『鱗羽の天使』の次回作(?)について妄想する
※本記事は『鱗羽の天使』本編の核心的なネタバレを含みます。さらに、トゥルーエンディング(全グッドエンディング網羅後のエンディング)の内容にも触れています。未プレイの方は引き返すことを強くお勧めします。
ネタゲー、イロモノといった烙印を押されがちな異種族系ビジュアルノベルゲームというジャンルにおいて、よく練られた設定や何重にも張り巡らされたプロットツイスト(どんでん返し)、そして奥行きのあるキャラクター描写によって一石を投じた作品、『鱗羽の天使』(Angels with Scaly Wings)。本作を制作したM. B. Saunders氏が次回作の制作に取り組んでいます。この"次回作"とは『鱗羽の天使』の次回作を指すわけではなく、制作者の次回作という意味です。この作品はまだ謎のベールに包まれており、その情報はほとんど明らかになっていません。
実のところ、前日譚Webコミックである『Angels with Broken Hearts』のPatreon向けプライベートDiscordグループではこの作品の情報が断片的に公開されており、制作の進捗やゲームのボリューム、中には音楽や映像なども一部お披露目されていたりします。ただ、これらの内容は支援者に向けたプライベートサービスとなりますので、ここで触れることはできません。本記事では、一般向けに公開されている内容を元に、この次回作の内容を勝手に妄想してみたいと思います。
2021年3月時点で本作について判明している点、逆に判明していない点は以下の通りです。
判明している点
・3年ほど開発が続いている
・ビジュアルノベルゲームである
・(ほぼ確定)ドラゴンが登場する
不明な点
・『鱗羽の天使』の続編、もしくは関連作品であるかどうかは不明
・そもそも『鱗羽の天使』の世界観を踏襲しているかどうかも不明
これらの情報を総合的に判断すると、氏の次回作は次のうちいずれかになると考えられます。
『鱗羽』とはほぼ無関係なドラゴンノベルゲーム
前作の世界観とは全く関係のない新しい世界観の上で成り立つ、ドラゴンをメインにフィーチャーしたビジュアルノベルゲームになるというシナリオです。
この場合、前作に登場したキャラクターや設定は引き継がれないことになります。カメオやイースターエッグといった形で断片的に登場する可能性はありますが、本筋に絡むことはないでしょう。前作のファンとしては寂しいところではありますが、制作者が一切のしがらみに囚われず、全く新しいゲームを一から作ることができるという利点もあります。M. B. Saunders氏のプレゼンテーション能力は既に前作で実証済みですから、これはこれでとても期待できる内容です。
『鱗羽』と世界観を同一にするが、本編とのつながりを持たないドラゴンノベルゲーム
『鱗羽』には回想でしか語られなかった内容が多々あります。例えばイズミが6500万年前の白亜紀末にタイムスリップしてから恐竜をドラゴンとして再創造し、その文明が花開くまでの数百年間、あるいは『鱗羽』本編から枝分かれした別の世界線などです。前日譚という可能性もゼロではありませんが、Webコミックという媒体で既に語られている以上、これは少々考えにくいです。イズミが竜世界を創造して間もない頃のストーリーなども魅力的ではありますが、人類がイズミ一人に限られる上、展開にも幅を持たせにくく、これもあまり伸びしろがないように思えます。
『鱗羽』のエンディング後を描く正統続編
無関係な完全続編というシナリオ以外で最も想像しやすいのは、やはり『鱗羽』のエンディング後を描いた作品でしょうか。本作には多数のエンディングがありますので、もし続編を制作するとしたら、いずれかのエンディングを正史として扱う必要性が生じます。この場合はやはりトゥルーエンディングから繋がる話となるでしょう。正統続編は制作者としても前作で築き上げたファンベースをそのまま活かすことができるため、魅力的な選択肢であると言えます。
トゥルーエンディングでは文明崩壊後の世界に数百万頭の竜と前作主人公が移住し、人類と竜が共同で文明を再建するという未来への展望が語られていました。Webコミック『AwBH』の人類編から見て取れるように、人類世界は荒廃した無政府状態の中で野党がうろつく危険な状況にあり、この世界で人類と竜が新たな政府を樹立し、共に生きていける世界を作るというのは容易なことではありません。復興、多様性、主権、協調といった題材をメインに、この復興を描くというのは中々面白い挑戦のように思えます。もし続編がトゥルーエンドの後を描く作品だったとしたら・・・という仮定の上で、もう少し妄想を広げてみたいと思います。
主人公はどうなる?
続編を描く場合、恐らく主人公はリセットされることでしょう。前作のキャラクターとの交友関係や下した決断と矛盾が出ないように続編で自由な行動を取らせることは難しいですし、彼(彼女)の主観も大きくなってしまいます。また、竜と人類の世界の復興を題材とするのであれば、主人公に求められる能力や生い立ちも変わってくるはずです。
前作のキャラクターはどうなる?
前作から続編までの間に経過した時間に依るところが大きいです。直後~数年程度であればメインキャラクター、つまりロマンス対象として再登場させることも難しくないかもしれませんが、何十年も経過した場合、メインキャラクターとしての登場は難しくなるでしょう。ただ、前作のメインキャラクターたちは人気も高いですから、例えメインでなくてもサブキャラクターとして登場するだけで物語を盛り上げてくれることでしょう。
レザはどうなる?
『鱗羽』でメインのヴィランとして登場し、大立ち回りを演じたレザ。トゥルーエンディング後の彼は竜たちに捕らえられ、恐らく彼らと共に人類の世界へと連行されたものと考えられます。
彼が竜世界で犯した罪は竜たちにとって許容できるものではないでしょう。彼には人類を救うという大義がありましたが、そのための犠牲として罪のない市民を手にかけたことは事実です。竜たちは厳しく彼の罪を問うことになるでしょう。ただ、人類側からすれば、彼の行動には緊急事態下で人類を最優先に考えるという理にかなった行動基準がありました。加えて、人類世界は無政府状態であり、立法、司法機関も存在しません。前作主人公が竜、そして人類双方を救ったという事情を踏まえ、双方の意思を反映した穏当な裁きになる可能性は高いように思えます。
この場合、レザには贖罪の機会が与えられることになります。自らの罪と向き合い、人類と竜双方が平和的に暮らす世界を確立するために奔走する…そういった役割が彼に与えられる可能性は十分に考えられます。
贖罪はストーリーテリングにおいて魅力的な題材の一つです。ビデオゲームでは『Red Dead Redemption』シリーズ、映画やドラマであれば『Game of Thrones』や『Avengers』、『Bojack Horseman』など、贖罪を題材にした傑作には暇がありません。彼に贖罪の機会が与えられるとしたら、なかなか面白い題材になるのではないでしょうか。
本記事を執筆したLuptasは前日譚コミック『AwBH』の有志翻訳者としても活動中ですが、この次回作の情報についても続報が入り次第、Twitter等でフォローアップしたいと思います。
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