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設計あれやこれや 12
マーフィーの法則
サンプリング装置を設計する時、小型のボックスや大きなシステムの場合キュービクルに収めるという事がよく有ります。
そのボックスなりキュービクルには、試料や電気の通り道として、何ヵ所かの穴を設けます。
その際、余分な穴として予備口を設けるという事もまた、よく行ないます。
予備口について問題があったのは、コストダウンという事を会社全体に対して御達しがあった頃でした。
予備口は、絶対作るな!と、上司から言われてしまいました。
今まで内心、予備口を作る事について、気に入らなかったのかも知れないし、またコストダウンの社命が有ったためかも知れません。
ABBの分析計の仕事は、あらゆる化学物質を分析するような特殊な仕事です。
具体的にはサンプリング装置を製作し、購入した分析計と合体させて、お客様に納める仕事です。
サンプリング装置は、お客様の試料の状態から分析計への導入条件に合わせる装置です。
その為、問題が起きて現場で改造という事が、まま有るような仕事なので、予備口の2、3個は図面製作の時に用意するのは、当たり前の事と思っていました。
たまたま予備口を作るな、という時に限って問題が起きて予備口が必要になってしまう、これこそマーフィーの法則だと思いませんか?
この場合も(起きる可能性の有る事は、必ず起った)のです。
逆に予備口が有る時は、問題が起こらないという事も、またマーフィーの法則なのかも知れません。
この時の仕事も、「樹脂配管1」「設計あれやこれや11」と、いろいろ難しい問題の多い塩素ガスの分析でした。
何が問題であったかというと、分析計に引き込んでる塩素ガスに脈動が入っていて、これが分析値に影響を及ぼしていました。
受注した時には脈動が入っているという話はありませんでしたし、今までの塩素ガスの仕事で脈動が入っていた事は一度もありませんでした。
「設計あれやこれや 9」の中で説明している緩衝タンクを利用する方法を提案したのですが、この分析計は、人命を預かる高速性を求める物だから、応答が遅くなるタンクを置く事は出来ないという事でした。
塩素ガスの製造は塩水を電気分解して製造するため、塩素ガスと水素ガスが発生します。塩素ガスに水素ガスが混入してしまうと爆発を起こす可能性があるという事です。
そのため、水素ガスの混入を調べるため応答時間の短縮が大事でした。
塩素ガスの製造ラインだから、この時も、大気圧に近い低圧でした。
そのため水封システムで水を排除しながらの分析でした。上司はその水封を利用して分析計の入口、出口に水封による水ダンパを設け、入口側の脈動を取る方法を考えました。
そして、大気と水封を介したダンパを製作しました。(図A)
結果として、改造後これで分析値が安定したのですが、予備口が無いため大変でした。
このシステムは、屋内に設置したキュービクルに収めたシステムでした。キュービクルに穴を新たに開けるには防爆場所のため難しく、出来るだけ今有る穴を利用したい所です。
結果としては、キュービクルをお客様の所に設置する時に使用したアイボルトの穴を利用しました。
予備口を用意しない時に限って、予備口を必要となる。
これ以降、予備口を作っても上司に文句を言われなくなりました。
この事をきっかけで文句を言われなくなった事も、またマーフィーの法則なのでしょう。
結局、改造にお金が大分掛かったため、予備口分のコストダウンなんて、何処かに行ってしまったようです。
お金を掛けないように目指した筈なのに、コストアップになる。
これもまた、マーフィーの法則かも知れません。
マーフィーの法則はこのような経験則によるものです。
例としては、
バターを塗ったトーストを床に落とすと、塗られた面が床に着地する。
失敗の可能性のある物は、失敗する。
車を洗車すると雨が降る。
起きる可能性の有る事は、必ず起こる。
などが有ります。
温調ボックスに使用するスチーム用の温調弁を使用していて、「設計あれやこれや3」の話しで、初期は温調トラップ TB3、その後、TVシリーズ、OB-30 と採用してきました。
温調トラップ TB3 を使用している時は問題は無かったのですが、TVシリーズやOB-30に変更した所、バルブに異物が挟まりスチームが閉じきらないため温調ボックスの温度が上がりすぎるという事が何度か有りました。
温調トラップ TB3 は、温調ボックスの出口側に設置されます。そのため、このバルブを通過するのは、凝縮水、すなわち液です。
それに対して TVシリーズ、OB-30 は温調ボックスの入口側のために設置されるため、スチームとなります。
つまり温調ボックスの出口は液として排出されますが、入口側はガスとして通過という事になります。
市販のバルブは、液用はCv値が大きく、これはバルブを通過する穴、つまり液用は隙間が大きい事を示します。液は隙間が大きくないと、流れにくいという事です。
逆にガス用は、Cv値が小さい、これはバルブを通過する穴が小さい、つまりガス用は隙間が小さい事を示します。ガスは隙間が小さくても、良く流れるという事です。
温調トラップ TB3 でも、バルブに異物が挟まる事は有ったと思います。異物が小さければ、異物が挟まった事による小さな隙間では凝縮水は液のため、流れにくく、そのため温調ボックスに影響は少なかったと考えられます。
それに、温調トラップ TB3 は、温度の安定度がもともと良くないので、異物による影響は目立たなかったという事も考えられます。
T VシリーズやOB-30 を通過するのはスチーム、すなわちガスです。すなわち異物の挟み込みによる小さな隙間でも流れる流量は多くなります。
これが温調ボックスの温度を押し上げる要因と考えられます。
また、T VシリーズやOB-30 は、温度コントロールは格段に良くなっているので、異物の影響はすぐに温度の上昇としてでてきます。
これもまたマーフィーの法則のなかで、「起きる可能性の有る事は必ず起こる。」という事の具体例ではないかと思います。
結果として、T VシリーズやOB-30 のスチームのラインに Y型ストレーナを入れる事で解決しました。
OB-30は購入開始時、Y型ストレーナは別購入だったのですが、ある時を境にY型ストレーナが同梱されるようになりました。
たぶん、他のお客様の所で、異物によりバルブが閉まらないという事がたびたび起きていたのかも知れないですね。
これもまた、OB-30のメーカのヨシタケさんにとっても、マーフィーの法則であったと思われます。
ところでスチームラインに、Y型ストレーナを取り付ける時の向きがある事、知っていますか。
水とか空気の場合との設置方法の違いは取り付け向きです。
横向きに取り付けるのが正解です。ストレーナのこし網の部分を下にしてしまうと、凝縮水の溜まり場となってしまい、スチームの通過がスムーズで無くなってしまうためだと思います。
もし、あなたが私の書いている設計のポイントを継続して読んでくださったとして、たまたま目にして、スチームのストレーナの向きを横向きに変更したとしたら、それもまた、マーフィーの法則かも知れません。
マーフィーの法則は悪い事ばかりとは言えないと思います。
良い事だってマーフィーの法則は有ると思います。
今回は、設計のポイントとして、マーフィーの法則を取り上げてみましたが、私達の身の回りには、たくさんのマーフィーの法則が散りばめられているのではないでしょうか。
良かったら、身の回りのマーフィーの法則、探してみませんか?
できたら、良い、または良かった点を中心に。
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図A 脈動取りのための水ダンパのイメージ図
分析計の入口側、出口側の両方に水を介してダンパ機能を持たせています。