると白い割烹着を着た男の人がいた。
その人が井川さんだった。
挨拶をしていると奥さんの洋子さんも現れそれが初めての顔合わせとなった。
すごくフレンドリーな井川さん夫妻は温かく僕を受け入れてくれ、広告の掲載の承諾もいただき、僕も知らないマニアックな徳島の話で盛り上がったのを記憶している。
FFMの誌面では井川さんは「だんな」、洋子さんは「編集長」という名前で度々登場している。
井川さんの兄弟子さんが徳島市で有名な日本料理店を営んでいてよく来県している事も教えてくれ、次徳島に行った時に取材を兼ねて釣りをする約束をした。
それから数ヶ月後、井川さん夫妻が来県し、旧吉で釣り取材を行った。
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TOPWATERJUNKYの内藤さんのボートに乗せてもらい僕はバスではなくナマズを釣って取材は終わった。
無念だったが取材という貴重な体験をした事が嬉しかった。
それからすぐ井川さんに用水路で釣りをしている事を記事にしたFFMでの連載の企画を話し、用水路ロマン紀行はスタートする。
井川さんは料理人なので徳島に来ては夫婦で「はやしのお好み焼き」や「名東軒」を必ず訪れていた。
ガヨング元気にしてるかなぁ…
懐かしい…
僕自身、そんな井川さんからの紹介で県外のビルダーさんやショップの方々、デザイナーやディレクターの人とも沢山知り合いになれた4年間だった。
その出会いの数々は今も僕の貴重な財産だ。
川や池、ダム以外でもバス釣りは出来ていた。
それも良いサイズのバスばかりが釣れていた。
当時の用水路はカナダモなどの水草が沢山あり、小魚の群れやカエルなんかの生命感に溢れていた。
あれから20数年経ち、用水路はすっかり姿を変えてしまった。
水門が次々と新しくなりその用水路の道筋に茂っていた木は切られ、水草は無くなり水位も減水し、底は泥だけになってそこらじゅうに沢山いた小魚やカエルの生命反応は消えてしまった。
その変化と同時に僕のフィールドも用水路からダムや川へと場所を移すしかなかった。
なぜならバスが居なくなったから。
FFMが廃刊になってしばらくの間、僕もバス釣りからしばらく離れた時期もあった。
しかし、今、僕はバス釣りを中心とした生活をしている。
完全に現代のバスフィッシングシーンとは真逆のスタイルだが、それで良いと思っている。
それに今はあの頃よりも人に恵まれた環境になったように思う。
何より同級生の他にも年齢なんて関係の無い生涯の友と言える仲間が出来た。
僕が人生のドン底にいる時に見捨てないでずっと優しく声をかけ続けてくれた事は一生忘れない。
これほどありがたく、心強いものは無かった。
だから今度は僕がその仲間達の為に少しでも何かの力になりたいと思っている。
GOODCAST…
後付けだが、「良い仲間」という意味になっている気がする。
用水路ロマン紀行は終わったが、僕のバス釣りロマン紀行は今現在「良い仲間」と勝手に絶賛連載中だ。