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『デッドデッドデーモンズデデデデデストラクション』 物語に反映されている現実の社会問題

『デッドデッドデーモンズデデデデデストラクション(以下『デデデデ』)』とは、『ビックコミックスピリッツ』で連載されていたSF漫画であり、作者は『おやすみプンプン』の浅野いにおである。

物語は、東京都の上空に突如として巨大な円盤が現れて、そのまま停滞し、東京の風景の一部となった架空の日本が舞台となっている。

主人公は、小山門出と中川鳳蘭という二人の女の子であるが、本作は群像劇風の内容となっており、多くの人の視点が主軸となっている。
 
そして、本作に語られている内容は、現実にあった社会問題などが反映されているようにも思える。
 
今回はそれを列挙して紹介しよう。


東日本大震災

 
『デデデデ』が連載開始されたのは2014年の頃であり、まだ東日本大震災が記憶に新しかった頃である。

本作のある奇妙な非日常感は、東日本大震災からもかなり影響されているようにも思える。
 
そのため、作中では、震災当時の日本の様子を風刺しているような箇所が多く見受けられる。
 
突如として母艦の襲来するのは、震災が発生した当時の日本であった。東日本大震災が起きた際、政府、メディア等を含め、多くの人々が混乱し、情報が錯綜していった。
 
また、『デデデデ』でも描写されているように、食料やトイレットペーパーを買い占める人も多くあった。
 
母艦がそのまま日本に停滞しているのは、当時の言い知れぬ不安を暗示しているようにも思える。そして、母艦が煙をあげているのは、福島原発をイメージしていたのではないか?
 
また、門出の母親は極端にA線を恐れており、つねにマスクとゴーグルを身に着けている。
 
A線とは、母艦が地球に来た際、米国が撃ち込んだA爆弾から発生しているもので、おそらくはAtomic(アトミック)、すなわち原爆の隠喩ではないかと思われる。
 
つまり、A線とは放射能を暗示しており、門出の母親の状態は、当時、放射能を恐れるあまりマスクをしていた当時の日本人をイメージしていると思われる。
 
また、門出の友達の一人である出元亜衣は、元々避難住宅で過ごしていた避難民であり、現在では弟とともに親戚の家で暮らしているが、両親は国からの補償金目当てで、現在でも避難住宅に過ごしている。
 
コロナ化もそうだったように、補償金を目当てに弱者に成りすますものは多い。一方で、災害で苦しんでいる者も数多く存在しており、彼らのためにも国からの補償金は必要不可欠である。
 
そして、それはこの手の問題が無くなることはないということを意味している。
  

右傾化されていく日本

 
本作の自衛隊の装備は、強力な光線兵器(歩仁、直仁)や後に登場する歩行戦車(歩仁九式)など、かなり高水準なものである。
 
開発したのはS・E・S(サンティエリ・エレメンツ・ソリューション)という会社であり、ジャーナリストの三浦は、この会社は侵略者の使っている技術を解析しているのではないかと推測している。
 
自衛隊が急激に力を増していくのは、どことなく右傾化されていく日本を暗示しているようにも思える。もっとも、それに対して反発をしている者も多いが、政府は、侵略者を悪人とすることで目線をそらしているようである。
 
右傾化に賛成している人は、歩仁や直仁を開発することで、景気が良くなると信じている者も多く、政府への信奉から右傾化に走っているわけではないことがわかる。

侵略者たち

 
本作に登場する「侵略者」とは何者なのか?本編では最後までその全容が明かとなっていない。
 
小柄な体格で、全身を気密服で覆っているため、その正体を知ることはできない。もちろん言語も違っているようである。
 
侵略者たちは、8月31日に東京に襲来したその時に、一部の人間は母艦から離れ、地上で暮らしているようである。
 
母艦が襲来した時、東京は空き家が多くなったために、彼らが住みついてしまったのだ。
 
彼らは、比較的大人しいのだが、ネットでは侵略者を追い出せ、もしくは退治するべしの風潮となっている。
 
また、一方では、侵略者にも地球人と同じように知性があるから、彼らを保護するべきだという論調もある。
 
この問題は、現実にある移民問題と似ている。
 
そもそも宇宙人を意味している「エイリアン」とは、英語で異邦人を意味する言葉であり、SF作品に登場する宇宙人は、元々異邦人を暗示していた。
 
近年、日本で問題視されているのは、川口市のクルド人である。2023年に、川口市内の病院で、トルコの少数派民族クルド人が殺到するという事件があった。
 
理由はクルド人同士による殺人未遂事件が発生し、複数の人間が重軽症を負い、病院に運ばれたが、その際、クルド人達の親類達がかけつけたことで、大騒ぎになったのだ。
 
このことで、クルド人達に恐れを抱いた住民達がて不満を抱き始めたのだ。さらに、ネットでは、クルド人に対する偏見と差別を助長させる発言が相次ぎ、中にはクルド人が経営する飲食店に嫌がらせの電話を行うまでになっている。
 
「デッドデーモン」でも、クルド人問題同様、ネットを介して、「侵略者」の敵意を煽るものが数多くおり、そのために自衛隊に狩りだされるまでになっている。
 
デッドデッドデーモンの侵略者たちは、お世辞にも強い存在とは言えない。不思議なアイテムこそ持っているが、全員に行きわたっているわけではなく、限られた人しか持っていない。
 
力も弱く、門出がなぜこの地球に来たのか疑問すら抱いているくらいであった。
 
しかし、自衛隊との交戦で死者が出てしまっていることもあり、さらにヘイトを増すことになってしまった。
 
悲しいことに、外側から来たものが起こしたトラブルというのは、悪い印象として残りやすい。
 
クルド人問題同様、侵略者たちは、どんどんヘイトを高めていくことになる。
 

排除と保護


前述したように、本編17話で侵略者と自衛隊が交戦したため、吉祥寺に被害がおよび、多くの死傷者が出てしまった。その中には、門出と鳳蘭の友達である栗原キホがいる。
 
そして、この事件をきっかけに、政府は「侵略者対策基本法」の改正案が国会で提出した。
 
このことで、民間企業でも侵略者を排除できるようになったのだ。
 
現実の移民問題でも、「改正入管難民法」が可決され、難民申請中であっても強制送還されるようになった。
 
かたや武力による排除、かたや法とルールによる排除であるが、不思議とどこか似通った何かを感じる。
 
『デッドデッドデーモンデデデデストラクション』が連載されたのは2014年の頃であるが、まるでこのことを予期したかのようである。
  

SHIPのモデルは?


SHIPとは、作中によるとSHare Out Invader Protection.の略語で、侵略者の保護を共有していこうという活動である。このサークルは、多くの大学に支部がある。
 
門出と鳳蘭が入学した大学でも存在しており、ふたばがSHIPに参加している。
 
本作のSHIPは、現実社会にあるSEALDSを彷彿させる。
 
SEALDSは2015年に現れた学生活動集団であり、当時の安倍政権に対して、強く批判する団体であった。

ツイッター(現X)やLINEによって、多くの学生たちを仲間に引き込むことに成功し、彼らに影響されて別の活動組織を多く生み出していった。
 
メンバーは学生で構成されているが、実際は共産党の指揮下にある団体である。そのため、公安の監視対象となっていたのが実情であった。
 
こうした学生運動は、政治的集団に利用される事例があり、本作のSHIPも、侵略者の保護を訴えると見せかけて、テロリズムで政府を脅かす存在であったことがわかる。

陰謀論の嘘と真実


『デデデデ』ではテレビやネットの情報が多く飛び交って描写されているのが最大の特徴で、その情報の中には、虚と実が入り混じっている物がある。
 
代表例でいくと、前述したA線で、作中ではA線が害があるのかどうかはっきりとわかっていないので、あらゆる憶測を呼んで、意見がわかれている。
 
門出の母である真奈美は、A線を異常に怖がっており、四六時中ゴーグルとマスクをしている。真奈美以外でもA線が発生している場所では、大抵の人はゴーグルとマスクをしており、「A」カウンターというA線を測定できる機械が流通している。
 
これは、東日本大震災で放射能を測定する機械が流通していたことが元になっていると思われる。
東日本大震災でも、放射能に関する一般人の憶測から、多くのデマが飛び交っており、問題となっていた。コロナ渦でも、コロナに関するデマが多く飛び交っていた。
 
突発的な災害が発生すると、人は不安から勝手な憶測を呼び、根も葉もないでたらめを吹聴していしまうのだということがよくわかる。
 
その他にも、本作ではネットで侵略者と名乗っている者もいれば、S・E・Sは侵略者の技術を使っていると噂している者もおり、AIが搭載された「歩仁」は、侵略者だけでなく米軍や中国も敵として設定してあるという。
 
また、「A」カウンターを発展させた、侵略者をみつけるためのアプリ「インベーダークラッシュ」は、個人情報収集してS・E・SのAI「Plankton(プランクトン)」に届けられ、国民を監視しているという噂も流れている。
 
これらの情報の真偽については、第6巻にある、荻野大臣に届けられている報告書に記載されているが、なんと政府は一個人のプライベートな情報やネットの掲示板などもチェックしていたことがわかる。
 
実際、現実でも警察や国税庁はネットを監視しているので、政府が個人を監視しているというのは、絵空事ではないのかもしれない。
 
つまり、デマの中にも真実が隠されていたことが判明する。
 
『デデデデ』の真の面白さは、この散りばめられた情報が伏線となって絡み合っている点にあると言っても過言ではない。

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