バ先のあの子は変化に気づいて欲しい
○○:ありゃした〜
腑抜けたバイトの声が響くラーメン屋
時間はもう19時と夕飯時なのに店に客はおらず、店員も僕一人
○○:…暇だぁ
立地自体は駅ビル内、かつ地下鉄の乗り場へ向かう動線上にあるためそこまで悪くないはず
なのに店の前は人が歩いてない
○○:早く19時半になんねぇかな…
19時半になればもう一人、バイトの子がやってくる
このまま暇が続くようなら話し相手でも居ないとやっていけない
僕はもう一人が来るまで眠気と戦った
瞳月:おはようございます
○○:あっ、おはよ〜
後ろから聞こえる声に彼女が来たことを知る
瞳月:今日も暇なんですね
○○:おかげさまでね…
洗い物をする僕の横で手を洗う彼女
瞳月:あっ、取ってください
○○:あぁ、はいはい
衛生のためにつけてるゴム手袋が少し高めの場所に置いてあるため毎回こうして取ってあげる
初めの方はピョンピョンと低すぎるジャンプをしながら取ろうとしていて、
こっちが声をかけても意地になっていたが今では諦めたのか直ぐに頼むようになった
瞳月:聞いてくださいよ、先輩
手を洗い、麺機の前に立つ僕の横に彼女が来る
客がいない時はいつもこうして彼女と話す
彼女は高校での出来事、僕は大学の出来事を交換し合う
瞳月:あっそや、先輩に聞きたいことがあるんですよ
○○:んっ?なに?
瞳月:今日のしー、どこが変わったと思いますか?
短い両手を広げてくるりと回る彼女
○○:えっと…
…ヒントが無さすぎる
こういう時の相場は髪型や髪色、ネイルとかの変化があるのだろうが、
今の彼女の姿は手はゴム手袋を付けていて、頭には三角巾を巻き、マスクを付け、腰には前掛けを巻いたバイトの正装状態
髪や爪が全く見えない
瞳月:まさか…分からんとか言いませんよね
○○:スゥー…
思い出せさっき彼女が店に来た時の姿を…
…大きめなパーカーをフードを被って来たな
やばい…全くもって分からない
悩む素振りで彼女をチラチラ見るが、見る度に視線が冷ややかになっている…
○○:…あのさ…その変化って今の状態でも分かる?
男としては少し情けないかもしれないがこれを聞かなければいけない
返ってくる答えによっては彼女の問いの難易度が変わってくるから
瞳月:…そもそも昨日今日の変化じゃないです
瞳月:1ヶ月ぐらい前からです…
ますます分からない…
ここ1ヶ月シフトがほとんど被っていたから彼女のことは常に見ていた
でも特に目を引くような変化はなかったはず…
瞳月:ムゥ…
困って彼女の方を見ても頬を膨らませるだけで何も発してくれない
瞳月:ほんまに気づかないんですか?
○○:えっと……ごめん
これ以上考えても分からないので僕は白旗をあげた
○○:どこが変わったの?
瞳月:しょうがないですね……答えはこうですよ
彼女からの答えを待っていたら、僕の胸元に彼女が抱きついてきた
○○:えぇっ!?
瞳月:これで分かりましたか?
○○:いや…
瞳月:正解は、しーの先輩への気持ちでした
○○:…ほんと?
瞳月:ほんとですよ、しーは先輩のことが好きです
瞳月:先輩はしーのことをどう思ってますか?
僕を下から見上げる彼女と目が合う
すっぽりと収まった彼女の上目遣いを見ていると、自ずと答えは決まってくる
○○:俺は…瞳月のことが…
客:すいませーん!新札って使えないんですか!!
○○瞳月:うわぁああ!!
○○:すいません!直ぐに旧札と両替しますね!
瞳月:…///
危うく2人だけの世界に入りかけていたのを客からの一言で引き返される
瞳月:最悪や…ムードが壊された…
○○:…瞳月ちゃん
瞳月:今日バイト終わったら暇ですよね、さっきの答えもっとええ場所で聞かせてもらいますからね
○○:うん
バイトが終わったらどうやって彼女に気持ちを伝えようか…
厨房よりも火照った僕の身体は熱を増すばかりだった
fin…
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