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門出はなぜ暴走したのか? 本当の悪とは何か? デッドデッドデーモンデデデデデストラクション
デッドデッドデーモンデデデデデストラクションとは、浅野いにおが描いたSF漫画である。
物語は、突如、東京に巨大な宇宙船(母艦)が襲来し、そのまま上空で停滞し続けてしまい、日本は宇宙船や、乗っていた「侵略者」とともに、日常を過ごすというものである。
主人公は、小山門出と中川鳳蘭(おんたん)の二人の少女で、彼女たちが、高校生から大学生になるまでの間に起こったことが物語となる。
物語本編についての詳しい解説は、以下の記事にまとめています。
https://note.com/lush_pothos1353/n/n6a79df9bc5db
https://note.com/lush_pothos1353/n/nf3c1ca41be98
さて、物語は、本編の8年程前、二人の過去を巡る話から、急展開する。今回解説するのは、門出とおんたんがいかにして出会い、そして友達となったのか?ということを語っていこうと思う。
※ここから先は、ネタバレとなるのでご注意を。
すべてのはじまり
門出と鳳蘭が小学五年生の時。門出は転校生で、クラスになじめないでいた。鳳蘭は、現在の、ちょっと電波系の入った喋り方をするテンションの高い性格とは裏腹に、この当時は、かなり気弱で大人しい性格をしていた。
二人は或る日、UFOを目撃する。門出は、そのことを周囲に言うと、だれも信じてくれないばかりか、からかわれるだけであった。
また、この当時、門出は名前をひっくり返して、「デイモン」と呼ばれて、男子から馬鹿にされていた。
鳳蘭は、そのことを痛ましく思いながら、気の弱い性格から何もできないでいた。鳳蘭はそんな自分を歯がゆく思っていた。
やがて、夏期講習の合宿で、二人は夜中にUFOを見る。大慌てで二人は外に出て、UFOを探すと、そこには、近所の子ども達にイジメられている小柄な気密服を着た者がいた。
この後、門出の巧みな話術でいじめっ子達は言いくるめられて、調査員は、無事解放される。余談だが、これはどう見ても浦島太郎のオマージュ。
ちなみに、いじめっ子たちのうち、女の子二人は成長すると、オカルト研の合宿に関わってくる(第7巻)。
門出と鳳蘭は、この気密服を着た小柄な人物を、宇宙人と思い、彼をかくまった。これが後の侵略者と呼ばれる者の一員であった。
調査員との交流
二人は宇宙人を連れて帰宅した。侵略者は鳳蘭の家に引き取られることになる。その際、門出は、以前、父親からもらった「イソべやん」の等身大のぬいぐるみを侵略者に被せて、周囲の目をごまかすことにした。
やがて、宇宙人は二人に翻訳機を渡して、事情を話すことになった。侵略者は、この地球(?)のことを調べにきた調査員であった。
彼の持っている特殊な道具は、どれも人気漫画「イソべやん」に出てくる「内緒道具」と似ているが、詳細は定かではない。
やがて、調査員を通じて、門出と鳳蘭の二人は友達となった。この時から鳳蘭は門出から「おんたん」と呼ばれるようになる。
しかし、門出と仲良くしているということで、おんたんは同級生の女の子から責められてしまう。門出は女子からも嫌われていたのだ。
やがて、おんたんは、女子と裏で繋がっている男子からも責められてしまうが、そこへ門出が調査員の道具を借りて、助けに現れた。
門出の行為に平伏した男子たちは、門出と共にデイモンズというチームを立ち上げて、一日一善の奉仕活動をするようになる。
門出は、地球人が善良であることを調査員に認めさせようと躍起になっていたが、調査員は、なぜか冷淡な態度をとっていた。
暴走する門出
門出の行動は次第にエスカレートしてゆき、調査員の道具を勝手に使って、世直しとばかりに、悪人を成敗していった。そして、とうとう人殺しまでしてしまう。
その上、門出が道具を使うところを、同級生の女子に見られてしまう。そのことで、門出は、同級生たちに詰め寄られるが、門出は調査員の道具を使って、彼女たちに反撃しようとした。しかし、惨事になる前に、おんたんに止められてしまう。
真相を知ったおんたんは、門出を問い詰めていく内に、彼女がおかしくなっていることに気づく。そして、とうとう二人はケンカをしてしまう。
その後、門出は登校拒否となってしまう。正気に戻った彼女は、自身のしでかした過ちを知り、自殺までしてしまう。
門出を失ったショックで塞ぎこむおんたんに、兄のひろしが心配して、彼女に話しかける。その際、ひろしも調査員の存在に気づき、事の真相を知る。
調査員は、過去の過ちをやり直したければ、一つだけ方法があると言った。それは、おんたんの精神だけを、前の時間に送るという方法である。
その方法を使うには、おんたんと門出が調査員と出会った、あの合宿所に行く必要があった。
やがて、宇宙船に辿り着くと、おんたんの精神は、数か月前に戻った。そして、UFOを見たことでからかわれている門出を助け、二人は再び友達になる。
門出とおんたんは合宿所へは行かず、二人は調査員と出会うことはなかったが、2人が中学に進学した年に、とうとう母艦がやってくる。そして、現在に至る。
ポイント
・侵略者が来ない世界線の物語
この回想場面は、大葉とマコトの2人が、おんたんの記憶を読み取った機械で、彼女の過去を覗く場面からはじまる。
実は、おんたんはタイムシフターと呼ばれる存在で、自分の意識を過去の自分に移植していた存在であり、そのために、別の並行世界、すなわちパラレルワールドが発生してしまったのだ。
大葉とマコトが覗いている過去は、侵略者たちが来ない世界の話で、侵略者たちか来ない理由、正確に言えば、現在の世界線で侵略者たちが、なぜ地球にきてしまったのかが、今回のエピソードで語られている。
・タイムワープと並行世界
このエピソードでは、タイムワープが重要なポイントとなっている。浦島太郎を意識した場面があるのは、そのためであろう。
タイムワープを扱ったSFというと、筒井康隆の『時をかける少女』やハリウッド映画の『バック・トゥ・ザ・フューチャー』に『ターミネーター』、そして、本作品『デデデデ』に影響を与えた『ドラえもん』などが上げられる。
ただし、これらのタイムワープは、一度行うと、歴史が書き換えらえるものとして、物語が進行していくが、本作品では、歴史が変わるのではなく、別の並行世界が誕生するという形式で物語が進行していく。
これは、人気アニメ『魔法少女まどか☆マギカ』等、近年のSFに見られる傾向である。もっとも、パラレルワールドの設定時代は、SFでもよく登場しており、『ドラえもん』でも「もしもボックス」のように並行世界にいく道具がある。
ただし、タイムワープとかけ合わせたものは近年になってからであると思われるが、意外な作品がタイムワープとパラレルワールドをかけ合わせている。それは『ドラゴンボール』である。
『ドラゴンボール』の人造人間編のエピソードでは、タイムワープが扱われているが、この作品ではタイムワープしても時間が書き換わるわけではなく、別の時間軸、すなわち並行世界が誕生するだけという設定であり、これを90年代にやった鳥山明のSFセンスの高さが伺える。
・ 調査員の目的
調査員の目的だが、どういう目的で地球に来たのかはっきりしていない。おまけに別の星系から来たともいっていないので、そもそも異星人なのかどうかもわからない。
調査員自体は、まさに、この世界、便宜上地球と呼ぶが、調査そのものが目的で、言語や文化を調べていたようである。
本人に言わせると、ついこの間まで文明のかけらもなかったと言っており、これが何を意味しているのかもわからない。
さらに、自分たちの意図としない他の存在の介入があったとも言っており、何か別の存在も示唆している。
ちなみに、他の者がここに来るかどうかは、この調査員の判断によって決まるらしく、彼は、どうやら結構、高い地位にいるものと思われる。
門出が暴走した理由
この世界線では、なんと門出は、調査員の道具を使って殺人まで犯してしまい、結果自殺してしまう。
そのため、門出が生きている世界線を作り出すために、おんたんは過去にタイムシフトして、新しい時間軸を誕生させたのだ。ただし、そのために侵略者がやってきてしまうのだ。
ネットでは、門出やおんたんの行為に理解ができないという意見が出てくる。
なぜなら、門出の行為は完全に自業自得なので、彼女を助けるために、おんたんが時間を変えてしまうのは理解できないというのだ。おまけに、そのために地球に侵略者がやってきてしまうのだ。
確かに、門出のやった行為は許されることではない。彼女なりの正義で動いたとしても、それは極めて独善的な正義だろう。
だが、彼女がどうしてそうなったのか、きちんと考察する必要がある。
この頃の門出は、お世辞にも精神的に安定しているとは言い難い。両親は仕事で忙しく、あまり会うことはできない。学校では孤立し、周囲からからかわれる始末であった。
救いになっていたのは、おんたんであった。門出にとっておんたんが絶対なのはそういう理由であったのだ。
何より、小学校時代、友達とはかけがえのないものだ。大人になると、それはよくわかる。
だから、門出は、おんたんが男子にいじめられそうになった際、助けにあらわれたのだ。そして、その際、男子たちからも羨望のまなざしで見られ、デーモンズというチームを立ち上げて、一日一善の奉仕活動を行うことになる。
そして、この世界線の門出のピークの時でもあった。
門出はおんたんを助ける際、調査員の道具を使用していたが、この時、精神を高揚させる興奮剤のような物も服用していた。もちろん、これも、調査員の所持していた道具の一つで、実はおんたんももらっていた。
ただ、おんたんは、何か嫌な予感がしていたのか、この薬を使用しようとはしなかった。
門出は、調査員に人間の良いところを見せたい一心で、人助けをしたり、環境美化に務めていたりしていくが、調査員はどこか突き放した態度ばかりとっていた。
そうこうするうちに、門出の行為はどんどんエスカレートしていった。
最初は、長すぎる踏切を待っている妊婦を助けるつもりで、線路を破壊してしまい、次は、おんたんがファンだったアイドル「銀しゃま」が不純異性交遊をしたために、制裁を加え、最終的には、世直しのために悪人を探して殺すようになっていった。
なぜ、門出は暴走してしまったのか?正義漢が暴走した、それもあるだろうが、相談できるいなかったというのもある。これはおんたんの家庭環境と比べてみるとわかる。
おんたんは、兄であるひろしくんがいるが、門出は夜中でも両親が不在である場合が多い。
親は仕事で忙しい、クラスでは孤立、ようやくおんたんのような存在に巡り合えたが、その時には調査員という特殊な問題を抱えていた。
門出は、地球人が善良であることを調査員にアピールしたいがために、とうとう過激なことまでやってしまったのだ。
調査員が「正義」という言葉を嫌っている、もしくは警戒しているのもうなづける。
不審な行動をとる調査員
結果的に、調査員は、地球人を傲慢で凶暴な種族と判断してしまうが、そのために、ここは危険と、「本国」に報告して、この世界線では母艦が来ないことになっている。
さて、今回の一件で、調査員は傍観者として、ふるまっているようだが、彼に、まったく非はないのであろうか?
実はそうではない、それどころか、調査員は不審な行動をとっているところがある。
本来、調査員が持っている道具は、容易に見せてはならないものであるらしく、最初、門出達に見せるのを渋っていた。ところが、調査員は次第に門出やおんたんに渡した興奮剤を含めて、徐々に門出とおんたんに道具を渡していく。
そのうえ、門出がおんたんを助ける際にも、光学迷彩のマントを渡していた。しかも、門出は興奮剤を服用した影響からか、がっつり他人の前で、このマントを使うという、大胆な行動に出ている。
どう考えても、この道具を他者に見せるのは、やってはならない行為のはずだが、調査員はなぜか黙認している。
そのうえ、一番危険そうな、空間を歪める道具を渡したうえ、門出が勝手に持ち去ったことに気づいても、気にしたようなそぶりも見せず、ただ一言こうつぶやいた。
「…まあ。好きにしたらいいと思うがね。」
どことなく、予定外のことが起きたが、それはそれで好都合というニュアンスに聞こえないだろうか?要するに、はじめから調査員は、門出やおんたんが自分の道具を使って暴走することを、期待していたのだ。
問題は何のためにそう仕向けたのか?ということである。
復讐を企んだ調査員
話は変わって、母艦が襲来する世界線について話してみよう。この世界線だと、調査員は、門出とおんたんに出会わなかったために、子どもたちにイジメられた後、海岸近くの洞穴に縛られて、放置されたようだが、自力でどうにかしたようである。
その後は、人間の体を借りて、しばらく過ごしていたようだが、なぜか、母艦が来るように報告した。あるいは、ここに来ても安全と報告したのだ。
地球には強力な磁場が存在していて、調査員の宇宙船が不時着してしまったのは、そのためである。さらに、本編の母艦が、ずっと停滞していたのは、この磁場によるものであったのだ。
母艦のエンジンはメンテナンスをしなければ、4年で崩壊してしまう。しかし、調査員は、地球に磁場があることを隠したあげく、パスワードをかけて、母艦の緊急着陸をできなくしてしまったのだ。
なぜ、そんなことをしたのか?もちろん、復讐である。自分を痛めつけた地球人は、もとより、自分をこんな危険な場所におくりこんだ「本国」すなわち、自分の上層部に対しても怒りをぶつけていたのだ。
そして、母艦のこない世界線では、門出やおんたんを使って、地球に復讐しようとしたのであった。
門出を傲慢と言い切っていたにも関わらず、自身は門出よりひどい復讐を行っていたのだ。
しかも、犠牲になったのは、地球人と自分の同胞で、自分をここに来るように差し向けた上層部には、牙を向けようとはしていない。
ひろしくんの言う通り、悪意のない人間ほど、おそろしいものはない。門出も調査員も自分自身の悪意を感じ取ることができなかったために、ここまで悲惨なことをしてしまったのだ。
本当の悪魔とは?
調査員にも良心がないわけではない。
母艦のこない世界線では、門出が暴走したことで、調査員は溜飲をさげたのか、本国に地球に来ないように連絡した。
しかし、門出を失ったことで、意気消沈したおんたんは、調査員に時間を巻き戻す力が欲しいとねだったが、そんなものはないと冷たく言った。
調査員は門出が自殺する前に、おんたんと一緒に行くと言い出したが、門出がこうなることを知りながら、何もせず、ただ監視しなかった調査員に不審感をあらわにして、拒否した。
そのため、調査員は、一緒にいくと提案したのに、拒否したのは君だと言い放った。
確かに、拒否したのはおんたんだが、本当に心配しているのなら、いちいち相手の承諾を求めず、勝手に行けばいいだけの話である。
どうも、この調査員というのは、責任を嫌がっているような側面がある。
他の侵略者達はどうなのかと言うと、この調査員とは裏腹に、とぼけた性格をしていて、言葉さえ通じていれば、友達になれそうなタイプが多い。
その後、ひろしくんがおんたんを慰めていると、さすがに良心がとがめたのか、タイムシフトすることを提案した。
そして、ここでも調査員の責任回避がはじまる。おんたんが過去をやり直すことで、母艦が襲来する可能性を示唆し、おんたんにその覚悟があるかどうかを問いているのだ。
どう考えても、母艦が襲来したのは、この調査員の仕業によるもので、おんたんにその責を問うのは筋違いというものだ。
むしろ、自分自身が、過去の自分にメッセージを送ることで、回避する手段もあるはずである(後のエピソードを見てみると、これに近いことをやっている場面がある)。ひろしくんもそのことを示唆している。
ところが、調査員は「やり直しは基本無意味」と言って、自分が使うのを拒否している。それどころか、子どもたちにイジメられた際、門出が、道具を使って対処すればいいのにと言ってきた際も、そんなことをしてもしょうがないと言うだけであった。
母艦に来た世界線では、普通に自分で対処していたので、彼はできないのではなく、やろうとはしないのだ。自分が責任を持つということが嫌な気質なのだ。
これこそ、調査員の持っている本質的な「悪」なのではないだろうか?
調査員は、理屈っぽいことを言って、自分が知性があるかのように振る舞い、人を煽るだけ煽って煙に巻き、自分の言葉に責任をとらず、相手のミスを糾弾している。
まるで、ネットやテレビで人を煽っている、嫌なコメンテーターのような存在に見えてくる。
そして煽る人間は、いつの時代でも身勝手で無責任だ。
なぜなら、自分の責任を回避することで、善意も悪意も感じとれなくなってしまうからだ。
そして、そのことで、恐ろしい事態を招いてしまうが、それでも彼らは責任なんてものを感じない。
すべては行動した者の責任だからだ、というのが彼らの信念なのだ。
悪魔とは、悪事を働く人のことを指すのではない。人を奈落の底に陥れる者のことなのだ。