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コーディネーターはスワンボートに乗ってⅤ③§ Lakta Vojo : Milky Way §
「ごめん。行きたくない」
「どうしたマルコ! お前がそんなこと言うなんて初めてじゃないか!?」
フリーコックは大げさに驚いたように見えたけど、チェルボもブランカも驚き顔で、これは相当珍しい、というか、あり得ない状況なのだ、と理解した。
マルコは、一度大きく息を吐いて、自分を落ち着かせているように見えた。そして、
「最初に見にきた時、岸辺で右の町の住民と出くわしたんだ……見た目で判断しちゃいけないんだろうけど、なんか凄く怖いなって思った」
「見た目が怖い? どんなふうに?」
マルコの複眼に、ズイッと迫るフリーコックが映り込んだ。何十人体ものフリーコック。なかなかのホラー。
黙るマルコ。グイっと身を乗り出すフリーコック。その肩を、ブランカはポンと叩いた。
「落ち着きなさいよ、フリーコック。とにかく嫌なものを行かせるのはナシだよ。私が見てみる。このくらいの塀なら……って結構高いわね。チェルボ、肩貸してくれる?」
「了解」
チェルボに肩車をしてもらうのかと思いきや、ブランカはチェルボを塀の前に立たせ距離をとった。そしてダッシュ。勢いよくチェルボの体を駆けのぼり、肩で弾みをつけてジャンプ。見事塀の上へ。圧巻のパフォーマンス。
「いいよっ! ブランカ、最高っ!」
拍手喝采のフリーコックに手を振り、ブランカは塀の向こう側を観察。そしてそこから、
「すみませーん! どなたか、門を開けて下さいませんかぁー!」
直球すぎて笑ってしまった。だけど直球のおかげで、すぐに門が開かれた。
門を開け、中に導いてくれたのは、ワンピースを着た、二足歩行の、でっぷりとした風貌。ぬめっとした体表、グリッとした目。口は横に大きく、まるでカエル。なるほど、マルコが怖がるわけだ。
陽気なおばさんカエルといった感じの住民と一緒に歩く。トラベラーヴォに寄生されているらしく、こちらの言葉にスムーズに反応してくれた。これは非常に安心できる材料だ。
町には田んぼのように水がはられた土地があった。懐かしさを覚える景色を眺めながら歩き、古民家風のカフェにつくと、おばさんは、ちょっと待っててね、と言って外に出た。次の瞬間、突然の大声。これは田舎の夏の夜に響くBGM、カエルの鳴き声。おばさん単体なのに音量が半端ない。
音がやみ、俺達が手を耳から解放すると、
「もうすぐ、ここにくると思いますよ」
おばさんカエルは、にっこりと笑った。どうやらここでは用件を声で知らせる仕組みのようだ。とんでもなくアナログだけど、見た目から言えば、まあ当然か。
ゆっくりしていってね、と残し、おばさんカエルは去った。ずっと緊張状態だったマルコが、へなへなと地面に落ちる。
「怖かった……なんでだろう」
それは本能だ。俺にはどうすることもできない。すまない。
かなりナーバスになっているマルコを、ボートに戻すか否か。話し合っていると依頼主がやってきた。
「すみません、この度は、遠いところありがとうございます。ラーノと申します……船着き場まで出るつもりだったんですが、大変失礼しました……」
依頼主も、やはりカエル系。おそらく若いのだろう。ぬめりがフレッシュな感じ。声はおばさんに比べると随分小さい。
「こんな辺境のポルクまで……わざわざ……」
深く頭を下げる依頼主。フリーコックはササっと歩み寄り、負けじと丁寧にお辞儀。
「この度は私共をご指名下さり、誠にありがとうございます。えーっと……できたらその、もう少し、大きな声でお願いできますか?」
「すみません、ちょっと緊張してしまって……昔から、声が小さいって言われてもいるんですけど、今日は、ますますこんなで……」
マルコを除くメンバーは、依頼主の言葉を聞こうと、じっと耳を傾ける。次第にジリジリとそばに寄ったものだから、依頼主を取り囲むようなカタチになってしまった。その時、
「おいコラお前ら!」
店の奥から大きなオヤジカエル登場。