【vs.ポピュリスト】ポピュリストの財政論を斬る!
お名前は伏せさせていただきます。予めご了承ください。
いやはや、相変わらず「日本には通貨発行権があるから財政破綻なんてありえない!」といった、まるで50年前の経済入門書すら読んだことがなさそうなポピュリスト的主張を真顔で繰り返している向きがいるようですね。実に微笑ましいというか、呆れたものというか。ほら、せめてもうちょっとマクロ経済学の基本に目を通してみてはどうでしょうか?
そもそも「国債でデフォルトはありえない」などと断定する前に、「日本円の価値は誰がどう担保しているのか」という極めて初歩的な問いに答えられますか? 通貨発行権があるから大丈夫、と単純に言い切る人は、まるで自分が無限に描ける「お絵かき紙幣」を本物の貨幣と混同しているようなものです。現実世界では「信用」が通貨価値を支える最大の要素なのですが、どうもこういった方々は「信用」という言葉を聞くと難しすぎて意識がフリーズしてしまうようで。日本政府が発行する通貨や国債も、それ単体で尊い金貨などではなく、経済の実力・市場参加者の信認・資本の国際的流動性など数多くの要因で価値を保っています。増税がどうとか減税がどうとか、その表層的な手続き論ばかりに耽溺し、「景気後退の真因」「成長戦略の欠如」「潜在的な生産性低下」などの深層課題を一切考えないあたり、だいぶ「学ばぬ人」感が強いですね。
※「日本には通貨発行権があるから財政破綻なんてありえない!」の何が誤っているのかは後日記事にしますね。
「海外の先進国は成長していて、日本は後退している理由を考えてください」と聞かれましても、
・他国が新技術や高付加価値製品の開発に成功する中、日本は技術革新のペースが遅れている
・これまでの超積極財政で生産性のない層ばかりに投資をしてきた(積極財政の利点が全て吹き飛びます)
・企業の設備投資が停滞し、生産性向上のための投資が不足
・労働力人口の減少が生産能力の低下を招いている。それなのに労働生産性は上がらないまま(労働者のせいにするなという意見が目立つが、労働者一人当たりの生産性が低いのは紛れもない事実)
・日本の特徴的雇用慣行も民間部門の成長の足かせ
・過度な社会保障。
などなど、複合的に作用が絡み合っての後退で、意見も分かれているとしか答えようがありません。
しかしながら、その答えを「増税で手取りが減ると消費減→デフレスパイラル」という紋切り型で済ませるのは、「30年間にわたって日本をじわじわと蝕んできた構造的問題」と向き合う知的根性のなさを露呈しているようなものです。資本投資やイノベーションの停滞、労働市場の硬直、人口減少、技術進化への対応力不足、国際貿易環境の変化、教育・人材育成戦略の不備――ここまで挙げても、まだ「減税で景気回復!」の一点張りなら、その経済学はどの時代の小学生向け参考書から拝借したのでしょうか。
「2%のインフレターゲット」や「財政健全化」がなぜ重要視されるか、あるいは「何のためにそのターゲット設定が行われているのか」を考えず、ただひたすら額面通りに「インフレ2%でその後増税なんて国民の赤字!」と叫ぶ様は、経済現象を「税金=悪、減税=善」というスーパー単純化で片付ける単細胞ぶりを示しています。複雑な政策判断を必要とする経済運営を、まるでお子様ランチの旗でも立てるように「減税さえすればOK」などと騒ぐのが健全な議論だとは到底思えないのですが。日本が「貧困化した理由」を国民民主党とかれいわ新選組の公式HPで読んだ知識だけで断じるなら、もう少し経済学的素養を磨いてからどうぞ。
おやおや、相変わらず「税は財源じゃない」とか「国債は国の債務でなく国庫債権=お金」などという、奇妙な経済理論もどきを振りかざしていますね。まるで通貨発行をドラえもんのようなものだと信じているようですが、もう少し現実世界のマクロ経済学と金融市場の機能を学んでみてはいかがでしょう。
まず、「この50年で国債残高は177倍になったのにデフォルトしていない」「アメリカも5600兆円超の債務があるがデフォルトしていない」などといった「デフォルトしていないから未来も絶対しない」とする主張は、将来のリスク管理を完全無視した、かなりおめでたい短絡思考です。確かに、日本政府は円建て債務が中心で、国債利回りが低水準で推移しているという特殊な環境にあります。また国債保有者は国内投資家が多いこともリスク抑制要因です。これらのファクターは「運がいい」「今のところ安定している」ことを示すだけで、それをもって「財政規律無視でOK」などという結論には到底なりません。
その上で、「国債は国の債務でなくお金」なんていうトンデモ理論、どこで仕入れてきたのでしょう。国債はあくまで「将来返済義務(=元本返済と利払い)を伴う負債」であり、それが市中で金融資産として流通していることは事実ですが、「ただの資産だから返済不要」というのはおかしな飛躍です。実際、国債保有者は「信頼」を基盤に日本国債を持っており、その信頼を損なえば金利上昇や通貨価値下落を招くのです。もし「全く返済の必要のないただのお金」なら、そもそも国債市場で売買され、利回りがつく理由は何なのでしょうね? そんな基礎的な疑問すら無視して「国債=お金」と言い張る。現実、見えてないのでしょうか。
「税は財源じゃない」というのもあまりにナイーブな主張です。確かに、主権国家は法貨を発行できますが、税収という安定財源なしで、経済や国家運営が永遠に好転し続けると考えるのはファンタジー以外の何ものでもありません。日本政府の2022年度一般会計予算では、税収は約67兆円ほど(※ポピュリストに勝手に敵視されている財務省資料より)を計上しており、これがなければ社会保障、公共投資、防衛、教育、科学技術振興、あらゆる分野での財政支出の裏付けが崩れます。「税は財源でない」という主張は、明確に現実データと矛盾しています。(財務省HPでも明確に税≠財源論は否定されています。)
それと、「デフレスパイラルの原因を教えてくれ」などと偉そうに言う割には、まるで根本的な成長戦略不足や労働生産性の伸び悩み、国内需要の構造的縮小、技術革新投資の停滞、人口減少と高齢化など、複合的な要因を考慮する気が全くないようですね。こんな単純思考だと、「不景気だから減税すればいい」→「好景気だから増税すればいい」という算数レベルの循環図しか描けないのでしょう。日本の場合、1990年代以降の「失われた30年」はバブル崩壊後の不良債権処理の遅れや、金融システム改革、産業構造転換の遅滞、高齢化・少子化による内需縮小、さらには時代への不十分な適応など、複数要因が相乗して需要停滞とデフレ基調を長期化させてきたのです(諸説あります)。
国債をばら撒けばすべて解決する、減税すれば一挙にデフレから脱却できる、などという乱暴な主張は、マクロ経済モデルの基礎すら理解していない証左です。現実には、マネタリーベース拡大(国債買い入れを通じた日銀のバランスシート拡大)と物価上昇率(CPI)の乖離や、賃金・生産性・技術革新との関係など、はるかに複雑なメカニズムがあります。日本銀行が粘り強く緩和政策を続けても、2%インフレ目標到達に手間取った背景には、潜在成長率の低下やグローバル化・デジタル化といった構造変化が大きく影響しました。単純に「減税で不景気は直る」と宣うのは、隣の公園で知り合いとおしゃべりしながら、将棋盤もなしで将棋論議をするようなものです。前提も手筋も理解していない状態で、大口を叩いているに過ぎません。
最後に「私は投資家でまともな経済学者、投資家、経営者、政治家はみんな同じ意見」と来ましたか。残念ながら、世界のメジャーな経済学者やシンクタンク、IMFやOECDなどの国際機関は、少なくとも「税は財源でない」などという珍説を支持しておりませんし、「不景気=減税だけで30年のデフレが説明できる」などという単純化も認めていません。ちゃんと国際機関のレポートや総合的な経済分析をお読みになったほうがいいですよ。あなたのお仲間がどれほどの「まともさ」を備えているのか疑問です。
なるほど、経済を一夜にして再生する錬金術が存在すると信じたくなる気持ちはわかります。学者や政策立案者が単に「ケチ」だから景気が悪いとでも言いたいのでしょう。しかし、残念ながら、現実経済はそんな素朴な夢物語には付き合ってくれません。
以前にも言いましたが、まず、「通貨発行すればすべて解決」論の根底にあるのは、「理屈抜きで財政拡張と減税すれば経済成長できる」という極めて単純な世界観です。しかし、ここ30年の停滞で知られる日本において、デフレ期に財政出動をしてこなかったわけでは決してありません。公共事業や財政支出は累積的に増え、公的債務対GDP比は世界トップクラス。2023年時点で200%超えと、主要国でも突出しています。そして何より、どれだけ通貨を供給しても、民間需要がしぼんだままでは、実質成長率が上がらない現象を嫌というほど体験してきました。皆が黙々と預金を積み上げ、需要不足が慢性化すれば、いくら刷ったところで経済は回りません。それは過去30年の「結果」が雄弁に物語っています。
前述のポピュリストも例に挙げていた、アメリカやドイツは、確かに我が国より成長しています。ですが、それは「思い切り通貨を刷ってばら撒いたから」なのでしょうか?実際には、技術革新による生産性向上、新たな産業勃興、企業の国際競争力強化など、多面的要因が成長を支えています。構造改革や産業政策、人的資本への投資といった地道な取り組みがなければ、ただ「通貨刷れ、税を下げろ」などという子どもじみた陳情では持続的成長は得られません。むしろ、実質賃金上昇につなげるには、人口動態、労働生産性、イノベーション環境といった長期的な基礎体力が肝心で、ここを無視すれば「成長のふりをした風船」程度が関の山です。
「増税は即、景気後退!」と叫ぶ人は多いですが、そもそも税体系や増税の対象、時期、同時並行での再分配政策、公共投資戦略など、複合的な政策設計が問題になります。もちろん需要が弱いときの単純増税は景気に悪影響を及ぼすこともありますが、ここ30年の日本が「足りなかった」のは、本当に税率だけの問題だったのでしょうか? むしろ、需給ギャップ是正のための戦略的な規制改革や、労働市場改革、イノベーション促進策が欠如し、賃金上昇と購買力強化のサイクルを育てることができなかった点の方が深刻です。いわば、「木を見て森を見ず」どころか、「枯れ枝の色だけ見て森全体を理解した」と言い張るお手軽理論の滑稽さが際立ちます。
「財政健全化は国民の赤字を意味する」といった大言壮語は、経済の循環過程を単純化しすぎた幼稚な比喩に過ぎません。財政健全化とは、ただ増税するだけではなく、持続的に経済を成長させつつ、税収が自然増する状況を整え、歳出・歳入バランスを将来世代にも負担を先送りしないかたちで調整すること。それを「国民の赤字」などという稚拙な表現で片付けるのは、教科書の扉を開く前に「俺は経済学を極めた」と吹聴するようなものです。まずは公民の教科書を読みなおすことから始めましょう。
結局、こうしたポピュリスト的な「お金ジャンジャン刷れば全部OK」論は、極めて不誠実な短絡思考といってよいのです。魔法のような解決策で何とかなるなら、なぜこの数十年、日本はそのワザとやらを使わなかったのか。もう答えは出ています。そんな単純解は存在しないし、存在したら苦労などしないからです。
さて、これでまた続編への下地は十分ですね。次回はさらに、財政政策と中央銀行政策の役割分担や、海外先進国と日本の成長戦略の根本的な違いなど、もう少し踏み込んだテーマについて論じましょう。引き続き、ポピュリスト的幻想を打ち砕く展開にご期待ください。