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「ひとつ屋根のした、グレーゾーン」第2話
“若すぎる親たち”
休日の朝。彩音はキッチンで朝食の準備をしていた。トーストが焼き上がる香ばしい香りが部屋に広がるが、リビングでは翔が積み木で遊びながら楽しそうに歌っている。その声に、彩音は微笑む。
「翔、ご飯だよ。」
「もうちょっと!トンネル作るの!」
翔は遊びに夢中で、彩音の呼びかけには反応が薄い。彩音は少し困った顔をしながら、軽くため息をつく。
そのとき、寝室から乱れた髪の直人が出てきた。Tシャツにスウェット姿の彼は、まだ眠そうな目をこすりながらテーブルに座る。
「おはよ…なんか、疲れた。」
「おはよう。疲れたって…昨日はゲームばっかりしてたじゃない。」
彩音の少し冷たい声に、直人は苦笑いを浮かべる。
「仕事でストレス溜まってんだよ。それくらい許してくれよ。」
「ストレスなら私だってあるよ。翔のことも全部私一人でやってるし…」
彩音の声が少し強くなると、直人は一瞬黙った。しかし、すぐに口を開く。
「俺だってやれることはやってるだろ。そんなに文句言わなくても…」
「やれること?何も分かってないくせに…」
二人の間に緊張が走る。翔はその様子を見て、積み木を手にしたまま不安そうな顔をしていた。
「ママ…パパ…ケンカしないで。」
その一言で、彩音ははっと我に返る。直人も翔の言葉に気づき、少しばつの悪そうな顔をした。
「ごめん、翔。ママもパパも、ケンカしてるわけじゃないよ。」
彩音が優しく微笑みかけると、翔は安心したようにまた積み木を手に取った。
朝食を食べながら、彩音は思った。
(若い親だからって、言い訳にはしたくない。でも、私たちにはまだ足りないものが多すぎる気がする…)
その日の午後、彩音は翔を連れて近所の公園へ行った。砂場で遊ぶ翔を見ながら、他の親たちと話す機会をうかがうが、どこか話しかけにくい。
「若いお母さんだよね。」 「旦那さん、まだ学生っぽい感じしない?」
背後から聞こえる声に、彩音の胸がざわつく。翔が砂場で楽しそうに遊んでいる姿を見ると、その不安を振り払うように微笑んだ。
(他人の目なんて気にしない。私は翔の母親。それだけで十分なんだ…)
だが、その思いを強く持つには、まだ彼女には時間が必要だった。
第3話につづく