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半同居人と決意の日

最後に見た山下さんの表情は、



色違いのパズルのピースのように僕の記憶の一部となり、



すでに埋まっていた大切な想いを誤魔化すようにはまってしまった…











○○:…どこに行ったんだろう



山下さんが僕の部屋を出ていってから1ヶ月が経った



この1ヶ月一度も山下さんの姿を見ていない



たまに心配になって部屋のインターホンを押そうか迷っては、



どのような顔を見せればいいかが分からず引き返してしまう





○○:はぁ…



ふと、自室のベッドに目を向ける



僕が目を覚ました時も、大学から帰ってきた時も必ずといっていいほど山下さんはそこにいた


でも今はいない…







本当は気づいていた



何時しか惹かれていることに



でもそれに気づかぬフリして勝手に線引きをしてしまう



その結果、線は深い溝になり簡単には飛び越えられなくなった











愛季:最近元気ないけど大丈夫?



大学の空きコマに自習をしていると声をかけられる





○○:ん?……あぁ、谷口か



愛季:何その返事、愛季じゃ不満?



○○:…別にそういう意味じゃないよ



愛季:そっ、



谷口は僕と向かい合うような席に座る







愛季:何悩んでるの?



○○:えっ?



愛季:だから!何悩んでるの?



僕をしっかりと捉えた目が心の中まで見透かそうとする





○○:…ちょっとね



相談しようかどうか迷っていると、





愛季:ほー、女の子絡みだね



分かりきったかのような顔で言い当てられる





○○:…よく分かったね



愛季:……○○のことはよく見てるからね



○○:ん?



愛季:なーんでもない!ただの女の勘だよ



○○:そっか



愛季:そうそう!



愛季:それで、何があったの?



隠し事が出来ないと悟った僕は谷口に全てを話した



山下さんが出て行った原因から僕の想いまで全て…







愛季:そっかぁ、要は○○の意固地なしのせいで相手を怒らせちゃったんだね



○○:ウッ…そうです



愛季:でもさぁ、もう○○の中で答えは出てるんでしょ?



○○:……うん



愛季:ならこんな所でウジウジしてないで行動しなよ



愛季:ただでさえ1ヶ月も待たせてるんでしょ!



○○:……はい



愛季:好きなら好き!ちゃんと伝えないとダメだよ!



愛季:分かった!?





○○:……ありがとう谷口



○○:…俺行ってくる



谷口に喝を入れられた僕は急いで荷物を片付けて立ち上がる



○○:このお礼はまたするから



愛季:そんなこと言ってまた怒られてもしらないぞ〜





愛季:ふふっ、行ってらっしゃい



○○:うん、行ってくる



谷口に感謝を伝えると僕は急いで家に向かった









愛季:……あ〜あ、愛季も好きだったんだけどなぁ…



愛季:…上手くいかないなぁ



人知れず流れる涙よりも早い速度で僕は走った











○○:……ハァハァ



肩で息をしながら自分の家に荷物を置いて山下さんの部屋の扉の前に立つ



震える人差し指をインターホンに近づける度に鼓動も震える



指の震えそのままにインターホンを押すが反応が無い





○○:…やっぱり遅かったかな



胸のドキドキが収まるほどに冷静になる



○○:…僕がすぐに行動しないから



1ヶ月という歳月を舐めていた自分の愚かさが嫌になり山下さんの部屋に背を向けると、







??:あっ、



誰か人が立っていた


○○:…あっ、こんにちは



??:…こんにちは



軽く挨拶を交わして自分の家に帰ろうとする





??:…ねぇ、君瞳月の知り合い?



○○:え?



山下さんの名前を出されて思わず振り返る



??:あー…君がそうか…



謎の女性は僕の全体を見ると1人納得したような表情を浮かべる





??:君は瞳月に会いたいの?



○○:えっ…………はい、



??:そっかそっか…



なんの事だか分からずにいると、



??:言っとくけどそこに瞳月はいないよ



山下さんの部屋を指さしながら女性が答える



??:瞳月なら今京都の実家に帰ってるから



○○:……京都ですか?



??:うん



○○:……なんで知ってるんですか?



??:瞳月から急に京都に帰るっていう連絡が来たから?



??:私はこうやって瞳月の分のレジュメを届けに来てるだけだけどね





○○:……山下さんはどこにいるんですか?



??:…会いたいの?



○○:はい、後悔したくないので



??:瞳月はもう君のことが好きじゃないかもしれないよ



○○:でも僕が山下さんを傷つけたのは事実ですから謝りたいんです



??:それで想いも伝えたいと…



○○:はい



??:ふふっ、覚悟を決めた目をしてるね
 


??:はいこれ、瞳月の実家の住所



謎の女性から住所が書かれたメモ用紙を受け取る



??:それ、瞳月から預かってたもんだから



??:これ以上待たせてあげないでね



○○:ありがとうございます!



僕はまた急いで部屋に戻り準備をしようとする



○○:あっ…あなたは?



??:藤吉夏鈴、ただの瞳月の友達だよ



○○:ありがとうございます藤吉さん!



夏鈴:がんばりなよ〜



藤吉さんから貰ったメモ用紙を握りしめて僕は山下さんの元に向かった











○○:…確かこの辺のはず



スマホに打ち込んだ住所を見ながら慣れない土地をウロウロしていると







瞳月:買いもんいってくるー!



○○:あっ!!



瞳月:えっ!



目の前の家から出てくる山下さんと出会った





瞳月:……



○○:ちょっとちょっと!?



僕を見るなり驚いた顔した山下さんが家に逃げ込もうとする



瞳月:…なんでおんねん



○○:藤吉さんから聞きました



瞳月:…あぁ、なんやかんや言いながら夏鈴もちゃんとレジュメ持ってきてくれてたんやな



○○:…ちょっとだけお話いいですか?



瞳月:……こっちきぃ



山下さんに連れられて人がいない公園に着く









瞳月:…それで話って?



○○:…まずはごめんなさい、僕の勝手な思いのせいで山下さんを傷つけてしまって



○○:…本当は気づいていました



○○:でもどこか、変わらないであろうと高を括って甘えていました



○○:気づいていながら、自分の気持ちは悟られたくないってカッコつけて



○○:そのせいで山下さんの想いを踏みにじってしまった…


○○:…もう後悔はしたくない、だから自分に嘘をつくのを辞めます





○○:山下さん……山下さんのことが好きです



○○:僕と付き合ってください



不格好な言葉を必死に並べて山下さんに手を伸ばす







瞳月:…ほんまに遅いわ



瞳月:…こんなに健気に待ってる女の子なんか他におらんからな



瞳月:…しーのことが好きならちゃんと大切にせぇよ



瞳月:…じゃないとほんまに許さんから



山下さんは瞳に涙を浮かべながらも僕に抱きついてくる





○○:絶対大切にします



瞳月:…当たり前やアホ



夕日が傾く公園で僕たちはしばらく幸せを噛み締めるように抱き合った







瞳月:あー…○○のせいで目が腫れてもうたわ



○○:どんな山下さんも可愛いですよ



瞳月:なっ!?そんなこと急に言うな//



○○:照れてる山下さんも可愛いです



瞳月:クッ…ほんまはしーが主導権を握るはずやのに





瞳月:てか、いつまで山下さん呼びやねん



○○:あぁ……瞳月?



瞳月:……///



○○:自分で言わせて照れてるじゃん



瞳月:アホ!彼氏に名前呼ばれて照れへん彼女なんかおらんねん!



ふと互いに目を見ると、どちらからともなく手を握る



伸びる影が1つになるようにソッと身を寄せあい、離れないように少し遠回りをしながら歩いていった…
 










瞳月:ふぅ…やっぱり我が家が1番やな



○○:…正確には僕の家ね



あの日、そのまま瞳月の実家で1泊すると僕たちはそのまま帰ってきた





○○:…でもいいの本当に?



瞳月:なにが?



○○:部屋、解約するんでしょ



瞳月:うん、元々○○の家の鍵を持ち始めた頃から考えとった話やし



瞳月:2人でも充分住める広さはあるし



○○:そっか



瞳月:まぁこれで本格的に半同居人から同居人に変わるな



○○:…ちゃんと家事は手伝ってよ



瞳月:当たり前やん!そのために実家帰っとってんから



○○:…ん?そのためってどういうこと?



瞳月:花嫁修業のために決まってるやん



○○:…そのために帰ってたの?



瞳月:おん、





瞳月:……あの日なぁ、○○の家を出てから考えとってん



瞳月:しーに足りないものは何かを………そして気づいてん



瞳月:しーには○○の嫁になる覚悟が足らん!って



○○:…何を言ってるの?



瞳月:振り返ればしーが○○の家事を手伝ったことなかったなぁ…って思って、



瞳月:やからしーが○○が他の女に興味を持たんぐらい完璧な嫁になろう!って決めてそのためにお母さんに弟子入りしとったんよ



瞳月:まぁその結果なんやかんやで1ヶ月も経っとったけどな



○○:…はぁ、なにそれ



○○:てっきり僕に会いたくないから帰ったんかと思ってた

 
瞳月:なわけないやん、しーは一日たりとも○○のことを忘れたことはないよ





瞳月:…まぁでもやっぱり寂しかったは寂しかったで



○○:…ごめんね



瞳月:ええよ、しーのこと迎えに来てくれた時は嬉しかったから



○○:の割には1回逃げようとしたよね



瞳月:…あの時はほぼスッピンやったから





○○:はぁ、でも瞳月らしい理由で安心した



瞳月:ふふっ、これからは花嫁修業したしーが○○のこと幸せにしたるわ



○○:じゃあ僕は頑張ってる瞳月を幸せにしないとね



瞳月:2人で幸せになろな



○○:そうだね





奇妙な出会いから始まった僕たちの関係



普通じゃないその関係は時に衝突して離れ離れにもなった



でも普通じゃないからこそ交わった時の結束は他よりも強い……はず



これからもこの普通じゃない奇妙な非日常が日常を彩れるように僕は瞳月と一緒に生きていく



fin…



 










○○:…一応これでseason1が終わったけどどうする?



○○:season2もする?



瞳月:ん〜、season2のタイトルが"しーと○○のイチャラブ日記!"やったらする



○○:…じゃあseason2はなしってことだね



瞳月:なんでやねん!!



続く……かも?

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