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うつほ物語『藤原の君』

 源正頼は、嵯峨院の娘「大宮」と、太政大臣の一人娘「大殿の上」と結婚し、12人の男君と14人の女君をもうけました。男君たちは高い官職につき、女君たちは朱雀帝や皇族、有力貴族らと結婚。正頼は、帝以外の婿たちを巨大な三条院に住まわせます。

 正頼の九女「あて宮」は、正頼の娘の中でも特に美しく成長しました。12歳になり裳着をすませると、多くの男たちからの求婚が始まります。

卵(かひ)の内に命込めたる雁の子は君が宿にて孵さざるらむ
(あて宮様のお家で、卵の中にひっそりと生きている雁の子は、卵を孵すことのないままになってしまうのでしょうか。あて宮様への私の秘めた思いもこのままかなえられずに終わってしまうのでしょうか。)


 一番最初にあて宮へ歌を送ったのは、2人の兄があて宮の姉と結婚をしている源実忠でした。実忠は、あて宮への思いを募らせ、正頼の家に居座り、多くの和歌をあて宮に送り続けます。

 求婚者の中には、平中納言(東宮のいとこ)、兵部卿の宮(嵯峨院の御子)といった有力候補者の他に、曲がった性格の皇族、吝嗇家の中納言、年寄りの宰相といった個性豊かな人物も登場します。また、あて宮の兄である源仲澄も、あて宮へ思いを伝えます。

 季節は春から夏、秋へと変わり、7月7日の七夕の日になりました。源正頼一家は織姫に供物を捧げるため、賀茂川のほとりに来ています。そこに、東宮からあて宮の母宛に、和歌が届けられました。

思ひきやわが待つ人はよそながら織女(たなばたつめ)の逢ふを見むとは
(私が思いを寄せて待っているあて宮様は別のところにいたまま、織姫が彦星に会うのを私1人で見るこのになるとは思ってもいませんでした)


 こうして、東宮もあて宮求婚者の一人となりました。

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